デジタルファブリケーションが変えるモノづくり #03

カブク稲田雅彦氏インタビュー② スピードと柔軟性が鍵となるデジタルファブリケーション時代のモノづくり

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    稲田 雅彦
    株式会社カブク 代表取締役 CEO
  • Profile hirakawa
    平川 健司
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 事業開発室 室長
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    水川 毅
    株式会社電通 Web&システム・ソリューション局 UXデザイン部

前回に引き続き、カブクの稲田氏、電通の平川氏と水川氏の3氏が3Dプリンターに代表されるデジタルファブリケーションでモノづくりの何が変わっていくのかを探っていきます。企業がオープンイノベーションを行うためのヒントや、海外との比較などが話し合われています。

D3Dプロジェクトロゴをバックに立つ電通水川氏(左)、カブク稲田氏(中央)、電通平川氏のフィギュア。ドイツ生まれのDoob社が持つ最先端のスキャニング技術などを用いて、すべて3Dプリンターにより"印刷"された。

モノづくりの開発サイクルが加速化してきている

平川:サービスとモノが組み合わさっていないとモノが売れないという時代だと思います。例えば、睡眠改善薬に睡眠アプリを付けたほうが、睡眠のことをよく理解でき、自分の睡眠状態をモニタリングできるというソリューションになります。モノづくりも、そういった世界に入っていくのではないかと思います。その商品をよく知っているのがメーカーではなく、一番よく商品を使っている人が一番知っているというように変わるのではないでしょうか。モノづくりはこれまでリサーチすることが難しく、前述のようにテスト商品を作ってマーケティング調査するために何千万もかけることはできませんでした。それが3Dプリンターを使えば、複数のテスト商品を作って市場に出してみて反応を見ることができます。モノづくりでベータ版を出せるようになります。このあたりに関しては、ぜひメーカーの開発者の人たちと会話してみたいですね。

稲田:近年のハードウェアベンチャーは、今までのモノづくりの開発ペースでは考えられないほど早くモノを作っています。デジタルファブリケーションで毎週のように製品をブラシュアップして出すことが行われており、ソフトウェアに近い開発サイクルになってきています。

平川:モノは触って使ってみて価値がわかるものです。最終的な商品が製造できる3Dプリンターもあるので、モックアップとは違う最終製品の生の感触を得ることができます。

稲田:僕が今着けているネクタイも3Dプリンターで作ったものですが、通常だったら金型を起こして、最低でも1,000個発注しないと作ってくれません。3Dプリンターなら、1個だけすぐに作って着けて外を歩けるし、よくないところがあったらすぐに作り直して次の日にまた着けることができます。

平川:オープンイノベーションやデジタルファブリケーションによって、さまざまな可能性が広がっていると思います。たとえば、南部鉄瓶をピンクやグリーンにすれば、中国で売れたりします。日本アイテムを日本人の思考の中で限定的に捉えていることと、外国人がそれを見てどう理解するかは違っていて、そのような発想は日本人だけでは出てこないのではないでしょうか。こんなモノがあると世の中に発信したときに、彼らがどのような造形コンセプトを投げ込んでくるのかに任せればよく、買いたい人がいて売れるモノが正解なのです。ジャパンブランドが売れなかった理由は、良くも悪くも日本の価値観だけでプロダクトアウトしていたのだと思います。

水川:寿司にアボガドを入れると言うと寿司職人は怒りますが、カリフォルニアロールだと言えば許されますよね。同じように、先ほどのコアブランドの話も、新しいブランドの話と棲み分けができればよいし、ブレンドもできると考えればよいということですね。

平川:アウトオブボックスで、自分達の思考の箱の外にチャンスがあるとしたら、それを開く可能性があり、モノづくりではチャレンジできなかったことにチャレンジできるようになると思います。

水川:言葉で聞いて理解はできても、ソフトウェアなみの速度感や変化を企業が実現するには、何が弊害となっているのでしょうか。

平川:おそらく、ロットや金型という概念がすべてを縛っていると思いますね。このロット、金型では採算が取れないといった感じで。その制約を外すのが3Dプリンターなのです。また、前述のように品質保証というルールも新しい製品をすばやく出せない制約よなっており、ロットや金型という物理的な制約を取り払えるにも関わらず、意識の制約があることも課題ですね。

責任や品質の考え方を変えていち早くデジタルファブリケーションに挑戦する

平川:オープンな場所で自分達の素材を提供して、ユーザーがそれを活用したということになれば、責任の所在はユーザーになります。そこにしっかりと監修する人が、今後のオープンイノベーション型のモノづくりで必要となってくると思います。一定の製品の責任を持てる人や、その場所でのユーザーとの約束を守り続けてコミュニケーションを取り続ける人も必要です。フラットなモノづくりができる環境を作らなければならず、電通とカブクがしっかりとやっていかなければなりません。

水川:コクリエーションの場をまさに今、作っていくということですね。従来のやり方とは違うオープンイノベーションのやり方があるという認識を持ってもらい、ルールを変えれば、違う新しいものができるということが単純に理解できれば、伝統ある企業でも、しっかりと切り分けて考えられそうな気がします。

平川:中のモジュールは同じでも、別のブランドなので、品質に関わるアグリーメントを変えればいいんです。それを覚悟して買うユーザーをコミュニティーに問いかけながら募って、新しいブランドを立ち上げていく必要があります。

