Dentsu Design Talk #49

「心地」をつくる、未来のデザイン。(前編)

  • Irobe profile
    色部 義昭
    株式会社日本デザインセンター 色部デザイン研究室 グラフィックデザイナー/アートディレクター
  • Yagi profile
    八木 義博
    株式会社電通 CDC クリエーティブディレクター/アートディレクター

1月15日に行われた電通デザイントーク第128回のテーマは『「心地」をつくる、未来のデザイン』。日本デザインセンターのグラフィックデザイナー 色部義昭氏はVIからSPツール、パッケージ、展覧会のグラフィックからサイン計画など、平面から立体まで幅広くアートディレクションをしつづけている。「東京デザイン2020フォーラム」では街(銀座)のサイン計画実証実験を発表するなど、人の気持ちに無意識に働きかけて人の心持ちや気分を変えるような公共空間へと思考を発展させている。電通のアートディレクター 八木義博氏は、そんな色部氏の仕事に以前から注目してきた。優れた2人のアートディレクターが考える「未来のデザイン」をめぐるトークを、2回にわたって紹介する。

企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀

 

ディテールの積み重ねから全体を形づくっていく

色部:グラフィックデザインって知っているようで知らない。そんな印象を持つ人が多いんじゃないでしょうか。ロゴ、タイプフェイス、本のデザイン、色の設計、店内装飾、広告、モーショングラフィックス、パッケージやダイヤグラム…その領域は、意外と多岐にわたります。その際、グラフィックデザイナーは「単純に美しくしたい」からはじまり、「集客したい」「ブランディングしたい」「空間の中を分かりやすく誘導したい」といった様々な具体的な要求を受けます。こうした要求にデザインを通じて回答しながら、人の心に働きかけていくのが僕たちの仕事です。アートとデザインはよく比較されますが、僕はデザインは“回答”だと思っています。知ってもらうためのデザイン、好きになってもらうためのデザイン、買ってもらうためのデザイン、来てもらうためのデザイン、分かりやすくするためのデザイン、ルールを理解してもらうためのデザイン…こうした一つひとつの「~ための」に、常に1回1回向き合い、それに誠実に応えていくのが自分のスタイルだと思っています。

八木:色部さんは、僕にとって注目し続けてきた才能の一人です。同じデザイナーとして、色部さんのデザインへの姿勢やプロセスにとても興味を持っています。いくつか、お仕事を紹介してもらえますか。

色部:千葉県佐倉市の川村記念美術館のロゴマークを制作した際には、館内サインを同時にデザインすることを提案しました。特徴的なサインを空間のほうぼうに埋め込み、点在させることで空間全体のアベレージを上げることができます。ロゴは美術館の外にいる人へのコミュニケーションですが、サインは来館者へのコミュニケーションだと考えています。来てくれた人に対するコミュニケーションがむしろ大事で、ロゴとの連続性で一定の質感をつくれれば、その場のクオリティが高まりますと話しました。

八木:色部さんの仕事はすごく細やかで解像度が高い。そういう部分が積み重なって、だんだん大きなシルエットになっていく印象を受けます。どんな仕事でもタイプフェイスを作るという話も聞いたことがあります。たとえ3文字しか使わなくても、AからZまで全部作るとか…。色部さんにとって、ディテールはどのくらいのウエイトを占めますか?

色部:ディテールばかり見過ぎると全体性がなくなるのが難しいところですが、僕はディテールから全体を作っていくこともあります。特に美術館のような場所は、細かいディテールを積みあげて全体を作る方が効果的です。

八木:広告会社のアートディレクターは全体のディレクションから入ります。広告ではディテールは後回しになりがちなので、僕はいつも色部さんが対岸にいるように感じます。でも、アワードの場などで不意に同じ土俵に並べられると、「ああ、ここまで考えてやらないと恥ずかしいな」と思ったりする。

色部:ディテールには意外とデザインのヒントがいっぱい落ちているんです。だからそれを拾いに行くような動きをしています。美術館に行って周りの環境や人の動きを観察してみるとか…。

八木:確かにディテールから大きなコンセプトにつながるヒントが見つかることはありますね。全体とディテールの両方を行ったり来たりして考えている方がまとまることがあるのは不思議です。海外広告賞のデザイン部門で審査をしていると、日本はディテールが評価されがちですが、本当はダイナミズムと繊細さ、両方が欲しいんですよね。

 

