デジタルファブリケーションが変えるモノづくり #01

カブク稲田雅彦氏インタビュー① オープンイノベーションでユーザーを巻き込んだモノづくりを

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    稲田 雅彦
    株式会社カブク 代表取締役 CEO
  • Profile hirakawa
    平川 健司
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 事業開発室 室長
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    水川 毅
    株式会社電通 Web&システム・ソリューション局 UXデザイン部
2014年9月に電通はカブクとデジタルファブリケーションによる製品開発や事業化支援、普及活動で連携していくことを発表し、さらに10月にグループ横断型のプロジェクトチームD3D(Dentsu 3D)を立ち上げました。3Dプリンターなどのデジタル製造機器でモノづくりがどのように変わっていくのか、カブクの稲田雅彦氏、電通の平川健司氏と水川毅氏が語ります。
D3Dプロジェクトロゴをバックに立つ電通水川氏(左)、カブク稲田氏(中央)、電通平川氏のフィギュア。ドイツ生まれのDoob社が持つ最先端のスキャニング技術などを用いて、すべて3Dプリンターにより"印刷"された。

ロットの制約なしにモノを作ってコミュニティーでユーザーと一緒に考える

平川:まず、D3D発足の経緯について話すと、電通はオープンイノベーションでユーザーを巻き込んだマーケティングやビジネスモデル構築をしたいと考えていますが、フレキシブルにユーザーの声に対応できるアプリケーション開発以外でそのようなソリューションが生まれない状況でした。そんな折に3Dプリンターのネットワークを作り、新しいモノづくりを行っている稲田さんが創業したカブクと出会い、新しいモノづくりを活用したフレキシブルなマーケティングができることがわかったのです。

新たな試みとしてモノづくりに3Dプリンターを使い、ユーザーとともに商品そのものを一緒に作っていくマーケティングを行って、モノが売れないと言われている時代に大きなチャンスを生み出せると考えています。

稲田:カブクでは、3Dプリンターを使ったデジタルファブリケーションのプラットフォームとしてrinkakを運営しています。製造業でなければなかなかモノが作れなかった時代とは違い、ソフト・ハード両面でテクノロジーが進化して環境が整ってきたので、誰でもモノが作れるようなすそ野を広げていきたいというのが狙いです。「モノづくりの民主化」をスローガンに、モノづくりをもっと開かれた世界で行えるようにしたいと考えています。

水川:では、企業が3Dプリンターやデジタルファブリケーションを取り入れたいと考えたときに、どこから手を付けたらよいのか、という話から始めたいと思います。

平川:稲田さんとは、ハードウエアのアクセサリーを作るということをよく話していますね。例えばiPhoneは利用者も多いので、多くの専用ケースが出ています。一方Android端末は機種が多くて端末個々の販売数がiPhoneよりも少ないので、ケースの種類も少なくなります。そういった意味でブランドの弱いプロダクトに対する周辺機器の提案などは、3Dプリンター向きのブランディング手法ではないでしょうか。これまで周辺ツールが少なかった機器ブランドでも、消費者とのエンゲージメントを深められるようになると思います。

稲田:従来のように金型からそのようなプロダクトをつくる場合、まずは最小ロットの制約が出てきます。ニッチな商品では周辺機器やアクセサリーを作りづらいので、流通量が多い商品に比べて圧倒的にアクセサリーが少ない状況となりますが、このような時に色々なデザインのアクセサリーを少量生産できるのが、デジタルファブリケーションの一つの価値です。

水川:iPhoneのように単一品で大きなシェアを占められる商品がない企業であっても、周辺機器などを手軽に作ってコアを強めることができるということでしょうか。

平川:ユーザーの色々なアイデアを取り込んだモノづくりができるプロシューマーといわれる人たちと、ブランドを作り上げていくことが今後できるのです。デジタルファブリケーションはソーシャルリスニングをモノで行うことができる可能性を秘めています。新しいブランドを作るときには、非常に有効な手段ですね。

