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共創2015No.1

コ・クリエーションの最新事例を読み解く

2015/01/05

「コ・クリエーション(Co-Creation)」とは、多様な立場の人たち、ステークホルダーと対話しながら新しい価値を生み出していく考え方のこと。「共に」「創る」の意味から「共創」とも呼ばれます。
近年は企業がイノベーションで成功するために、社内外のパートナーとのオープンでフラットな協力関係づくりが欠かせません。コ・クリエーションあるいは「シェア」「コラボレーション」など共創の概念が、ビジネス戦略には必須です。
電通とインフォバーンが運営する共創のポータルサイト“cotas(コタス)”では、3回目となる、優れた共創の事例を顕彰する「日本のコ・クリエーション アワード2014」を開催しました。
当連載では、受賞事例や審査員の視点を通じて、共創のトレンドやムーブメントを読み解きます。

第1回は、アワードの審査員を務めたインフォバーン小林弘人氏、Blabo代表坂田直樹氏に、いくつかの受賞・ノミネート事例に触れながら、共創の今、そしてこれからを語っていただきました。
聞き手:南太郎(電通総研)

  左から南、坂田氏、小林氏  
 
左から南、坂田氏、小林氏
 

 

実は昔からあるコ・クリエーション。高度化・精緻化した事例が増加。

 

南:今回のアワードで受賞したベストケーススタディは、次の5つです。

 
 

Googleによる「イノベーション東北
株式会社ナイトペイジャー他による「nbike(エヌバイク)」
NPO法人グリーンバレーによる「神山プロジェクト
J-WAVE による「J-WAVE LISTENERS’ POWER PROGRAM『SOCIAL GOOD RADIO』
横浜ランデヴープロジェクト実行委員会、NPO法人スローレーベルによる「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014」。

 

 

南:ノミネート事例も併せて見ると、コ・クリエーションのレイヤーが高度化・精緻化し、深く理解して実践している事例がどんどん増えていると感じました。

小林:そうですね。コ・クリエーションという言葉が便利なので大きく使われていますが、実はコ・クリエーション自体は昔からあるのです。たとえば、掲示板に集うユーザーたちが集まって湘南でゴミ拾いをしたのもコ・クリエーションだと思います。むしろ狭い定義は必要ないと思います。

 

「スライス餅、どのような食べ方、使い方だったらもっと欲しくなる?」
予定不調和なアイデアは、余白ある質問から生まれる。

 
 
 

事例その1「とっとりとプロジェクト

 
  事例その1「とっとりとプロジェクト」  
 

鳥取県による中小企業を支援するプロジェクト。アイデアを募るためのコミュニティーサイト「とっとりと」を開設。県内中小企業と全国の生活者による新商品開発を始めた。

 

 

南:今回、受賞は逃しましたが、ノミネートされた「とっとりとプロジェクト」は、坂田さんが運営されているコ・クリエーションプラットフォーム「Blabo!」を利用しています。坂田さんがBlabo!でコ・クリエーションを実現するために気をつけていることは何でしょうか?

坂田氏  

坂田:一番困っている課題、真の課題を見つけることです。そのために「とっとりとプロジェクト」では地元の企業を回りました。意見を聞き始めたころは「お餅が売れない」という課題しか出てこないのですが、いろいろ話をしているうちに、「スライス餅が冬しか売れない」といった、より具体的な課題が出てきました。さらに「スライス餅は熱いものに乗せると溶ける」という情報も出てきた。これらに基づいてつくった問いが「あなたの家庭では、当たり前のようにスライス餅が食べられていました。どのような食べ方・使い方を提案されたらもっと欲しくなりますか?」でした。すると「朝スープを飲んでいるけど、それだけだとお腹がすくから1枚乗せたい」「アイスを乗せて食べたい」など、冬以外に概念を拡張したアイデアが240個出てきた。さらに、「そういった毎日の使い方ができるようなお餅の名前は?」という問いかけに対して「毎日が餅曜日」という名前が生まれた。そこまでいくと、もうパッケージデザインまで行きつけます。1個のアイデアを出してもらうことは、さほど難しくありません。しかし、300個のアイデアを出してもらうには、それだけの「余白」がある質問を設計しなければならない。特定のアイデアが欲しいからといって質問をシャープにしすぎると、アイデアが広がりません。思いがけないアイデア、いわば「予定不調和」をいかに生み出すか。それをどこまで拡張できるのか、ギリギリの設計をしています。

