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デジタルファブリケーションが変えるモノづくりNo.1

誰もがモノづくりできる時代に 3Dプリンターが世界を変える

2015/01/27

以前私が筆を執らせていただいた「個人と企業をつなぐコミュニケーション・テクノロジー」という連載の中で、3Dプリンターの活用とイノベーションについて紹介しましたが、電通でも昨年末に社内プロジェクト(D3Dプロジェクト)を発足することとなりました。(その連載がきっかけで私もメンバーの1人に抜擢されました!)

業界向けニュースだけでなく、一般向けのメディアでも取り上げられることが多くなっている3Dプリンターですが、実は今後が期待されているだけでなく既に私たちの生活に身近なところまで来ているテクノロジーでもあります。そんな実例も踏まえながら、デジタルファブリケーションの代名詞になりつつある3Dプリンターによるモノづくりの今をご紹介していきます。

3Dプリンターで誰もがモノづくりできる時代がやってきた

現在3Dプリンターと呼ばれているものの元になっている装置やテクノロジーは、1980年代に登場しました。現在は海外のメーカーが主要なプレーヤーになっていますが、当時は日本の研究者やメーカーも先進的な技術の発表をしていました。新たなテクノロジーにはよくあることですが、研究に並行して特許の申請がされ、これが業界全体を巻き込んだ製品開発を進めにくい状況をつくり出しました。

2009年になると、米国のStratasysという業界大手メーカーが保有していたFDM法(Fused Deposition Modeling)という技術に関する特許が切れました。いま「家庭用3Dプリンター」と呼ばれている製品(対になる言葉は業務用3Dプリンターです)は、このFDM法の特許切れにより安価に製造できるようになりました。

FDM法に続いて、2014年には最先端の3Dプリント技術であるレーザー焼結法の特許が切れはじめました。この年は3Dプリンターをテーマにした雑誌の特集などを多く見かけましたが、背景にはこのような経緯がありました。レーザー焼結法の特許切れにより、メーカーの参入がより活性化されており、市場もこれからさらに盛り上がることが予測(※)されています。

※客観的なデータとして、昨年の8月にガートナーから発表された「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2014年」によると「3Dスキャナ」と「企業向け3Dプリンティング」は市場からの「『過度な期待』のピーク期」や「幻滅期」といった淘汰の時期を乗り越えた「啓蒙活動期」に入っており、一般的なテクノロジーとして採用されるまでに2~5年と予測している。(参照:ガートナー「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2014年」http://www.gartner.co.jp/press/html/pr20140903-01.html

こんなものまで! “印刷”された身近な製品

プリンターの特許が切れたのはまだ最近の話だから、やっぱりまだ消費者には縁遠いテクノロジーなのでしょうか?そんなことはありません。3Dプリンターで“印刷”された商品は、じわじわと世に広がり始めています。

例えばアパレル。印刷した服や靴がパリ・ファッション・ウィークなどでお披露目されています。左の写真はその靴の一つです。ご覧いただいた通り非常に複雑なデザインの靴ですが、CADもしくはCGのデータさえあれば組み立てや縫合いらずで出力できてしまうのが3Dプリンターです。

コレクション用の製品以外でも、米国のメーカーが3Dプリンターを活用したスポーツシューズを販売しています。表面部にあたるアッパーが印刷した樹脂素材で作られ、運動中の激しい動きを支えられるデザインを実現したそうです。素材の自由度は年々高まり、木材やナイロンなどで作ったフィラメント(2Dプリンターでいうインク)に対応するプリンターも開発されていて、直近の話ではそれを用いた時計が発売されたそうです。

(参考:アルテック株式会社、Stratasys http://www.altech.jp/stratasys/campaign/itmedia/index.html

印刷された衣服がさらに普及するまでには、手触りなど表面の仕上げ技術、普段着としての着心地、洗濯への耐久性がありってなおかつ印刷できる素材の開発など課題があります。それさえ乗り越えることができれば、一人一人が自分の身体をスキャンして、文字通りジャストフィットの服が試着なしで手に入る時代が来るでしょう。店頭でも在庫が切れたらまた印刷するだけなので、“お取り寄せ”なんかを懐かしむ日は近いかもしれません。

重工業も“印刷”業に!?

身近な例としてファッションアイテムを取り上げましたが、それ以外の業界でもデジタルファブリケーションの実用に向けて様々取り組みがされています。自動車もその一つです。昨年米国でIMTSという製造業の見本市が開かれました。そこに出展したLocal Motorsという企業は、開催期間中に自社ブースで電気自動車(厳密にはボディーとシャーシ)を印刷して、会場内で走らせるところまで行い多くの話題を呼びました。他にはホンダの米国法人でも、自社で販売する車の3Dデータをウェブ上で公開しています。

車より価格もサイズも大きな物も、3Dプリンターで作るという試みが始まっています。オランダのアムステルダムでは、運河沿いに並ぶキャナルハウスをまるごとデジタルファブリケーションで建築してしまおうという計画が進行中です。さすがに家を一つのパーツで出力できる大きさのプリンターはまだないので、幾つかのパーツに分けて部屋などを作っていくそうです。ちなみに別のオランダ人建築家も「始点と終点のない家」というコンセプトで、∞のマークで知られるメビウスの輪を立体にした住居を設計して話題になりました。この家も3Dプリンターで印刷する構想で、完成までに1年半かかるのだとか。

鍵を握るのはデータづくり?

色々な事例を交えてデジタルファブリケーションの今を紹介しましたが、今後3Dプリンターの発展にはどのようなことがポイントになるのでしょうか。ひとつはオペレーティング技術があげられると思います。上にも書きましたが、3DプリントをするためにはCADかCGのデータを用意する必要があります。もちろん現在でも“家庭用”と呼ばれる3Dプリンターが販売されています。しかし本当の意味で家庭に普及して、例えば壊れた家具の修理パーツを印刷したり、Eコマースで配達してもらう代わりにデータを買って印刷は自分でしたり、ということを実現するには出力するデータを扱えるようになることが欠かせません。簡単にデータを作れるサービスが流行するのか、それとも3Dデータのオペレーターの市場価値が今でいうスマホアプリのプログラマーのように高まるのか分かりませんが、この分野のニーズは間違いなくあるでしょう。

昨今では、3Dプリントも含めた広い意味でのデジタルファブリケーションが体験できるFabCafeなどの施設や、オンラインでもD3Dプロジェクトメンバーであるkabukuが運営するrinkakなど、デジタルファブリケーションサービスが増えてきています。この記事を読んでデジタルファブリケーションに興味を持たれた方は、ぜひ新しいモノづくりの世界に飛び込んでみてはいかがでしょうか。