3Dプリンターが変える未来のモノづくり

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    平川 健司
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 事業開発室 室長
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    稲田 雅彦
    株式会社カブク 代表取締役 CEO
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    京井 良彦
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター  プランニング・ディレクター

2014年、3Dプリンターにおけるハイエンド技術の特許切れと同時に、さまざまな事業分野での実用化が急激に加速し、世界各国で、産業や社会に変革をもたらす可能性のある取り組みが始まっている。3Dプリンターは何を可能にし、どのように世界を変えていくのか。新たなモノづくりのプラットフォームに取り組むrinkakとamidusと共に検証する。


真の3Dプリンター時代の幕開け

 

米ストラタシスが保有していた家庭用3Dプリンターの特許(FDM法)が切れ、廉価な機器を中心に市場が広がったのが09年。新奇性から話題になることも増えたが、「プラスチックのフィギュアが作れる」程度のイメージで捉えられることも多かったようだ。14年、金属など多様な素材が使えて、高度な造形が可能な業務用高機能機器の特許(SLS法)も切れたことで、各分野で本格的な取り組みが顕著に。真の3Dプリンター元年となった。

3Dプリンターで何ができるのか。まず、造形の自由度が飛躍的に高まる。多数のパーツを組み合わせたり切削して作られていたものが、一体成型で物体化される。今まで量産や実現そのものが難しかった複雑な形状も、安定して作ることができるようになった。デザインやファッションの世界で新しいアイデアが次々に具現化されている中、特に注目を集めているのが医療分野での応用だ。人体をスキャンした3Dデータから、手術に備えて病変組織のレプリカを用意したり、義足などの人工装具は既に実用段階に入っている。日本では1月、3Dプリンターを用いた移植用臓器の技術開発に政府が25億円の支援を表明した。

3Dカー
3Dプリンターで製作された世界初の車、米ローカルモーターズ「ストラティ」。1月のデトロイトオートショーでもデモ走行した。年内発売予定。

また、中空成型で軽量化と強度向上が同時に実現することにより、航空宇宙産業をはじめ、車や船舶、建築など、大きくて強度や耐久性が求められるプロダクト領域で期待が高まっている。高精度の造形が可能である一方で、金型を必要とせず一点からでも出力できるため、ロットへの対応も柔軟にできる。さらに、工程が省略されることで、大幅なスピードアップとコストダウンにもつながる。製造業を中心に、生産の現場にも大きな影響を及ぼしつつある。調査会社カナリスによると、グローバル規模での市場は13年の25億ドル規模から、18年には162億ドルにまで拡大するとみられる。

アムステルダム_3D
アムステルダムの伝統的なカナルハウスを3Dプリンターでよみがえらせるプロジェクトを、オランダのDUS Architectsが14年にスタート。画像は完成イメージ。

「売れない時代」のオープンイノベーション

 

平川 健司(電通ビジネス・クリエーション・センター事業開発室 室長)

モノが売れにくい時代だといわれています。消費者自身、自分が何を望んでいるか分からなくなっている。ここで注目を集めるのが、企業と消費者が一緒になって行う「オープンイノベーション型のモノづくり」です。ネットの領域ではすでに見られる手法ですが、3Dプリンターの登場で、フィジカルなモノづくりにおいても可能になりました。

オープンイノベーション型のモノづくりでは、技術を持つ企業が消費者と対話しながらブランドを創出します。3Dプリンターでモノのベータ版ともいうべきプロトタイプでの検証を重ねることで、商品が市場に出る時点である程度需要やターゲットがつかめています。発売後も対話を継続しながら改良・進化させ、息の長いブランド醸成につなげることができます。また既存商品でも、3Dプリンターを活用してアクセサリーなどの周辺アイテムを多彩に用意することで、ブランドエンゲージメントの深化が図れるでしょう。

