第21回アジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF-21)9年ぶりに日本で開催

特別セッションレポート

アジア太平洋地域における宇宙技術の利用促進をはかる第21回「アジア・太平洋地域宇宙機関会議」(APRSAF)が12月2日から4日間にわたり、東京・江東区の日本科学未来館と国際交流館で開催された。文部科学省と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の共催。同会議での特別セッション「社会ニーズと宇宙の実利用」と「国際宇宙ステーションとその先へ」の模様をレポートする。

各国の宇宙技術の活用状況と相互協力の現状を関係者が報告

「社会ニーズと宇宙の実利用」と題された特別セッション1では、オーストラリア連邦科学産業研究機構のアレクサンダー・ヘルド氏をモデレーターに、各国の関係機関を代表するパネリストが、宇宙探査技術とその応用技術が社会的なニーズにどう応えるかといった観点から、現状の取り組みなどが報告された。

パネリストとして登壇したのは、以下の5人。

・JICA(独立行政法人国際協力機構)上級審議役 小西淳文氏
・バングラデシュ水資源開発局 モハメド・アリフザマン・ブーヤン氏
・JAXA(宇宙航空研究開発機構)衛星利用推進センター長 松浦直人氏
・インドネシア国立航空宇宙研究所 オルビタ・ロスウィンティアルティ氏
・フィリピン火山地震研究所 レナート・ウマリ・ソリダム氏

JICA(国際協力機構)の小西氏は、開発途上国へのODA(政府開発援助)における宇宙技術の最近の活用例を報告。ブータンでの「ヒマラヤ氷河湖決壊洪水に関する研究」、ブラジルでの「アマゾンの森林における炭素動態の広域評価」、フィリピンの「地震火山監視能力強化と防災情報の利活用推進」などの例を挙げながら、開発途上国の持続的成長のために宇宙技術の活用が重要であることを説いた。

バングラデシュのブーヤン氏は、リモートセンシング技術による環境管理の取り組みについて紹介した。国土の92%が河川流域であるバングラデシュでは、洪水対策が最重要課題。水資源開発局では、日本のJAXAのGSMaP(衛星全球降雨マップ)の情報に地上雨量計データを組み合わせて洪水情報を作成。その情報をショートメッセージサービスを通じて地元の人に伝え、農作物の栽培時期の調整や、水害からの避難誘導などに活用されている。ブーヤン氏は、宇宙情報の活用が緒に就いたばかりの同国では、最新技術の獲得とともに技術者の育成が急務で、APRSAFメンバー各国による協力を訴えた。

JAXAの松浦氏は、2014年5月に打ち上げた陸域観測技術衛星「だいち2号」(ALOS-2)からのデータの活用について報告。JAXAのGSMaPによる世界の雨分布速報では、複数の衛星からの情報を統合し、観測から約4時間後に世界の雨分布情報を提供している。松浦氏は、この4時間という遅延時間を当面は1.5時間に、将来的にはほぼリアルタイムで提供できるようにしたいと述べた。また、日本の気象衛星「ひまわり」のように、植生や大気・地表の温度などの情報も高い精度で得られる静止衛星を各国が持ち、その情報を組み合わせて活用すべきだと強調した。

松浦氏は、JAXAが実施している国際的な人材育成活動についても言及。APRSAFが推進する「センチネルアジア」(アジア太平洋域の自然災害の監視)といった国際プロジェクトを通じて、これまでアジア各国から160人程度の研修生を受け入れ、専門的な技術指導などを行ってきた。松浦氏は、「資金援助が必要な国にはJICAと協力しながら、今後も能力開発活動を続けていきたい」と抱負を語った。

インドネシアから参加したロスウィンテアルティ氏は、同国の「干ばつ監視システム」を紹介。インドネシア、特にジャワ島では、過去にエルニーニョなどによって干ばつが起き、農作物への甚大な被害が発生している。同国の国立航空宇宙研究所と農業省では、リモートセンシング技術を活用し、6カ月先までの干ばつ予測モデルを構築。農作業の意思決定などに活用されている。ロスウィンテアルティ氏は、大気や降雨の状況から水源や災害などについて研究する水文気象学からのアプローチだけでなく、最近特に懸念されている森林減少への対応も急務であることを訴えた。