  小林氏

小林:コ・クリエーションは、オープンであること、そしてユーザー同士が直接つながり、シェアし合うというインターネットに根づいてきた文化がリアルにも拡張してきたともいえます。オープンイノベーションのマネジメントツールはたくさんあります。でも、大事なのは「コトの起こし方」であり、モデレーションです。多くの人を巻き込み、ヒントを見つけるためにも、質問することそのものにクリエーテビティーが不可欠ですね。

南:坂田さんの職業は「クエスチョナー」とも言えますね(笑)。

坂田:実はBlabo!を立ち上げた5年前は、質問をどうつくればいいのか分かりませんでした。そこで相談に行ったのがラジオの放送作家さん。その結果、とても良い質問ができました。コ・クリエーションでは「予定不調和」がおもしろい。ビジネスでは予定不調和は歓迎されません。でも、共創の成功事例が増えていけば、いまは「予定不調和」と考えられている事態が、逆に「予定調和」と認識されるようになるはずです。

 

ネットとリアルを何層にも織り込んだコ・クリエーション事例。

 
 
 

事例その2「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014

 
  事例その2「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014」  
 

アーティストと障がい者による現代アートの国際展。社会にあふれる「障がい」に気づき、ともに考える機会を創出することで、誰もが暮らしやすい街づくりの実現を目指す。

 

 

南:「予定不調和」の他に、今回のアワードからはどのようなトレンドが読み取れるでしょうか。

小林:価値創出をみんなでどうやって進めていくのかを考えるうえで、「パラトリエンナーレ」はおもしろいですね。オンラインも使っていますが、基本リアルで実施し、さらにアートに昇華されている点がユニーク。ネットからリアルへ、リアルからまたネットへ、というかたちにオン/オフでのイベントや情報発信を何層にも織り込んだコ・クリエーション事例です。

 

自治体によるコ・クリエーションが目立ち始めた。

 
 
 

事例その3「データシティ鯖江

 
  事例その3「データシティ鯖江」  
 

オープンデータを活用した市民が主役のまちづくりプロジェクト。2010年には市民の提案による「鯖江市民主役条例」が制定され、公共データの利活用に関する記述が盛り込まれた。

 

 

小林:あとは、自治体によるコ・クリエーションが目立ちました。政令都市や大企業の事例はもちろんすごいですが、政令都市は、予算も人も集められます。その一方で決してリソースが潤沢ではない自治体がしっかりやっていることがいい。

坂田:Blabo!を始めて5年たちますが、最初の3年は大企業中心でした。しかし、ここ数年は地方自治体や中小企業からも声がかかるようになりました。本当に困っているのは社内にクリエーターやプロデューサーが少ない方々なんです。

小林:オープンイノベーション・マネージメントツールやBlabo!さんのようなツールを使いながら共創を起こしていることは、非常に現代的です。昔だったら、著名プランナーを呼んで会議を開くのが定石でした。そうではなく、市井の人たちが集まって、おもしろいアイデアを出し合っています。今後、この流れは加速していくでしょう。そして、アワードのノミネート10件に残ったデータシティ鯖江の事例では、クリエーターの提案に「よし、やろう!」といえる市長さんがいた。未知への取り組み方や姿勢も重要です。

坂田:コ・クリエーションは、予定不調和や異質なものを受け入れられるスタンスがあるかどうかが鍵。それに、まったく違うカルチャーと一緒にやると楽しいですよ。

 

プラットフォーム事例だけでなく、成果物もアワード受賞。

 
 
 

