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JAPAN Studies
識者と電通総研メンバーが
考える「新・日本力」

2015/01/26

始動!

電通総研 ジャパン・スタディーズ・グループ

2020年とその先に向けて、日本の魅力や強みを研究するチームを電通総研に創設しました。国内外の多彩な領域の方々とのつながり、そして電通の中の全てのリソースを生かした「ネットワーク型シンクタンク」を目指しています。電通ならではの独自なアプローチ、そして現代の風を読んだその先のカタチを一緒につくっていけるチーム力で、簡単には答えが見いだせない日本の未来づくりに寄与していきたいと考えています。


 

ネタのつきない国

南太郎氏
電通総研 プランニング・ディレクター

南太郎氏 電通総研 プランニング・ディレクター

「Yuck!(オエッ!)」。お弁当のおにぎりを包んでいる黒いモノ(のり)は海藻だと説明した時、同級生たちは一斉に顔をしかめた。1970年代後半、小学生の時に親の転勤で米国に行った際の体験だ。和食や弁当箱がクールと言われる日が来るとは当時は想像もしなかった。現在のジャパンブームからは、まさに隔世の感がある。

私が考える日本 の魅力は、ユニークな様式やアイデアを生み出し続ける、そのしなやかな能力だ。今後、日本の在るべき姿を描いていくためにも、そして産業の競争力を強化し ていくためにも、日本の独自性や独創性についての理解を深めることが鍵となる。日本人だけでなく、海外の人々の視点や行動力も積極的に取り入れて、日本の 新しい魅力を発見・創出していきたい。


怪談をワールドワイド・コンテンツに

東雅夫氏
文芸評論家/『幽』編集顧問

東雅夫氏 文芸評論家/『幽』編集顧問

明治時代このかた、日本について最も深く幅広い探究を行った人物として、民俗学の開祖・柳田國男の名を想起する向きは少なくあるまい。だが、柳田の日本研究が「怪談」の探究から始まった事実を知る人は少ないようだ。若き日の柳田は、江戸以前の怪談集や奇談随筆の類いを読みあさり、それらを手掛かりに日本の深層に迫ろうとした。なぜ怪談なのか? 怖い話や不思議な話、妖怪変化の物語には、人間心理の奥処(おくか)や社会の実相が浮き彫りにされるからである。

そのことを私は、東北の被災地を支援する目的で始めた「ふるさと怪談トークライブ」の活動を通じて痛感した。日本各地で怪談を語り合う過程で、それがいかに「土地の記憶」と結び付いたものであるかを実感させられたのだ。怪談を極めれば、日本の神髄が見えてくる。お化け好きを自認する海外の研究者やアーティストが急増しているのも、それゆえだろう。日本の深層を浮かび上がらせる怪談が、ワールドワイドなコンテンツとなる日は、近い。


教育都市、東京の多様性

小林亮介氏
一般社団法人 HLAB 代表理事

小林亮介氏 一般社団法人 HLAB 代表理事

MOOCs(大規模オンライン教育講座)の拡大により高品質の授業が無償で提供されるのに伴い、高等教育の価値は「授業の提供」から「場の提供」へと急速に変化しつつある。多様なコミュニ ティーを通じた共通体験の中で、世代や分野、国籍を超えてお互いから受ける学びが、一方向的な授業に代わる価値となりつつある。

日本の教育の国際化を求める声の裏には、「日本の大学は多様でない」という指摘がある。しかし、国籍だけが多様性ではない。国の最高峰の高校、大学の多くが、わずか30分 で行き来できる範囲に存在し、政治や経済の心臓部と重なる国際都市・東京の多様性を疑う余地は無い。問題はコミュニティーが多様でないことではなく、既存の多様性を教育に十分に生かす仕組みが存在しないことだ。学校という枠を超えて交流の場の提供が可能となったとき、東京は教育都市として、そのポテンシャ ルを発揮する。日米の学生と日本の高校生が合宿し、交流を通して学ぶサマースクール「HLAB」を運営する中で実感することだ。


「分からない」のも、大きな魅力

スプツニ子!氏
現代美術家/マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教

スプツニ子!氏 現代美術家/マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教

私の考える日本の魅力、それはずばり「WTF」なところだと思っています。WTFとは「WHAT THE F**K」の略。「意味分かんねー!」という意味なのですが、「WTF JAPAN」で検索してヒットしたページを見れば日本コンテンツに対する外国人の「ブっ飛んでて、訳分かんなくて、マジウケる、すげー!」というコメントがズラリ見られると思います。

