DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~ #28

イノベーションをGoodにするために『レレバンス・イノベーション 顧客の共感を引き出し、行動を変える力』

今回は、アンドレア・コーヴィル/ポール・B・ブラウン著『レレバンス・イノベーション』(日本経済新聞社)を取り上げます。
原題はシンプルに『Relevance』です。関連性、と日本語では訳されることが多いですが、本書の中では「関連性」のほかに「自分事化」「つながり」「適切性」など、その時に応じてふさわしい日本語を使いながらレレバンスについて語っています。

レレバンスイノベーション

ハワード・シュルツは、スターバックスの店内からコーヒーの香りが失われていることに気づいた

レレバンスという言葉は、デービッド・アーカー教授も著書『カテゴリー・イノベーション ブランド・レレバンスで戦わずして勝つ』で使っています(この本の原題は『Brand Relevance』)。
アーカー教授の「ブランド・レレバンス」とは、商品カテゴリーとブランドの関連性を示しますが、本書で言う「レレバンス」は、生活者と商品やブランドが、さまざま形でつながることを意味します。

最近はエンゲージメントという言葉を使って、商品やブランドと消費者のつながりを重要視し、指標として考えていくことが一般的になってきましたが、レレバンスはつながりをもっと広く捉え、「商品やブランドが、その人が生きる上で重要な意味を持つこと」を指します。重要な意味を持つきっかけや理由は、もちろん色々あります。本書では、その色々なきっかけや理由を、主観的なものと状況によるものに分けて考えていきます。

主観的なものは、以下の4つに分類し、表紙にもある「レレバンス・エッグ」というモデルにしています。

■理性
価格が安い、性能が十分、近くの店で買えるなど、製品の特徴を合理的に判断する役割が理性です。理性によるつながりから、レレバンスが始まることが多くあります。

■感覚
商品の手へのなじみなどの使い心地、あるいは店の匂いやBGMなど、五感に代表される要素です。安心感や癖などもこのカテゴリーに入ります。
米スターバックス会長のハワード・シュルツは、店からコーヒーの香りが失われていることに気づき、様々な合理化の結果スターバックスがぬくもりのある近所の店ではなく、ただのチェーン店になってしまっていると指摘するエピソードに代表されるように、「感覚」とは過小評価されがちな要素です。

■協調性
人とのつながりや周囲との共通認識のことで、自分が所属する集団(会社や部署など)にふさわしい格好をする、時代に合った服装をする、肩身が狭いのでたばこをやめる、自分の所属する自治体や趣味の団体に貢献する、などの行動に代表されます。

■価値観
倫理・道徳・信条など、一人一人の持つ判断尺度を指します。ブランドに対するイメージや、環境を大事にする企業に対する共感度など、製品そのものに直結する要素もあれば、十代の若者が抱く反抗心なども含まれます。

そして、レレバンスが生まれるもう一つの要素である「状況」は、以下の3つに分けられます。

■コンテンツ
レレバンスを伝える、コミュニケーションを構成する要素。ウェブやその他のメディアにおける文章・画像・動画・音声などの情報や、会話による口コミがコンテンツです。
著者は、コンテンツの形態だけでなく「行間」としてユーモアなども一つの要素と考えており、先入観に囚われずユーモアあるコンテンツで「楽しい」銀行を印象づけた、米オクラホマ州のバンク・オブ・ザ・ウィチタズのインターネット・バンキング「レッドネック・バンク(田舎者銀行)」の例を挙げています。

■コンテクスト
空間と時間のことです。パーティーと野球観戦では着るものが違うように、場所やタイミングによりふさわしいものは変化します。ライフステージやライフイベントなど、ターゲットが置かれている境遇に応じたアプローチ方法を取ることでレレバンスを得ることができます。

■コンタクト
メッセージの発信源や、それを伝えるメディアとの接点のことです。自分の身近な人からアドバイスを受けるのと、知らない企業からダイレクトメールを送られるのでは受け取り方に大きな違いがあるように、また国内のニュースと遠い海外のニュースでは受け取り方が違うように、自分に関連のあるメッセージには耳を傾けやすくなります。

レレバンスを失わないように努力しなければならない

レレバンスの最終的な目標は、顧客に合っている製品、求めている製品を提供する、という基本的な、誰でも知っているビジネスでの成功方法です。しかし企業・組織は、効率化や上司への気遣い、社内調整などのさまざまな理由で、ブレがちです。レレバンスとは、顧客が望むものを提供するという理想に立ち返り、それを実現するための具体的なアプローチ方法です。

市場は常に変化するため、常に顧客とコミュニケーションを取り、レレバンスを失わないように努力しなければならないと著者は説いています。

レレバンスをなくしかけていないかチェックしよう
1 顧客の行動パターンを研究し、その結果に基づいた戦略を立てているか。
2 これまでに見たことがないビジネスモデルを、頭から否定していないか。
3 自分はなんでもわかっていると思っていないか。
4 心配性か。
(P134-135)

本書は多くの事例を紹介し、各章の終わりにはそのポイントと実践の方法ががまとめられています。
本格的なレレバンス調査は、1対1の聞き取り調査を大規模に行う必要がありますが、この本から考え方を学ぶことで、ソーシャルリスニングなどを活用してレレバンスをなくしていないかチェックできるでしょう。

イノベーションが成功するのはすばらしいアイデアが初めにあるからだと思われているが、これは間違いだ。
すばらしいアイデアは二番目に出てくるもので、イノベーションの本当の源は、すばらしい顧客インサイトにある。
(P42)

どんなにすばらしいテクノロジーを使ったイノベーションであっても、顧客のニーズに合わなければヒットしません。
イノベーションといえば、電通グループの企業理念は「Good Innovation.」ですが、成功するイノベーション≒Good Innovationを実現するには、本書でレレバンスによるアプローチを知ることは有効でしょう。

【電通モダンコミュニケーションラボ】

プロフィール

  • Take 05 6933 pr
    大木 天馬
    株式会社電通 第17営業局

    10年超の営業経験で、食品・飲料からエネルギー・通信、自動車・不動産まで、幅広い業種を担当。IT技術に明るく、情報システム局にて業務支援アプリの開発や、デジタル・プロモーション部門での企画立案、営業局でクライアントの研究技術を統合した近未来ソリューションデモのプロマネに携わるなど。

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