で、結局サービスデザインってどう実践すればいいの? #03

個人間送金、女子大生ブログ…一体何が起きている?

  • Ywatanebe1
    渡辺 大和
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター

前回までは、サービスの利用環境や、ユーザーとの関係性を課題とする体験価値重視の考え方への思考の転換について説明してきました。

今回は、機能自体は普遍的なものを引き継ぎながらも、スマートフォンでの高い体験価値によって成長している事例をサービスデザインの視点から分析してみます。今回ご紹介する事例から一般化できるポイントは、そのサービス体験をするユーザーのシチュエーションを考慮し、ユーザーの情緒価値にフォーカスして考えることが重要ということです。

表層の機能から設計に落としていくのではなく、ユーザーの体験価値/情緒価値というモノサシでの考え方を、サービスアイデア開発の現場でご参考としていただければと思います。

あらためて言うまでもなく、2010年代以降のサービスを取り巻く大きな潮流として、スマートフォンが普及する中でスマホの利用率が増えるとともに個人の能力を補助するツールアプリケーションが出そろい、市場として成熟が進んでいます。この流れの中で、これまで既存の企業体が担ってきたサービス・機能が、「スマートフォンの環境に適応したサービス」の提供者たちによって取って代わられるようになりました。

スマートフォン時代の銀行?アメリカで広がる個人間送金アプリ

最近、国内外の金融分野でスタートアップ発のITイノベーションが活性化しています。これらの金融×ITの新興サービスはFinTechと呼ばれ、アメリカでもトップベンチャーキャピタルの投資案件数・投資額ともに上位を占める割合が急激に増えています。

その中でいま、Venmoという個人間送金アプリがアメリカで急速に広まっているのをご存じでしょうか。Venmoは、ユーザー同士であれば手数料無料で簡単に送金ができ、お金を請求する時は、ボタンを押すだけでスマートに督促できるというスマートフォンアプリです。 

 

たとえば大勢で食事や飲み会をした際に、一人が立て替えて後から割り勘するという誰でも一度は経験したことがある場面でVenmoは力を発揮します。会計を立て替えた人が残りの人たちに”Venmo me!”と言うだけで、皆スマホを取り出しvenmoアプリを立ち上げ、送金を行う光景はアメリカの若者の間では日常的になっていると聞きます。その中にVenmoを持っていない人がいても、面倒な登録を経ずにすぐに使えるようになるため、決済手数料ゼロという強力なインセンティブも働いてサービスが自然にバイラルしていきます。まさに、サービス設計自体にサービス成長のエンジンが組み込まれている一例といえます。

事実、2012年3月にローンチしたこのVenmoは、ユーザー数は非公表ですが、米国における2014年第2四半期のモバイル決済取扱高が4.68億ドルで、前年同期に比べて347%増という驚異的な伸び率で普及しています。

Venmoはスマートフォンの普及という環境にうまく適応し、銀行やお財布が提供している体験価値を上手に定義し直したことにより、ここまで短期間で普及したサービスです。

Venmoでは2タッチほどの簡単な操作で送金が完了する。

スマホシフトに適応できなかった巨大掲示板

逆に、スマートフォンの普及というサービス環境にうまくアジャストしなかったサービスの例としては「2ちゃんねる」があります。かつては巨大掲示板として、会社や商品、個人に至るまでほとんどの評判がそこに毎日のように書き込まれ、匿名で毒舌に書き込まれるレスの数々を閲覧する爽快感や、面白い発言が「神」とあがめ奉られる世界観に没入するユーザーも多数いました。

しかし、もともと2ちゃんねるでは携帯端末からの書き込みは読みにくいとされ敬遠される文化があったことや、日本のスマートフォン市場の主流になったiPhoneからの書き込みが長期間にわたって規制されていたことなどの要因により掲示板に書き込むことへの体験価値が著しく低下しました。それがコンテンツクオリティーの低下を呼び、スレッドを読むだけのユーザーも去ったことで、サービスとしての衰退が進んでしまったと推察されます。

2010年代になって、まとめサイトの隆盛によりスレッドのアーカイブ化が進んだものの、名スレ・名コピペと呼ばれる記事の日付をよく見てみると、時事ネタ以外では2010年以前のものが多く見られ、これは2ちゃんねるのスマホサービスとしてのアジャストの遅れを表しているといえます。

スマホ時代のイラストはオリジナリティー>クオリティー

現在のサービス環境に合致した形で、匿名の面白さや毒舌コメントなど、かつて2ちゃんねるの持っていた体験価値をうまく部分的に切り取っているテキストコンテンツの一例として「暇な女子大生が馬鹿なことをやってみるブログ」が挙げられます。

2ちゃんねるの持っていた性質の中でもインタラクティブ性の高い体験については、Twitterなどのサービスに機能分化していきましたが、基本的にほとんどのユーザーはROM(Read Only Member、自らは書き込みをせず他人の書き込みを読むだけのユーザー)のため、その機能の面ではブログが元来提供するファンクションだけで事足ります。この種の読み物コンテンツをさらに拡散するドライバーとして、イラストが重要視されています。イラストによって人に伝わりやすくなったり、個人のSNSでも紹介されやすくなる効果があります。ただほとんどのユーザーはコンテンツをスマートフォン上で読むため、イラストのクオリティーについては、画面がワイドなPCでの閲覧と比べてハードルがさほど高くないという傾向があります。クオリティーの代わりに求められるのは独自性です。バイラルメディアなどが隆盛し、テキストだけのブログは簡単にパクられてしまうという今の環境の中で、「暇な女子大生ブログ」は上手さを追求しない独特のシュールな絵で様々な身の回りの事象を面白おかしく表現したことでインターネット上で唯一無二のオリジナリティーを担保し、昨年はソーシャル上でも大きな話題となり多数のファンを獲得しました。

プロフィール

  • Ywatanebe1
    渡辺 大和
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター

    IT系ベンチャー起業などを経て、2013年電通入社。スマートフォンアプリを中心としたサービス開発や、エスノグラフィ調査に基づくコミュニケーションプラン策定などに従事。

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