フィリピンのソリダム氏は、JAXAと共同で行ったセンチネルアジアのプロジェクトから複数の事例を紹介。宇宙技術はこれまでにも、災害の被害データベースの構築や、一部地域の災害予測・警報活動による減災などに役立ってきたが、現在は、エリアを全国に拡大するとともに、火山活動の監視にも活用されている。ソリダム氏は、「減災には情報の迅速さが不可欠」としたうえで、そのための宇宙技術活用の有用性を強調した。今後もAPRSAFの各国との相互協力によって、国民の命を守ることに貢献をしていきたいと力説した。

国際宇宙ステーションを通じて、技術だけではなく“夢”を共有したい

「国際宇宙ステーションとその先へ~国際的な宇宙探査に向けて」と題した特別セッション2では、国際宇宙ステーション(ISS)を利用したアジア諸国の取り組みが紹介された。モデレーターを務めたのは、2014年9月にアジアから初めての宇宙探検家協会(ASE)会長に選出された野口聡一宇宙飛行士。ISSの日本実験棟「きぼう」での実験に参加したマレーシア宇宙庁のモハメド・ファイロス・アシラム氏、タイ国立科学技術開発庁のクリツサチアイ・ソマサモン氏と議論を交わした。

マレーシアでは、宇宙科学の研究は地上からの観測が主体。タイにおいては宇宙開発の専門機関がない。そのような中で「きぼう」での実験に参加したことは、両国の宇宙開発関係者に大きな達成感と期待をもたらしたようだ。

野口氏から「ISSがもたらした恩恵とは何か?」という問いに、まず、マレーシアのアシラム氏は、「『きぼう』で行われている微小重力環境での実験は、わが国の科学者や学生に新しい可能性を与えるものだ」と語り、宇宙飛行士プログラムを含む研究開発が次なるステージに向かうことに期待した。

一方、タイのソマサモン氏は、「『きぼう』では宇宙専門の技術者がサポートしてくれたので、自らの研究分野に集中することができた」と共同実験の成果に高い満足感があったとしたうえで、今後は、自国の地球観測用の小型衛星を使って、さまざまな実験などに取り組んでいきたいと抱負を語った。

ソマサモン氏は、国内で若者の宇宙教育にも積極的に取り組んでいる事例なども披露。英国の大学の協力でパラボリックフライト(低重力環境を生み出す航空機による放物飛行)での実験に高校生が参加したり、米国民間企業が開発している有人宇宙飛行船に搭乗予定の同国宇宙飛行士の小中学校での講演活動の様子などを語った。そのような活動を通じて、「将来ISSに参加する宇宙飛行士が生まれることを期待している」と夢をふくらませた。

また野口氏が、両国が今後、宇宙開発にどんな役割を果たしていきたいかについて尋ねたところ、マレーシアのアシラム氏は、2015年からの10年間で自国の宇宙探査技術を確立し、多くの科学者・エンジニアを育て、先進国の仲間入りを果たすという目標を表明。その際には、「将来世代のために宇宙ごみ問題に配慮したクリーンテクノロジーを使用したい」と語った。また、「隕石などから地球を守るための宇宙探査にも注力したい」と述べた。

一方、タイのソマサモン氏は、2つの期待を表明。1つは、宇宙開発先進国とのコラボレーション。「われわれは宇宙研究についての知見はまだ不十分だが、先端的な研究が進んでいる医療やロボティクス、ナノテクノロジー、農業などの分野では、各国と共同研究で貢献できる」と自負をにじませた。そして2つ目は、宇宙探査から派生したテクノロジーを使ったビジネス展開。「宇宙開発では、今までの知見を超えた新たな成果が期待できる。これまでもNASAが開発した技術として、眼鏡のコーティングや赤外線を使った体温計などがある」としたうえで、タイでもそのようなビジネス分野で貢献したいと語った。

両氏との議論を踏まえ、野口氏は、宇宙飛行士同士の国境や政治的な立場を超えた交流を紹介。「オリンピックの聖火を手渡していくように、国から国へ、人から人へ、情報だけでなくワクワクするような“夢”をつなげ、共有することで、より良い人類の未来を実現していきましょう」と提言し、会場からも大きな拍手が送られた。

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