アタマの体質改善 #05

モノゴトをバラバラにする

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

脳科学者の茂木健一郎さんのお話を聴く機会がありました。テーマは「ひらめき脳の作り方」。まず驚いたのは、茂木さんから発せられる、あふれんばかりのエネルギーです。言葉だけではなく、身体すべてを使って伝えようと表現される姿に、思わず引き込まれました。

「初めてのことをたくさんやって、いつもワクワクドキドキすること」で、人間の感情を司る扁桃体(脳の中枢部)が鍛えられ、多くの新しい「気づき」が得られるようになる。そうすれば、今まで見逃してしまっていた偶然を発見するようになり、ある時それらがつながってひらめきが生まれる。さらに、もっと新しい挑戦をしたいという勇気にもつながる。

こんなお話をされる茂木さん自身が、それをいつも体現されていて、最初に感じたエネルギーの源はどうやらそこにあるようです。

拙著『アタマの体質改善』(日本経済新聞出版社)では、無意識になりがちなことを意識化することで、日常的に「新しい気づきを持つこと」をお勧めしています。

そうするために、自身の経験から導き出した考え方やトレーニング法が、茂木さんのお話と相通じるものがあることに気づかされました。そこで、ベストセラー「脳の強化書」(加藤俊徳著、あさ出版)や「脳には妙にクセがある」(池谷裕二著、扶桑社)など、他の専門家の著書を読んでみると、やはり考え方や内容が拙著のそれと重なっていることの偶然に、また驚かされたのです。

ある機会をきっかけに偶然を発見し、これまでは全く興味のなかった脳科学の世界へと誘われ、僕の中で「新しい気づき」が続々と生まれています。

さて、閑話休題。

幼い頃、「この中身って、どうなっているんだろう?」「どんなふうに組み立てられているんだろう?」と不思議に思い、中をのぞき見したり、分解して壊してしまったような経験があるのではないでしょうか。

そんな童心を思い返し、モノゴトの接し方や見方を時には変えてみることで、アタマの体質改善がされる方法を紹介しましょう。

Illustrated by Tsubasa Adachi

 

■分解の発想から、先入観や常識を打ち破る

ふらっと立ち寄った書店で、面白い企画を目にしたことがあります。

棚一面に並べられた366冊の本。それぞれには1年ぶんの日付が記されています。タイトルは『BIRTHDAY BUNKO あなたと同じ日に生まれた著名人の本』。

366人の著名人の作品が、それぞれの誕生日で分類され集められていたのです。

どれも、過去に発売された文庫本で、共通デザインのオリジナルカバーを巻いて販売するという、その書店独自の企画。すぐに自分の誕生日の作品を手にし、次に家族のものを見て、「こんどの誕生日に贈りものにするのもいいな」という気もちになりました。

同じような書店企画では、作品の書き出しの一文をオリジナルカバーにデザインして展開した「ほんのまくらフェア」。作家それぞれが思いを込めて書いた最初の一文を手がかりに、作品を選ぶ楽しみを提供しています。

どちらにも共通するのは、本のカバーには書名と著者名が目立つように表示されているという先入観や常識を打ち破っていることです。

本を構成している様々な要素(目に見えるもの、潜んでいるものすべて)から、読者に新しい興味を提供できそうなもの(著者の誕生日、本文の最初の一文)を抽出し、カバーで大きく訴求しています。

このように、モノゴトの要素をバラバラに分解し、アイデアや企画を考える方法があります。

 

■新しいものは入れ替え、抜き出し、追加して生まれる

僕はこれまで、クライアントの商品開発に携わる機会が何度もありました。
そんなとき、この方法をよく使っています。こんな手順です。

従来すでにあるカテゴリー(僕がかかわったのはビールやヨーグルト)ならば、それまでに発売されてきた自社や競合他社の商品を目の前に並べます。

また、いままでにはないカテゴリー(僕がかかわったのは新しい雑貨やトイレタリー)自体を考えるのであれば、その周辺や関連商品を代用します。

次に、並べた商品を頭の中でバラバラに分解していきます。パッケージの形状・素材・色・文字やデザイン、中身の原材料・大きさや量・重さ・色など、その商品を構成している要素を抽出していくのです。

ここまでは目に見えることですが、さらに原材料が採取された場所・商品が開発された研究所・生産されている工場、そして販売されている店・買っている人・使っている人といった、商品そのものには見えない要素へと想像を広げていきます。

よくわからないところは空欄にしたまま、できるだけたくさんの構成要素を挙げていく。空欄は必要であればあとから調べるとして、そこで悩まずどんどん分解します。

ひと通り分解が終わったら、各要素について「入れ替える」「抜き出す」「追加する」をいろいろ試していきます。まるでパズル遊びのように進めれば、先入観や常識にとらわれなくなり、自然と発想も柔軟になるのです。

ビールを例にとって説明しましょう。どれも、これまで発売された商品を想定しています。

ビールは工場でつくり出荷されます。ここに着目して、工場でつくられてから出荷する期間を「抜き出し」、これを3日以内にすることで新鮮さを売りにする商品がつくられました。

ビールは食事と一緒によく飲まれます。そこに目をつけ、和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたタイミングで、その要素を「追加して」、和食に合う商品が開発されました。

ビールの原材料は麦芽です。ビールの本場ベルギー産の麦芽に着目し、通常使っているものと「入れ替え」て、商品がつくられました。

分解する方法になぞらえれば、こんな感じで新たな商品が生まれたと考えられます。

これは広告の企画にも応用できます。
まずは商品の構成要素を分解し、その中のどれを「抜き出し」、伝えていくかを見つけます。それを引き立てるような演出を「追加する」、あるいは商品を他のものと「入れ替え」て比喩表現することで注目されるように、と考えていくわけです。

この方法を自分のものにするためには、時おり、身のまわりにあるものを頭の中でバラバラに分解してみることから始めてみましょう。

慣れないうちは、一部分だけでもいい。子どもの頃、おもちゃを分解して壊してしまった、あんな無邪気な感覚で大丈夫です。すべてを網羅しようなんて考えず、途中でやめてもかまいません。わからないところは空欄のまま、とにかく進めましょう。

目指すのは、モノゴトをすぐに分解できるようなクセをつけ、ここぞという場面でアイデアや企画をどんどん考えられるようになることです。

 

Illustrated by Tokuhiro Kanoh

プロフィール

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

    1992年、電通に入社。入社後3年半の静岡支社営業経験を経て、東京本社企画プランニング部門に異動。以後、広告企画制作にとどまらず、コミュニケーション全般の設計、商品や新規事業の企画、コンテンツのクリエーティブディレクションなど、仕事の領域は多岐にわたる。現在CDCに所属。これまでに、慶應義塾大学SFC研究所員(訪問)、大学や小学校での講師など、教育機関での活動も多数。出版関連では、重松清『夢・続投!』(朝日新聞社)、清水浩『脱「ひとり勝ち」文明論』(ミシマ社)、パパイヤ鈴木『カズフミくん』(朝日新聞出版)の企画に携わったほか、子ども向け絵本の制作も行う。著書に『アタマの体質改善』(日本経済新聞出版社)、『おじいとおばあの沖縄ロックンロール』(ポプラ社)。

バックナンバー

関連記事

続きを見る
ページ先頭へ