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拡大する世界の広告市場
グローバル化とコンバージェンスが鍵

2015/02/20

2013年3月に発足した電通の海外本社「電通イージス・ネットワーク」(DAN)。ジェリー・ブルマンCEOの来日を機に行われたインタビューでは、2015年の展望とグローバル展開を志す日本企業に向けた思い、そして未来への戦略が語られた。


2015年も大きな変化の年

二つの潮流が大きな影響を及ぼす

──2015年の世界の広告市場をどう見ていますか。

ブルマン:14年と同様の水準で成長し4.5~5.0%伸びると見ています。中でもデジタル広告の伸び率は15%前後、特にソーシャルメディア、モバイル、動画では50%前後の大きな伸びが見込まれます。15年もデジタルメディアを通じたコンバージェンス(集中、収束)が急速に進み、市場全体が成長していくでしょう。エリアで見ると、英国や米国など経済が好調な国で成長が見込まれます。南米のブラジルは16年のオリンピックを控え成長が継続、アジアでは中国が市場のけん引役となるでしょう。広告市場が拡大する中、コンバージェンスとグローバル化という二つの潮流があり、広告主や広告会社、メディア企業に大きな影響を与えていきます。

──消費者購買行動の変化は。

ブルマン:最大の変化はデジタルメディアへのシフトです。それに伴い、15年のEコマース市場は全世界でさらに拡大すると予想されます。特に中国が世界最大の市場になるでしょう。デジタル化の進展がもたらすコンバージェンスによって、生活者とのコミュニケーション接点から購買までのプロセスが限りなく短くなり、一体化してきています。これは広告主にとって大きな可能性を秘めています。ソーシャルメディアやモバイルメディアの浸透、コンテンツの中でも動画へのアクセスが拡大する中、Eコマースの浸透は大きなトレンドといえます。

──変化に対応するために、広告会社に必要な能力とは。

ブルマン:コミュニケーション環境がどんどん複雑化し絡み合っていく中で、広告会社が専門性を発揮できる領域は広がっていると思います。私たちは今、全てがネットによってリアルタイムでつながるという新しいエコシステムの中でビジネスを進めています。全てのメディアチャネルをつなぐだけでなく、その購買行動も把握しなければなりません。検索エンジン最適化(SEO)やコンテンツの運用、そしてコミュニケーションのエコシステムから生み出されるデータの最大化、包括的なサービスの提供に関しても同様です。メガエージェンシーは膨大なデジタル資産を持っていますが、大切なのはそれらをどう活用するか。つまりこの新しいエコシステムをより効果的に活用し、デジタル分野でどう投資リターンを実現し、いかにより良い包括的なサービスをクライアントに提供するかがポイントなのです。

広告業界はモメンタムが重要
DANの能力は常に進化を続ける

―─DANの本格的なスタートの年となった14年の成果は。

ブルマン:13年の電通によるイージス・グループ買収は広告業界最大級の買収でした。その後、DANが業界最高の内部成長を14年に実現したことは特筆すべき点です。成長率は約10%で、業界平均の2~3倍で競合他社を大きく引き離していることは買収成功の証しといえます。クライアントから満足を得られただけでなく、世界中で新規ビジネスが成功を収めました。広告会社は“モメンタムビジネス”であり、強いモメンタム(勢い)を構築すれば、有能な人材やクライアントを獲得することができます。私たちはそのモメンタムを持っています。この成功は、DANが持つ有能な人材や、固有の経営戦略はもちろん、洗練されたサービスのたまものといえます。DAN傘下のブランド各社は実に強力です。DANは独自の協調的事業運営モデル“One P/L”※の下でビジネス展開しており、傘下のブランド各社がクライアントの利益のために協力して取り組むことができます。それはDANのビジネスの成長にも株主にも、大きな利益をもたらしています。

──DANのケーパビリティーとは。

ブルマン:私たちのケーパビリティーは常に進化しています。DANはデジタル分野、特に、SEM(検索エンジンマーケティング)/SEO戦略に強みを持っています。傘下のブランド各社は、クライアントのビジネスの動きを理解し、新しいデジタルコンテンツと消費者を結びつける必要性を重視し、データやコンテンツ活用を熟知しています。そして新たなインサイトを発見しています。急成長分野の一つ、プログラマティック(データに基づく自動的な広告枠の取引)でも質の高い知見を持っています。新しいコミュニケーションのエコシステムの中で、広告主には大幅な付加価値の向上というビジネスチャンスがあり、その支援こそが私たちの使命です。そのためには、グローバル規模で事務作業やサービス、データ管理の方法を進化させ、その過程で発生するコストを新しい管理プログラムによって軽減する必要があります。DANでは14年、インフラストラクチャー、IT、データ管理分野で大規模な投資を行いました。こうしてクライアントの利益のためにコンバージェンスに取り組み、グローバル化を推進することが私たちのビジネスのやり方なのです。