水川:市場がニッチでも、ユーザーオリエンテッドなプロダクトデザインをしたほうが、より広がりが生まれ、新しいモノができるということですね。

平川:少しマーケティングの基本的な話をすると、企業は消費者を知っていれば消費者のほしいモノを作れます。消費者が何を望んでいるかがわからない場合、マーケティングリサーチします。しかし、今はニーズやその起点になる消費者の悩みのタネ自体がハッキリしていない時代です。このような状況では、消費者と一緒になって考えるしかありません。これまでは企業が技術や情報を持っていて、消費者がニーズを持ち、それをお互いが伝えればよかったのですが、市場が成熟・飽和してきて何を作ればよいかがわからない、消費者も何がほしいかわからないという中で、ニーズを的確につかむためにはオープンイノベーション型のモノづくりが必要となってきます。

それを個人ができるようにしようと考えて、戦略的にプラットフォームを作ったのがカブクのrinkakで、rinkakにコミュニティー機能を搭載しているのは、まさにユーザーを巻き込んでプロダクトを作りたいということだと思います。

稲田:そうですね。コミュニティーはど真ん中に置きたいと考えています。むしろモノはコミュニティーやプラットフォームに紐づくもので、モノ中心にrinkakを作ったわけではありません。たとえば、アップルがiPodを中心に考えるのではなく、iTunesが中心で、iTunesを聞くためのモノがたまたまiPodだったという感じですね。

新しい価値観で品質保証を変えた別ブランドでチャレンジする

平川:このようなコミュニティー中心のモノづくりの考え方は、どうすれば広まっていくでしょうか。

たとえば企業がコミュニティーを活用しようと考えたときに、Facebookなどのソーシャルメディアを使うことが多いのですが、コミュニケーションを取っているつもりでも、企業の一方的な発信にしかなっていない場合もあります。コミュニティーを真ん中に置く考え方が、従来型のモノづくりが定着している組織になじんでいないと思うのですが。

稲田:コミュニティーマネージャーがいる会社でも、広報の一担当者である場合が多いですよね。今後は商品企画と一緒に動く形になるかもしれませんね。

平川:商品を商品企画部や開発部の中だけで考えるのではなく、マーケティング部とともにユーザーと会話しながら考えていく必要があります。具体的には、よりユーザーフレンドリーなブランドを新たに作ることなどで、自分達に対して何かを返してくれる企業だとユーザーが捉えるようになってくるようになると思います。

水川:企業自身がその意識を持って動かなければならないと思うのですが、小回りが利く企業ならともかく、大きな組織では頭でわかっていても現実的に行動に移しにくいのではないでしょうか。

平川:セクションの壁を越えるには、モノづくりに対してユーザーの声を聞いてマーケットインするといったビジョンや経営者の強い意志が必要となります。それに合った組織やクロスファンクションチームを作る必要もあります。その点だと稲田さんはさまざまなメーカーの方とお話しされていると思いますが、そのあたりはどう感じていますか。

稲田:いわゆるセクショナリズムがあり、そのようなモノづくりをするハードルが高いなと感じることもあります。

平川:オープンイノベーション型のサービス開発をユーザーと一緒にやって、いざ世の中に出そうとすると、品質保証のセクションがストップをかけるという話は聞きますね。当然メーカーとしても製造物責任があるので、出す以上、エンドユーザーがどう使うかに合わせてかなり幅広い設計を行わなければなりませんし、企業やブランドとして“らしさ”のようなものを求めたい場合もあると思います。その一方で、ユーザーコミュニティを作ってプロシューマと呼ばれる人たちを集め、彼らとやり取りしながらプロダクトデザインをすることがこれからの時代肝になるのではないでしょうか。

稲田:マーケティングをどのようにセグメントしていくのかが重要です。コアブランドを作るという活動と、ブランドを大きく広めて販売していくという活動は違うのかもしれません。しかし、コアがなければ、強いブランドにはなれません。

特にモノづくりの企業では生活者との対話が少なく、商品企画の部門も消費者から見るとオーバースペックな基準を求めてしまう場合もあります。例えば、きめ細やかな洗濯ができる洗濯機も実はユーザーは単に1つの洗濯機能ができれば良かったり、温め機能だけの電子レンジで良かったり、携帯電話のテレビ機能は必要無かったりと。オープンイノベーションでユーザーを巻き込んでモノづくりをやってみると、実はそこまでの機能は要らないということもあるので、生活者を巻き込んで商品企画部門も変えていく必要もあります。