一週間で消えるポスターでも長期的な視点で作りたい

色部:デザインスタジオnendoの佐藤オオキさんの作品集『nendo:in the box』は、驚くべき精度で作られたインテリアの模型を撮影して本にしたものです。模型というコンテンツに合わせて、本のサイズそのものを小さくしました。nendoでは色をマテリアルとしてインテリアを作ります。そこで、この本もプロジェクトに使われるキーカラーを使い3色展開にしています。本がスタジオに陳列された時にインテリアになるイメージで作りました。

八木:色部さんは1回分解して、構造からデザインを考えていきますよね。本を単に読むものではなく、建築的に捉えているようです。

色部:本は写真や文字などの情報を収納しているビルみたいなもの、というイメージです。

八木:だからそういうアイデアが出てきて、長期的に使えるデザインになるんですね。広告の仕事の多くは数カ月で無くなってしまいます。でも、デザインには長期的な視点が必要です。3年続けているJR東日本の「行くぜ、東北。」は、ポスターを作るというより、景色を変えたいと思って取り組んでいます。

色部:「行くぜ、東北。」は何度も目にしています。一つの世界観をつくりつつも、たまに意外性もあったりするのがいいですね。もう、ある種の公共性を持った存在になっているように感じます。いつも楽しみにしています。

八木:たとえ1週間で消えるポスターでも、積み重なっていくから、長期的な視点は常に持っていたいと思います。そうすることで次の打ち手を思いついたり、広告の質ももっとよくなるかもしれないと思っています。

色部:広告は次の展開につなぐ布石をうまく打ちますよね。それは僕も同じで、しつこく本の意味を考えて、ただ読まれて終わるだけではない何かを残そうとします。「行くぜ、東北。」のキャンペーンにも、その粘りを感じます。

八木:最近ではローカル線をテーマにしたポスターとTシャツを作りました。写真の撮り方もがらっと変えています。

色部:始まった最初はグラフィック主体だったのに途中から写真メインになったのはなぜですか?

八木:スタート時は震災直後で、節電モードで暗い雰囲気の中、「東北の景色ってきれいでしょう?」みたいな写真を撮るのは違うなと思いました。だったら、ガツンと頭を殴られて景色が変わるような、元気になるポスターにしようと思ったんです。今見たら自分でもよくやったなと思います。あの時だったからできたんでしょうね。

色部:新しいものが出てきたなと感じたことを、鮮烈に記憶しています。

※後編は3/7(土)掲載予定
こちらアドタイでも対談を読めます!

プロフィール

  • Irobe profile
    色部 義昭
    株式会社日本デザインセンター 色部デザイン研究室 グラフィックデザイナー/アートディレクター

    1974年千葉県生まれ。東京藝術大大学院美術研究科修士課程修了。日本デザインセンター色部デザイン研究室主宰。主な仕事に川村記念美術館のVIとサイン計画、銀座地区公共サイン実証実験、「TAKEO PAPER SHOW 2011─本」のアートディレクション、リキテックスアートプライズのグラフィックツールなどがある。CI/VI、グラフィックツール、ブック、エディトリアル、パッケージ、ブランディング、サイン計画などグラフィックをベースに幅広くデザインを展開している。SDA最優秀賞、JAGDA新人賞、JAGDA賞、東京ADC賞、ONE SHOW DESIGN金賞など国内外のデザイン賞を受賞。2011年から東京藝術大非常勤講師。2014年度グッドデザイン賞や年鑑「GRAPHIC DESIGN IN JAPAN 2015」などで審査員を務める。

  • Yagi profile
    八木 義博
    株式会社電通 CDC クリエーティブディレクター/アートディレクター

    1977年京都生まれ。国内外をステージにし、ノンバーバルなビジュアルコミュニケーションで、グラフィックデザインや商品ブランディングなど、幅広いクリエーティブを展開。
    主な仕事に、JR東日本「行くぜ、東北。」、日本郵政企業広告、パナソニック、ホンダ、メニコンなど。東京ADC賞、佐治敬三賞、毎日広告デザイン賞 最高賞、アドフェスト グランプリ×2、D&AD Yellow Pencil、N.Y.ADC金賞、Cannes Lions金賞など受賞多数。最近では「Honda. Beautiful Engines.」が、2015年のアドフェストにおいてDesign / Booklet部門で最高賞のグランデをはじめ、その他部門でゴールド、ブロンズを受賞したほか、JR東日本「行くぜ、東北。」は、3部門においてブロンズを受賞。また「行くぜ、東北。」は、同年のOne ShowにおいてもBest in Design、Goldを受賞した。

バックナンバー

関連記事

続きを見る
ページ先頭へ