アタマの体質改善 #04

無理かどうかはひとりで決めない

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

前回ご紹介した「年賀状は、贈り物だと思う。」というコピーを書かれた岩崎俊一さんが、昨年12月20日に亡くなられました。原稿が掲載される直前の訃報だったこともあり、大きなショックを受けました。僕ら後輩の憧れの存在として、そして目指すべき存在として、まだまだ現場の最前線で活躍していただきたかったと、悔やんでなりません。

年末年始には、岩崎さんが東急沿線のフリーペーパー「SALUS」に連載し、書籍化された「大人の迷子たち」(廣済堂出版)を読み、西武池袋で開催された展覧会「昭和というたからもの」に足を運び、心にしみる言葉の数々を改めて味わい、追悼いたしました。
謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

拙著『アタマの体質改善』(日本経済新聞出版社)を読んでいただいた方々から、たくさんの感想や新しい仕事の機会を頂戴しており、たいへんありがたい限りです。

1月26日からは、5夜連続でJ-WAVE「LOHAS TALK」(毎週月~金曜・20時40分~)からお声がけいただき、ゲスト出演することになりました。今年もまた、こうしてまわりに支えられ、新たなチャレンジができる年でありたいと願うばかりです。

さて、2015年の連載は、そんな話題から始めていきます。
アイデアや企画を考えたとき、「こんなこと無理かも。難しいかも」とついつい萎縮してしまって、最初から諦めてしまう。そうならないためには、まわりを巻き込んで、その力をうまく借りること。無理かどうかはひとりで決めないという意識を持つことで、アタマの体質が改善されます。

Illustrated by Asami Kojima & Natsuko Shimamori

 

■まわりの力があってこそ、仕事は成り立っている

誰にでも、「無理」と決めつける自意識の壁があります。ようやく考えついたアイデアや企画を前に、「これ、本当に実現できるのだろうか?」と不安になるものです。

打ち合わせでみんなに提案しても、「こんなの無理」と一蹴されるのでは、とネガティブな考えに陥ってしまいます。その結果、自分ひとりで萎縮して、せっかくのアイデアを自らボツにしてしまう。そんな経験、みなさんにもありませんか。

僕は新入社員の頃、こんな経験をしました。
僕の社会人デビューは1992年。Jリーグが始まる前年で、日本中にサッカーブームの火がつきそうな頃。最初の配属地は静岡支社となりました。静岡と言えば、まさにサッカーが盛んな土地です。

実際に赴任してみると、老若男女、サッカー通の人も多く、その見る目も厳しいため、競技場でのヤジでも選手の技術に対する高度な指摘が多いことには驚きました。そんなこともあり、静岡ではひと足早く、街中がサッカー一色になっていました。

仕事では、Jリーグに参加した地元チーム、清水エスパルスに関係するようなことがたくさん待ち受けていました。担当クライアントにチームへ協賛してもらったり、所属選手を絡めた企画に携わるなど、サッカーの話をしない日は一切ないほどの状況でした。

そんな中、リーグの立ち上げ前年に行われた事前大会の決勝に、清水エスパルスが勝ち上がり、ヴェルディ川崎(当時)と対戦することに。
1992年11月23日、国立競技場、14時キックオフ。

試合前から地元は大フィーバーとなり、仕事のあわただしさもピークを迎えました。
協賛クライアントから、エスパルスの応援CMをつくりたいと依頼を受けたのも、そのタイミング。ところが、完成までに許された制作期間がわずか数日。とてもいい話ですが、あまりにも短い。「この企画、実現するのは無理だろう……」と思わず弱音を吐きました。

すると、周囲の先輩たちが「何をとぼけたこと言っているんだ。無理なんて最初から決めつけるな!」と、納期に間に合うように、次から次へと手配をしてくれたのです。
こうして多くの人たちに助けられ、決勝当日、応援CMは無事オンエアされました。残念ながらエスパルスは0対1で負けてしまいましたが、僕には忘れられない一日となりました。

翌年1月、サッカー熱はますます高まる中、日々奔走していた僕は疲労もあったのか、病気を患い、2週間ほど入院をすることに。病院でそれを告げられたときは、自分が携わっている仕事が全部ストップしてしまうのではないかと頭が真っ白になりました。

しかし、それは僕のまったくの思いこみで、ひとりよがりな考えでした。退院するまでの間、まわりからのフォローがあり、何も変わらず仕事が進んでいったのです。
「自分ひとりだけで仕事がまわっているわけではない。まわりの力があってこそ、仕事は成り立っている」と身に染みた経験となりました。

 

■まわりの人の心を動かせば、考えの幅がもっと広がる

新入社員時代のこの2つの経験を通して、仕事が実現できるかどうかは自分ひとりで決めつけない、目の前のアイデアや企画が困難だと感じても、その芽を自ら潰してはいけない、それが可能か不可能かは、まわりと相談しながら判断すればいい、と学びました。

その後、東京本社に異動してからも、
「全国主要都市のど真中に大きな壁を立て、街ゆく人にクライミングに挑戦してもらう」
「競合雑誌2誌の専属モデルが一堂に介したファッションショーを行う」
「東京都心の公園に、高さ40メートルを超えるクリスマスツリーを立てる」
と最初は困難だと感じるアイデアが、多くの人たちの力によって実現されていきました。

鼻で笑われたり、引かれたり、驚かれたりしても、思いと情熱を伝えれば、まわりの人の心を突き動かせる。そう信じれば、自分が考えるアイデアや企画の幅もきっと広がっていきます。

Illustrated by Tokuhiro Kanoh

プロフィール

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

    1992年、電通に入社。入社後3年半の静岡支社営業経験を経て、東京本社企画プランニング部門に異動。以後、広告企画制作にとどまらず、コミュニケーション全般の設計、商品や新規事業の企画、コンテンツのクリエーティブディレクションなど、仕事の領域は多岐にわたる。現在CDCに所属。これまでに、慶應義塾大学SFC研究所員(訪問)、大学や小学校での講師など、教育機関での活動も多数。出版関連では、重松清『夢・続投!』(朝日新聞社)、清水浩『脱「ひとり勝ち」文明論』(ミシマ社)、パパイヤ鈴木『カズフミくん』(朝日新聞出版)の企画に携わったほか、子ども向け絵本の制作も行う。著書に『アタマの体質改善』(日本経済新聞出版社)、『おじいとおばあの沖縄ロックンロール』(ポプラ社)。

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