稲田:チャレンジングなブランドを別に持つということですね。

水川:消費者のターゲットが細くなってきた、商品のブランド力が下がってきたという起業の悩みが、チャレンジすることで解決する可能性も出てきますよね。チャレンジすることができないから魅力が落ちていくのだとしたら、他のブランド名でチャレンジして、大丈夫そうであればコアブランドでチャレンジすることもできるでしょう。サービスなどとは異なり、モノづくりではこれまでそのようなチャレンジをしにくかったのが、デジタルファブリケーションで解き放たれようとしています。2014年が産業用3Dプリンターの特許が切れる年であるので、これからどんどん新しいモノづくりにチャレンジしなければなりません。産業用3Dプリンターが一気に安価になって、3Dプリンターで1万個生産できるようなメーカーが中国などから出てきてからでは遅いのです。それまでに、モノづくりの意識と速度を変え、日本のモノづくりの強みが質感なのか、クオリティなのか、モジュールなのか、フィニッシュワークなのかを把握しておく必要があります。

稲田:rinkakでは、クリエーターや生産者とメーカーのコラボを進めています。たとえば、地方の伝統工芸の人とコラボしてフィニッシュワークを任せて、藍染や漆、磨きなどを施しています。また、クリエーターと組んで違った見え方をするプロダクトを作ることもあります。

平川:オープンなモノづくりは、責任を持つところと他社に任せるところの責任分解点がはっきりしています。責任を全部取ろうとすると苦労しますが、オープンにすることで他社やユーザーに責任を分担してもらうことができます。どの部分で自社が責任を持たねばならないかを考える時期ではないでしょうか。

とは言え、あれこれと悩むよりも、まずやってみて、やってみたことによってコストなどが下がったことを示し、本格的に始めるということが重要なのだと思います。国内では、前述のamidusの例くらいしか出ていませんが、海外ではもう始まっています。たとえば、GEではソリューションや特許をオープンにして、それを使って他社が新しいモノづくりをすることを勧め、ファイナンスも行ってベンチャーも支援しています。スピンアウトの逆で、カーブアウト(事業分離)して、ソリューションがよりよいモノになれば、本業に戻したり、新会社を設立したりすればよいという考え方ですね。

稲田:GEの場合は、オープンにすることでエアコンなどが作られていました。エアコンなどはクローズドな環境でしか作れないものでしたが、新しいモノづくりを大企業しか作れないという時代が変わってきていると思います。

平川:日本人のモノづくりと海外のモノづくりは、根本的に違うのですよね。オープンなものを受け入れられる感覚が海外にはあり、日本では自分たちですべてをやり切らなければならないという真面目さがあります。それが自分達を縛っていますね。

やはり、新しいブランドはセグメントして分けておかないと、何かあったときの影響が本業に及ぶのは避けたいので、どのようにモノづくりをセグメント化して、負担を軽くできるかということが重要です。アパレル企業が必ずセカンドブランドやサードブランドを持っているように、モノづくりのセグメント化がやりやすくなってきていると思います。

水川:確立されたものがある企業が違うルールでやることは大変だと思っていましたが、そのようにセグメント化して分けることができる、別ブランドを作ればいい、と意識できれば、楽に広げていくことができますね。

稲田:ただし、モノを作る側に対してマーケティング部門が市場を意識させなければならないですし、それを意識した製作側がこれまでのモノづくりとは異なるデジタルファブリケーションを理解しどのようなルールで市場に出すかを、製作とマーケティングと品質保証の3者で綿密にコミュニケーションする必要はあります。前向きに新しいモノを作るという方向性やビジョンを経営者が示すことで、はじめて実現できるのだと思います。

プロフィール

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    稲田 雅彦
    株式会社カブク 代表取締役 CEO

    大阪府出身。2009年東京大学大学院修了(コンピュータサイエンス)。大学院にて人工知能の研究に従事。修了後、博報堂にて新規事業開発に携わり、カンヌ、アドフェスト、ロンドン広告祭、TIAAなど、受賞歴多数。2013年株式会社カブク設立。主な著書「3Dプリンター実用ガイド」など。

  • Profile hirakawa
    平川 健司
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 事業開発室 室長

    新規事業開発およびアライアンスを担当。
    2000年~2009年にかけて、東日本旅客鉄道株式会社担当アカウントプランナーとしてモバイルsuica導入、電子マネー導入、企業提携支援作業実施。2009年には、政府エコポイント事業のプロジェクト・マネージャーとして事業設計からコンソーシアム運営までの業務推進を実施。省エネルギー等事業の推進も行う。最近では、中小企業・小規模事業者支援ポータルサイト「ミラサポ」にて中小企業支援施策のバリュー・チェーンを繋ぐことで中小企業のビジネス創造を支援。

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    水川 毅
    株式会社電通 Web&システム・ソリューション局 UXデザイン部

    1966年生まれ。コピーライターからキャリアを始め、CMプランナー、営業を経験。98年からインターネットビジネスに携わるが主にWEBディレクターとしてカンヌなど国内外の広告賞を50件以上受賞。2005年以降は電通の新規事業や、クライアントや、パートナー企業との事業の立ち上げを担当し、iPhoneアプリから事業プラットフォームまでを新たなビジネスモデルを作り出す。 共著に『企業のためのスマホ戦略羅針盤』。

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