共創2015 #02

もはや企業だけでは商品価値をつくれない!?
~コ・クリエーションでイノベーションを起こす

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    住友 滋
    株式会社コンセラクス 代表取締役
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    京井 良彦
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター  プランニング・ディレクター

「コ・クリエーション(Co-Creation)」とは、多様な立場の人たち、ステークホルダーと対話しながら新しい価値を生み出していく考え方のこと。「共に」「創る」の意味から「共創」とも呼ばれます。電通とインフォバーンが運営する共創のポータルサイト“cotas(コタス)”では、3回目となる、優れた共創の事例を顕彰する「日本のコ・クリエーション アワード2014」を開催しました。当連載では、受賞事例や審査員の視点を通じて、共創のトレンドやムーブメントを読み解きます。

シリーズ第2回は、「日本のコ・クリエーション アワード2014」審査員で、コンセラクス代表の住友滋さんと電通ビジネス・クリエーション・センター未来創造グループの京井良彦さんの対談です。

京井さんの未来創造グループは、クライアントの未来をアイデアで創造していくビジネスチーム。広告の前の段階からビジネスパートナーになることで、よりよいアイデアを提供したいという発想から結成されました。アイデアジェネレーションだけではなく、流通からプロトタイプまであらゆるビジネスプロセスに適切な外部の力を活用していく共創マーケティング。企業にとって真の川上とは経営者ではなく顧客(生活者)という視点で、ゲームチェンジは成しうるのでしょうか。まだスタートしたばかりの共創ビジネスを探りました。

あらためて、なぜ今共創なのか

 

京井:住友さんとは一緒にいくつかのプロジェクトを進めていて、最近は頻繁にお会いしていますが、今日は最初に、あらためて「なぜ今、共創なのか」をお聞きしたいと思います。

住友:私がコ・クリエーションという言葉を最初に聞いたのは、2001年のことです。2001年といえば、ブロードバンドによりインターネットが一般的になった時期。その時代からコ・クリエーション(共創)が広く語られるようになってきた。そして今「できるといいね」だったコ・クリエーションが、「やらねばならない」ところまで来ています。それには、3つの要因があると思います。

1つ目は、大量生産・大量消費を前提とした成長モデルが限界を迎えたこと。グローバルな視点からも、ただ消費・成長すればいいわけではなくなってきました。日本の地域間も、世界の国家間も、限られたパイを奪い合う「競争」ではなく、革新するための「共創」をしなくては持続できません。

2つ目は、標準化とコモディティー化。誰でも同じようなものをつくれるようになったことで、ものづくりが垂直統合から水平分業になりました。各工程が特化され、ものづくりを自社内で完結することが難しくなる一方で、外部と組まないと競争力のある商品がつくれなくなってきています。

そして3つ目は、インターネットやスマートフォンの登場によって、ユーザーにとっての製品価値が、機能価値から「体験価値」に移ってしまったこと。たとえばiPhoneのユーザーにとっての製品価値はiPhoneそのものではなく、iPhoneで使うアプリが提供する体験に価値があるわけです。そして、その体験価値はアップルではなく、外部の会社が提供しています。アップルにとっては外部の会社にもiPhoneをうまく活用してもらう必要があるのです。

京井:僕は「商品ができたから、どう売るか考えてください」と言われても、もうその時点ではできることが限られていると感じます。共創は、ソーシャルメディアマーケティングの延長線上にも位置づけられるものです。一般的なソーシャルメディアマーケティングでは、最初のステップがリスニングで、最後のステップでコ・クリエーションにたどり着きます。ですが、現実には生活者の声をリスニングする段階で終わってしまうことが多いのも事実。もっと共創を企業活動の根幹に導入していくべきだと思っています。

 

冷蔵庫の材料だけではイノベーションはできない。

 

住友:企業が外部のリソースを活用できるようになるには、自己完結的な発想を変えなければいけません。インターネットによってユーザー間にコラボレーショングループができ、商品を買うことで得られるユーザー間の体験共有が、商品そのものよりも重要になってきました。たとえば人々がスマートフォンを競って買う理由は、スマートフォンが多機能だからではなく、FacebookやLINEといったソーシャルメディアで体験価値を共有する上で良い端末だったからです。また、生活者の視点で企業とのコ・クリエーションを考えると、できあがった商品を買うだけではなく、その商品の企画からマーケティングまでのプロセスを知ることや関わることで、商品の体験価値が高まります。

京井:生活者のニーズや欲求が「体験価値」にシフトしている。そうなると、もう企業は自社のみでは商品価値をつくれなくなっていて、生活者の力を必要としているということですね。

住友:別の視点からコ・クリエーションを考えると、コ・クリエーションとイノベーションは非常に近いキーワードだと思っています。イノベーションを実現するには多様なものが結びついて、今までと違うことを実現しなければなりません。僕は「冷蔵庫理論」と呼んでいるのですが、冷蔵庫を開けて、そこに入っている材料で料理をつくることはできるかもしれません。でもそれが、食べたい料理ではないかもしれない。私たちは、今すぐつくれる料理よりも先に「今食べたい料理」を求めています。「今食べたい料理」に必要な材料が冷蔵庫にない場合には、よそから持ってこなくてはなりません。生活者の情報が増大している現代では、生活者が食べたい料理の材料を、ひとつの冷蔵庫、つまり一社だけで全て持っている企業があるでしょうか。いまや生活者のニーズにこたえるには、外部とのコ・クリエーションが必須なのです。そして、何をつくればいいのかは生活者自身の声を聞くのが一番です。企業が主体になってコ・クリエーションを進めてしまうと、自分たちが持っているリソース、つまり冷蔵庫のなかの材料だけでつくることに意識が向きがちになります。今持っているリソースをどう使うかではなく、ユーザーの求めるモノ・コトを実現するためにはどういう材料が必要かを考えることが重要です。