IoT(モノのインターネット)の世界的な流れの中で、モノは単体ではなく、サービスとの組み合わせで売る時代になってきています。ならば、商品を一番よく知っているのはそれを使っているユーザーで、企業の思考の外側にビッグチャンスが存在します。3Dプリンターによってロットの束縛から解き放たれることで、「プロシューマー」(producer=生産者とconsumer=消費者を掛け合わせた造語)と共に需要そのものをつくり出す、新しいマーケティングが始まっているのです。3Dプリンターの登場でモノづくりは爆発的に加速しつつあります。そこから生まれ出る多数の優れたアイデアを、企業がキュレーションし、マスへと拡大する。さまざまな企業と一緒に、未来の「モノづくり日本」のビジネスモデルを形づくる一翼を、電通が担っていけることを目指します。


ものづくりの民主化へ

 

稲田 雅彦 氏(カブク代表取締役 CEO)

今までは一つ商品を世に出すためには、試作品と本制作で1年がかり、金型の採算が取れる最低ロットが設定され、販売が不振に終わると在庫を抱えるリスクもありました。ソフトウエアの世界ではパソコンが1台あれば、アプリも映像も音楽も作れます。カブクでは3Dプリンターという手段の登場を契機に、モノづくりにおいても個人で簡単に参加できるプラットフォームがつくれると考え、rinkak(リンカク)を立ち上げました。

アプリ制作やアフィリエイトなど、ネットでは個人が収入を得られるシステムがすでに確立しています。モノづくりでも海外では、「エッツィー」などの個人のハンドメードプロダクトのマーケットプレースが急成長していて、日本にも流れが来始めています。rinkakはそのデジタル版ともいえます。

rinkakでは樹脂や金属などの素材や使う色数などに対応して、日本をはじめ欧米や東南アジアなど、世界の3Dプリント工場と提携しています。プリンターは価格にして数百万円から高いものでは億を超えます。ユーザーはデータを用意してワンクリックするだけ。瞬時に条件に合致する3Dプリンターにつながり、製造管理チェックと制作費用の算出が自動で行われます。制作にかかる日数は1週間程度で発送もこちらでやります。手数料はアップストアやグーグルプレイ同様に売り上げの30%で、残りはユーザーの収入となります。3Dプリンターへの注目の高まりとともにrinkakへのアクセスも急増しています。プロのクリエーターから主婦や学生まで、幅広い層の方が自分のアイデアをプロダクト化しています。

rinkakとは? rinkakとは
「作りたい・売りたい・買いたい」を実現する、3Dプリント技術を使った新しいものづくりサービス。ユーザーはrinkakのサイトに3Dデータをアップロードするだけで、高性能な製造設備でプロダクトを製造・販売できる。

地産地消のネットワークづくりも積極的に行っています。岡山の藍染めなど日本各地の工房と提携し、主に仕上げを職人にお願いしています。3Dプリンターであらかた作り、最後の工程を職人が手掛けることで、見え方が大きく変わります。これからも日本の伝統工芸の魅力を最大限に引き出していきたいと考えています。

教育にも、力を入れています。3Dプリンターが、爆発的に普及する時期は必ず来る。扱える人を育てることは急務です。海外では義務教育に取り入れようとしている国も出てきていますが、日本はまだまだ。カブクでは、子どもが遊びながらデータを作れるアプリを教育会社に提供したり、地方の大学生を対象としたトレーニングプログラムなどの活動を行っています。プログラミングの先、モデリングまでできれば、実際にモノが作れる。次世代のソニーや松下が1000社生まれる、そんな土壌をつくるのが願いです。

3Dプリンターなどデジタルファブリケーション(デジタル工作機械で成形する技術)の普及で、世界的に商品の開発サイクルが加速し、ソフトウエアに近いペースになっています。早くやらないと勝てない。コミュニティーを中核としたオープンイノベーションでは、モノづくりのスピードを10倍、100倍と早めることができます。企業の方にも、ぜひrinkakをオープンイノベーションプラットフォームとして使っていただきたい。日本発のワクワクするようなモノづくりができるのではと期待しています。