私の卒業した英国王立芸術学院(RCA)も、修学旅行先は毎年東京。その理由を問うと「トーキョーには未来があるから」と教授たちは話していました。これまで日本がガラパゴス的に進化したからこそ、テクノロジーの在り方や使われ方が欧米と全く違う。だからこそクリエーティブやイノベーションのヒントにあふれているみたいです。

日本人は外国に「正しく分かってもらおう」とし過ぎる。農林水産省が「正しい寿司」だけを認証する“寿司ポリス”を提案したのもよい例。だけど日本の魅力を効果的に広めたかったら「正しいこと」なんてどうでもよい、外国人の「分からない」や「勘違い」を逆手に取って、ミックスして遊んじゃえばいいんです。勘違い上等で発信される魅力だってある。「WTF JAPAN」(意味分かんねージャパン)を国際PRの標語にしてもいいくらいです。


地域から始まる共創イノベーション

村越力氏
電通総研 主任研究員

村越力氏 電通総研 主任研究員

かつて、江戸の先達が山川草木の中で共創した里山文明圏は、幕末明治の外国人を陶然とさせました。今、「消滅自治体」が話題となる日本の地域はどうでしょうか? 知己の首長経験者は、「村越さん、地域の志ある首長はそんな懸念はとっくに織り込み済み!その先を見ていますよ!」と言います。

実際、地域でも、企業や自治体で領域を超え人々が連携するオープンイノベーション的取り組みが最近勢いを増しています。アートを通じた地域活性化、アイデアソン/ハッカソン、フューチャーセンターなど、社会課題とビジネスをつなぐ活動も活性化しています。私もささやかながら現場をお手伝いして感じるのは、場所もやり方も違えど、あちこちで韻を踏んだように、共創(コ・クリエーション)の動きが加速していることです。日本の魅力は、実はこのような地域発生的なイノベーション力ではないでしょうか。この21世紀の里山づくりに、あなたも参加しませんか?


TOKYO界隈戦略

白州達也氏
電通総研 研究主幹

白州達也氏 電通総研 研究主幹

東京国際金融センター構想の議論が進んでいる。戦略特区が新たな産業集積を生み出し、「知財プロデュース型金融センター」が誕生するかもしれない。しかし、東京が真の国際都市、文化都市になるためには、実は、界隈(かいわい)マネジメント戦略が重要なのではないか。

界隈の力とは、計画によってきれいに導かれるものではなく、そこに人が集い、新しい機運やトライアルマインドを持った人々の連鎖反応によって生み出される、独特の空気感を持った不思議なものである。

生きた街のエネルギーがあってこそ、ベンチャーやクリエーターが育ち、ユニークなコミュニティービジネスが発想され、魅惑の飲食店や個人経営のユニークな店があふれる。その結果、東京の輝きは高まる。この「新たな界隈性」をどのように非計画的に自然発生させるか、誘導できるかが鍵を握る。東京はこのような新しい都市開発スキルを育むことを可能とする潜在力に満ちているのである。「2020年&beyond」に向けて、私たちは積極的にチャレンジしていくべきだ。


「静けさ」と「言霊」

カルッピネン・めりや氏
フィンランドセンター所長

カルッピネン・めりや氏 フィンランドセンター所長
(写真=kunihiko takada)

私が好きな日本語、それは言葉や会話 の合間にある「静けさ」。日本語は、心が落ち着く。母国語のフィンランド語と同じ「言霊(ことだま)」があるからだ。英語では、前置詞が動作を強調する。 果てしない草原を馬で急いで駆けるように。一方、フィンランド語は、後置詞(テニヲハのように)が変化しながら語と語の関係に注意を払う。森の中では走り ださずに、今という時を人と共有する。この感覚は日本語に近い。

現在、渋谷の真ん中に住んでいる。驚いたことに、毎朝小鳥の声を聞き目覚める。込 んだ電車で人は「静けさ」に浸る。「静けさ」は、心の奥深くにある。もしもフィンランド人に対し、無口のままでも大丈夫と言ってもらえれば、これほどうれしい驚きはないだろう。日本人もフィンランド人も「静けさ」を持っているのだから。