「顧客インサイト」ではなく、「生活者の体験インサイト」

 

京井:ユーザーインサイトはどう考えればよいと思われますか。

住友:僕は「顧客インサイト」ではなく、「生活者の体験インサイト」がより大事だと考えています。企業や商品を対象に「顧客」のインサイトを探るだけではなく、顧客化していない生活者の生活体験の細部にどんなインサイトが存在するかを探る。たとえばクルマという商品について考えるときは、生活者の生活体験における全ての接点、すなわち購入前の検討段階から、購入、ドライブ、家族旅行、スポーツ、パーキング、渋滞待ち…といったライフスタイルによっても異なる生活者の生活体験に関わる全ての過程で、その「体験インサイト」を知ることが大切だと思います。

京井: そうですね、「顧客」という視点で考えようとしても自社商品との顧客接点にばかり目が行ってしまいがちです。生活体験のなかで、どこにサービスを提供する余地があるのかをまず最初に考えなくてはいけません。現状では、コ・クリエーションと呼ばれている取り組みのなかでも、生活者の声を聞いているようで実は聞いていないものも多いと思います。

住友:企業に共創視点を取り入れることの難しさがよくいわれます。大企業がいきなり「オープンだ」「シェアだ」と言っても、社風や業務プロセスを変えるのはとても大変なことです。既存の枠組み、組織でイノベーションを実現できるケースはほんのひと握りでしょう。しかも、それが正しい選択とも限りません。そこで必要なのが、既存の枠組みを生かしながらも新しい知恵をどう入れていくかという工夫です。たとえば、いきなりルールを変えるのではなく、コ・クリエーションの手法に長けたベンチャー企業など社外の組織を場として利用し、体験を共有しながら実践的に学ぶ機会をつくるのも有効な方法です。企業活動においては、経営者が、株主や株式市場に向け企業価値を創造すべく努力することも必要ですが、それだけでは不十分です。企業価値とは、本来は顧客を継続的に創造していくことで生まれます。生活者の体験インサイトを探り、生活者と一緒に商品やサービスを共創することが顧客の体験価値を高めることにつながり、顧客の継続的創造につながります。そのためには、企業活動の行動ベクトルを社内の上司や経営者目線ではなく、社外の生活者目線に向ける仕組みや、きっかけが必要です。その最たるものが、「生活者が熱狂的に欲している」という声を共創すること。それこそが、生活者インサイトですし、経営陣を説得する一番の材料にもなります。

京井:僕が所属しているグループ「未来創造」は、大それたネーミングかもしれませんが、クライアントの事業やマーケットの未来を創造するということは、顧客を創造することそのものです。従来のマーケティングは、「顧客を見つけ出して、彼らにどう売っていくか」を考えることが目的でした。ですが、もう顧客は探してもなかなか見つからなくなってしまいました。ならば、顧客を創造しようということです。それには、「生活者の体験インサイト」にもとづいてサービスを開発し、今までになかったものをつくり出すというイノベーションの視点が必要です。その手法のひとつが、ビジネスのプロセスに生活者に協働参画してもらって、一緒につくっていくこと、つまりコ・クリエーションです。商品とファンが一緒に育つことで顧客創造につながることを目指します。

住友:生活者の変化に合わせて、企業も変わっていかなければならないですね。

京井:我々の仕事は、プラットフォームとして、生活者と企業をつなげてコ・クリエーションを推進し、イノベーションを実現していくこと。今日のお話で、それが間違いではないと確信できました。本日は、ありがとうございました。


 

プロフィール

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    住友 滋
    株式会社コンセラクス 代表取締役

    東京都出身。ソニーで複数の社内カンパニーの立ち上げに参画。アサヒビールと合弁会社を設立、代表取締役就任。同社とソニープラザなど複数の子会社でMEBOを実施し、スタイリングライフ・ホールディングスを設立、コーポレートオフィサーに就任。その後、クオンタムリープでエグゼクティブ・ パートナーなどを歴任。2011年、コンセラクスを設立し代表取締役に就任し、GIエクイティパートナーズ取締役、amadana取締役副会長を歴任。大企業とベンチャー企業の共創、企業と個人事業主の共創など、Open Innovationの実践に取り組んでいる。現在もキュレーションズ取締役会長、テラ取締役、amadana顧問など複数のベンチャー企業の役員なども兼任している。MIT Sloan School MBA(Sloan Fellow)。

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    京井 良彦
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター  プランニング・ディレクター

    1969年生まれ。大手銀行でのM&Aアドバイザーを経て、2001年電通入社。
    営業局でグローバルブランドや官公庁など多岐にわたるクライアントを担当し、現在はソーシャルメディアやデジタル領域を中心とする戦略プランニング、コミュニケーションデザイン、共創マーケティングを手掛ける。東京都市大非常勤講師。著書に『ロングエンゲージメント』(あさ出版)、『つなげる広告』(アスキー新書)などがある。

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