事例その4「nbike

 
  事例その4「nbike」  
 

大田区の町工場が開発した新しい乗り物「nbike」。株式会社ナイトペイジャーを中心に、町工場10社が関わっている。インターネットで資金を募るクラウドファンディングを活用。

 

 

小林:またプラットフォームの事例に加えて、nbikeのような成果物がノミネートされるようになったのは、アワードを3年やってきた変化だと思います。

坂田:町工場の人たちがクラウドファンディングで資金を集めて、ソーシャルで販売するという流れは、いろいろなリソースがつながってひとつのプロダクトに集結しているということ。このプロセスをコントロールできるようになれば、再現性にもつながりそうです。

南:ファンディングからマーケティングまで、トータルでのコ・クリエーションプラットフォームの可能性がこれからますます広がっていくかもしれません。

 

コ・クリエーションはやみくもにワイルドでもいけない。
体系立ったイノベーションを分かった上で多様な切り口を事業化する。

 
  小林氏

小林:20世紀からのテンプレートでずっとやってくると、人材もそのテンプレートをうまく運用できる人、頭はいいけど偶発性や突発性からモノやコトを生み出すことが苦手な人ばかりになります。ですが、今はもうそういう時代ではない。柔らかい知性も必要になり、求められる人材や教育も変わってきています。ところが、そこになかなか踏み出せない。コ・クリエーションは、ひとつの突破口にもなっているのではないでしょうか。

坂田:難しいのは、やみくもにワイルドになっても何も生まれないこと。多様な人の知恵や視点から出てきた切り口をもとに事業化するという、体系立てたイノベーションや事業開発を分かったうえでのワイルドさが重要です。つまり、コ・クリエーションから生まれる予定不調和をサステナブルなものにするという、ある意味、二律背反なものをうまくコントロールしていかなければなりません。

小林:それには同意します。加えて言えば、イノベーションは“発見すること”であって特殊な何かを生み出すことばかりではありません。たとえば一橋大イノベーション研究センターの楠木建さんがおっしゃっていますが、クレジットカードは、現金を持っていない農家にトラクターを分割払いで買ってもらうために生まれました。ささいなことでも、かゆいところに手が届くとイノベーションになるんですね。イノベーションというと大げさなので、「イノベっちゃう」くらいの感じ。

坂田:「イノベっちゃう」、いいですね。まさにそれくらいのイメージです。実は、課題が発見できた時点で8割は解決していると思います。

 

コ・クリエーションはユーザーに解決策を求めることではない。

 
坂田氏  

坂田:マーケター時代、明日までにユーザーに意見を聞きたいと思ってもその方法がありませんでした。今日投げた質問に数百個の回答、切り口が欲しいという自分自身のニーズを解決するためにBlabo!をつくりました。

小林:ユーザーから意見を聞くというと、メーカーの方から、よく「素人の意見はおもしろくない、役に立たない」といわれることがありませんか?

坂田:コ・クリエーションを「ユーザーが解決策を出してくれること」と思っているなら、それは間違いです。ユーザーから得られるのは、あくまでも視点です。僕は「素人発想」「玄人実行」と、わけて考えています。編集やキュレーションは企業や自治体がやること。ユーザーの視点や切り口を集めて、自分たちのリソースにくっつける取り組みが大切です。

南:アウトソーシングではないのだから、そこまで甘えてはいけない。

小林:といいながら、天才的な発想が出てもたぶん採用しないですよね。自分たちを超えて飛びすぎているから。主催者側が試される面もある。結局、予定調和なものになりがちです。

 

改めて、コ・クリエーションとは。

 

坂田:ゴールは良いプロダクトをつくって、それが売れること。コンセプトをつくる能力は、まだプラットフォームに頼るものではなく、きわめて人間的な作業です。

南:今日のお話を聞いて感じたのは、コ・クリエーションとは他者との関わりから何かを生み出す取り組みであると同時に、自分自身を拡張していく取り組みにもつながるということ。余白のある質問を通じて建設的な予定不調和をいかに生み出すか。さらに、コンセプトをつくる行為はきわめて人間的な作業であること。本日は示唆に富むお話をありがとうございました。