平川:そうですね。例えばスウォッチ・グループなども新しいモノづくりをする上でモデルケースになると思います。スウォッチのような大衆向けのブランドだけでなく、ブレゲやオメガなどハイブランドを抱えています。先に挙げたG-Shockと同じく基盤などのノウハウはグループ全体で共有しつつ、デザインによってブランドをうまく使い分けて、ポップだったり実験的だったりする商品を出しています。3Dプリンターを使ったモノづくりをする場合も、ブランドを分けると市場に出すまでの社内的なハードルも下がるのではないでしょうか。

電通も関わっている例だと家電ブランドのamadanaが商品企画プロセスを公開して完成までのプロセスを共創するプラットフォームamidusを出しました。基幹のパーツはamadanaを使い、商品企画やアイデアのあるメーカーがamidusでトライアル的な販売を行っていますが、ユーザーと対話して3Dプリンターで作ったさまざまなデザインの筐体を作っています。コアパーツであるモジュールとデザインを分けるという考え方で、ユーザーの好きなデザインで楽しむことができるようになってきます。

水川:コアブランドの部分とオープンイノベーションの部分をうまくブレンドして企業を変革するブレンダー的な役割の人が、企業内に出てくるよりは外から出てきたほうがよいのでしょうか。

平川:新たなプロダクトを生み出すためにアイデアがほしいメーカーと、アイデアはあるがメーカーとしてのリソースがない人のコラボレーションがオープンイノベーションです。新しいモノづくりを考えているデザイナーと、新しいプロダクトを作りたいと考えている技術者が組織の垣根を越えて出会ったほうがよい時期に来ていると思います。

水川:プラットフォームがあれば、出会うことができるというわけですね。出会った後にいい案が芽生えて、最終的に企業に戻ってきたときにはどう行動するのでしょうか。

稲田:その時点でテストマーケティングが半分終わっていると言えますよね。グループインタビューなどで定性的なヒアリングを行うのではなくいきなりプラットフォーム上で商品コンセプトを出して、そのデザインで“買うかどうか”の一番のコミットを得ることができます。3Dプリンターに話を戻すと、どのような人に対してどのような商品を投入するのか、そのターゲットに売るときにどのような見せ方をするのかといったことを考える際に、簡単にテスト商品を作ることができます。大きなロットで作っても利益が出る見込ができたら、今までのモノづくりに戻ればいいのではないでしょうか。

水川:なるほど。こういったメリットがあるのであれば、オープンイノベーションのプラットフォームを企業が使ってみたほうがいいということですよね。


連載第2回では、3Dプリンター市場や事例について水川氏が解説していきます。

また、このインタビューの後編は2月3日に掲載します。引き続き3Dプリンターに代表されるデジタルファブリケーションでモノづくりの何が変わっていくのかを探ります。

プロフィール

  • Ind pic1
    稲田 雅彦
    株式会社カブク 代表取締役 CEO

    大阪府出身。2009年東京大学大学院修了(コンピュータサイエンス)。大学院にて人工知能の研究に従事。修了後、博報堂にて新規事業開発に携わり、カンヌ、アドフェスト、ロンドン広告祭、TIAAなど、受賞歴多数。2013年株式会社カブク設立。主な著書「3Dプリンター実用ガイド」など。

  • Profile hirakawa
    平川 健司
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 事業開発室 室長

    新規事業開発およびアライアンスを担当。
    2000年~2009年にかけて、東日本旅客鉄道株式会社担当アカウントプランナーとしてモバイルsuica導入、電子マネー導入、企業提携支援作業実施。2009年には、政府エコポイント事業のプロジェクト・マネージャーとして事業設計からコンソーシアム運営までの業務推進を実施。省エネルギー等事業の推進も行う。最近では、中小企業・小規模事業者支援ポータルサイト「ミラサポ」にて中小企業支援施策のバリュー・チェーンを繋ぐことで中小企業のビジネス創造を支援。

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    水川 毅
    株式会社電通 Web&システム・ソリューション局 UXデザイン部

    1966年生まれ。コピーライターからキャリアを始め、CMプランナー、営業を経験。98年からインターネットビジネスに携わるが主にWEBディレクターとしてカンヌなど国内外の広告賞を50件以上受賞。2005年以降は電通の新規事業や、クライアントや、パートナー企業との事業の立ち上げを担当し、iPhoneアプリから事業プラットフォームまでを新たなビジネスモデルを作り出す。 共著に『企業のためのスマホ戦略羅針盤』。

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