アフォーダブルな国、日本

ヤン・チップチェイス氏
Studio D Radiodurans創業者/デザインリサーチャー

ヤン・チップチェイス氏 Studio D Radiodurans創業者/デザインリサーチャー

多くの外国人は日本は途方もなく物価の高い国だと思い込んでいる。外国メディアが1個20ドルもするリンゴなど、バブル時代を彷彿(ほうふつ)とさせる極端な事例を取り上げがちなことも一因だ。しかし、日本の最大の隠し玉は、質の高い生活をアフォーダブルな(値頃感のある)価格で享受できることにある。家賃や食費、都会での体験に至るまで、生活の質の高さの割には値頃感がある。もちろん、値段が手頃だからといって粗悪や二流ということは決してない。あまり知られていないこの日本の魅力は、より多くの外国人を引き付ける潜在力である。

※Studio D Radioduransは人間行動観察に基づき、デザインとリサーチ、戦略を提案する国際的なコンサルティング会社。

和食の持つ多様性

大屋洋子氏
電通総研 研究主幹/「食生活ラボ」主宰

大屋洋子氏 電通総研 研究主幹/「食生活ラボ」主宰

一昨年、日本の食文化がユネスコの無形文化遺産に登録されました。意識上、顕在化しているかどうかはともかく、このニュースは多くの日本人に自信を与え、アイデンティティーの再確認に寄与した のではと想像しています。電通総研の調査によると「日本人として海外に発信したい、誇りに思いたいものやこと」では、34項目中「和食文化」が圧倒的に1 位。これは「富士山」に2割近く差をつけての結果でした。

日本の食文化は、独自のベースや枠組みはありながらも、自在に応用拡大が可能。また、カ レーやラーメンといった海外出身で日本育ちのオリジナル食もたくさんあります。それがさらに海外で進化し、新しい和食メニューとして人気を博している…。 そんな柔軟性と多様性が、和食が海外から高い評価を得ている理由の一つではないでしょうか。和食のような「多様性」は、これからの日本(人)にとってます ます必要とされ、またそれが魅力となり得るのではないかと思います。


大企業がイノベーションを
興す力を持つ国

西口尚宏氏
社団法人Japan Innovation Network(JIN)専務理事

西口尚宏氏 社団法人Japan Innovation Network(JIN)専務理事

日本に限らず、既存企業からイノベーションを興すことは難しいとされる。社歴に比例して、プラスの暗黙知と共にマイナスの不文律も社内に蓄積されていくからだ。

私たちは「大企業からはイノベーションは興らない」という定説を覆すことをミッションにしている。経済産業省のフロンティア人材研究会で、日本の復活を目指してイノベーションに関わる議論を行う機会を得て、提言内容の実行団体JINを研究会委員有志の方々と共に設立した。

大企業からイノベーションを興す方法論は明確に存在する。イノベーション志向の経営者との連携を強化し、イノベーションを興し続ける企業を数多く生み出したい。世の中には解くべき課題(事業機会)があふれているとともに、どんな企業にもその課題を解こうとしている社内事業家がいるのが日本の魅力だ。


日本の看板は2枚ある

川口盛之助氏
株式会社盛之助社長/未来学者

川口盛之助氏 株式会社盛之助社長/未来学者

日本の形が次世代モードへと大変身を遂げつつある。年々悪化する貿易赤字を補うように、サービス収支(観光収入)と所得収支(海外子会社からの配当)が増えているのだ。モノづくり系の競合国ドイツや韓国を見ても、彼らはいまだに輸出で賄う構造のままだ。円高とデフレ不況の中をもがくうちに、わが国はオフショア化とサービス化を全速力で進めていたのだ。

製造業のみならずサービス産業の海外展開が著しい。学習塾や音楽教室などの早期教育から、宅配便やセキュリティーなど巡回ビジネス、ヘアカット専門店に高級老人ホーム、スーパー銭湯などなど、鍛え抜かれた接客サービスが世界に出張っている。

日本の看板とは、奥で寡黙に作り込む職人魂だけではなく、おかみのおもてなし精神でもあったことにあらためて気付かされる。女性活用では途上国の日本だが、おかみに日を当てることで職人の活躍の場もよみがえるだろう。国内外の政府機関からの招聘(しょうへい)を受け、研究開発戦略や商品開発戦略のコンサルティング活動を行う中で感じることだ。