──15年はどのような展開を考えていますか。

ブルマン:急激に変化する市場で優位に立つためには、迅速な戦略の遂行が必要です。DANは14年に17件の買収を行いました。中には全く新しいケーパビリティーをもたらしたものもあります。例えばブラジルのNBSは規模が大きく業績も良い大手デジタルエージェンシーで、現地におけるビジネス拡大につながりました。15年、私が重視するのは、内部成長と人材の確保で競合他社を上回ること、そしてソーシャルメディア、モバイル、動画、プログラマティックおよび運用型広告、そして屋外広告の分野で迅速にメディアやサービスを開発し続けることです。

グローバル市場において日本企業は
急成長市場にも注力して成果を

―─優れた製品やサービスを誇る日本企業が、グローバル市場で十分な成果を挙げるためのヒントを教えてください。

ブルマン:日本企業は一度決定したら、その実践において優れたものがありました。決定までに時間がかかってもメリットはあったのです。しかし今は変化のスピードが速い。先ほど申し上げたようにグローバル化とコンバージェンスが生み出すビジネスチャンスへの対応を急ぐ必要があるのです。成長するスピードは世界で異なります。私たちはその中で急速に成長する地域に注目し、迅速に展開することで多くの利益を得ています。

──日本企業にとって有望な国・地域は。

ブルマン:開発途上国は市場として有望です。アジア太平洋や南米、あるいは欧州の一部地域も有望といえます。また、日本企業が得意な、高品質でハイスペックな製品やサービスであれば、先進国でも大いにビジネスチャンスはあります。私は米国と中国が新たな2大国になると見ています。広告ビジネスで合わせて60%のシェアを占める米国と中国で成功すれば、グローバルビジネスでの成功の道のりの70%を達成したといえます。欧州では英国が経済成長から市場として有望です。日本の景気が厳しい中、成長の機会は海外にあります。グローバル化とコンバージェンスを進めること、急成長市場に注力すること、米国と中国で強力なビジネス基盤を確保することが鍵です。

―─グローバル市場における日本企業クライアントへの支援とは。

ブルマン:DANはグローバル規模で競争力の高いサービスをそろえ、アジア、欧州、北米でネットワークを構築しています。私たちの売り上げの45%はデジタル分野によるもので競合他社に比べて高い。クリエーティブ、ブランド、コンテンツ、メディア、スポーツ、そして他のマーケティングサービス分野であれ、それらを結びつけることで真に包括的なサービスを提供できるでしょう。DANは日本企業のビジネスに、効率性、効果性、優位性を持った大きな付加価値を提供できると思います。既に多くの好事例が生まれています。

―─電通とDANのベストなコラボレーションとは。

ブルマン:大切なのは同じビジョンと価値観に基づいた企業文化です。世界にはたくさんの異なる文化がありますが、ビジネスでは企業文化を構築すれば、国籍や地理的な違いは関係ありません。Agile「機敏」、Pioneering「先駆」(さきがけ)、Ambitious「熱意」、Responsible「責任」、Collaborative「協働」からなるDANの強力な価値観は、電通の価値観とも共通するものです。“Innovating the Way Brands Are Built”(革新的な手法でブランドを創る)というDANのビジョンは未来志向です。イノベーションを通じて、従来とは異なる、最善のやり方でビジネスに取り組むことで価値拡大を目指しています。電通の企業理念は“Good Innovation.”で“Innovating the Way Brands Are Built”に通じるものがあります。同じ価値観を共有しているということは、グローバル事業を構築できるということです。日本は世界有数の経済大国です。同じ価値観を持つ電通とDANがアジアで強固な基盤を持っているということは特異で、市場でかなりの優位に立っているということです。私たちには何の障害もありません。買収を行い、協業を進め、業績に注力してきました。今後3年間でさらなる市場シェア拡大を目指します。

―─買収した企業にどのようにビジョンを伝えているのですか。

ブルマン:最良のビジョンは分かりやすくあるべきですが、DANのビジョンもそうです。私たちは従来とは異なる、より良い方法によって価値向上を可能にする企業を必要としています。規模のためだけではありません。企業買収で最も大切な点は人です。そこで働く人たちと彼らの仕事への熱意を獲得するということでもあります。重要なのは、その人たちが私たちのグループの一員になりたいと思っているのか、ビジョンを共有できるのか、ビジネスの価値を大きく向上させてくれるのか、といったことです。答えがイエスなら、買収は私たちの企業文化、ポジショニング、会社全体の価値向上につながるでしょう。

―─彼らはより大きなビジョンを持つことができるのですね。

ブルマン:その通りです。そしてビジネスをより迅速に進めるためのツールも彼らは獲得できます。スピードはこの市場で欠かせないものです。この20年の変化は革命といえるものでした。歴史上の革命も一般的に10~15年はかかっており、短時間で発生してはいません。メディア革命も同様です。変化は速く、コンバージェンスとグローバル化は急速に進んでいます。こうした環境でビジネスを進められるのは幸せなことです。


※One P/L…損益管理を国単位で行うことにより、グループ内競合を制限し、協働を促進する独自の仕組み。グループ内の水平組織とスペシャリストを融合させることで、クライアントへのベストなサービス提供を実現。