事例:1
パソコン初心者の主婦が「身近にある、子どもが喜ぶ物を創作したい」と3Dプリントを習得。牛乳嫌いの子どもが楽しく飲めるように、飲み終わると底からスマイルが出るコップなど、普段の生活から発想した雑貨を出品する。
事例:1
事例:2
釣り好きが高じて、従来の形にとらわれない「よく飛ぶ・よく動く・よく釣れる」ルアーをカスタム制作。長年手作りしてきたが、3Dプリンターを使うことで円滑に品質改善ができ、新境地に達したという。
事例:1
事例:3
東北芸術工科大の学生が山形県の伝統に根差した新しい土産品を開発。紅花染めを使った新しいアクセサリーや庄内刺し子柄のiPhoneケース、神棚に供える笹野花をモチーフにしたワイングラスなどを出品。
事例:3
事例:4
パソコン初心者の主婦が「身近にある、子どもが喜ぶ物を創作したい」と3Dプリントを習得。牛乳嫌いの子どもが楽しく飲めるように、飲み終わると底からスマイルが出るコップなど、普段の生活から発想した雑貨を出品する。
事例:4
事例:5
パソコン初心者の主婦が「身近にある、子どもが喜ぶ物を創作したい」と3Dプリントを習得。牛乳嫌いの子どもが楽しく飲めるように、飲み終わると底からスマイルが出るコップなど、普段の生活から発想した雑貨を出品する。
事例:5

IoT時代にコミュニティーで共創する

 

京井 良彦(電通 ビジネス・クリエーション・センタープランニング・ディレクター / amidusプロジェクトメンバー)

スマートフォンの浸透は、機能性やデザイン性で競い合っていたハードウエアを、ユーザーエクスペリエンスに競争軸を移したサービスプラットフォームに変えつつあります。あらゆるものがネットにつながり始めている中、ユーザーにとっての価値がどこにあるのか、サービス起点でハードを定義していくことが求められています。IoT時代のマーケティングでは、企業と消費者が売るべきものと買うべきものを一緒になって考える「共創」が有効です。

amidusは「スマートプロダクツ共創エンジン」です。ユーザー、クリエーター、企業が、それぞれが共感できるコンセプトに集結し、新しいビジネスや商品を編み出していきます。

企業は自社の中に閉じこめられていた技術やノウハウ、アイデアなどを披露し、ユーザーはニーズを掲げる。全てのプロセスをオープンにして、お互いに声を出し巻きこみ合うことで、プロジェクトを推す熱のようなものが生まれます。つまり、モノづくりとコトづくりを同時に共創するエンジンなのです。ニーズをくみ入れ、ウォンツを引き出し、自在に進化しながら、モノやコト、そしてムーブメントをつくる喜びを生み出していきたいと思っています。

amidusとは
クリエーティブ業務の受託やエレクトロニクスプロダクツの企画・デザインを手掛けるamadanaが運営する共創プラットフォーム。電通も参画する。コンセプトなどを反映したプロジェクトがamidusサイトに公開された後、コミュニティーを中核に「着想」「コンセプトメーキング」「試作」「進化」「変異」「淘汰」のプロセスフェーズにおいて、さまざまな意見や発想、技術を盛り込みながら、商品企画をブラッシュアップしていく。タイムリーなプロトタイピングに有効な3Dプリンターにも着目する。

WEARABLE ENERGY ALLIANCE
モバイルバッテリーを「世の中に置き場所がある」ペットボトルの形状にした。付随する商品展開や屋外での新たなカルチャー共創を目指す。
AUDIO CARE PROJECT
高齢者でも聞き取りやすいスピーカーが欲しい、という看護師のニーズから生まれた新規プロジェクト。さまざまな技術・アイデアを広く求めている。

NYの街角から

 

岡本 純子氏  コミュニケーションストラテジスト(NY在住)

ニューヨーク・マンハッタンのダウンタウンの一角にある3Dプリンター大手のメーカーボットの旗艦店はまるで、おしゃれな雑貨店のようだ。店内では同社の3D プリンターがオブジェやカップ、フィギュアなどを作り出す工程が見られるだけではなく、さまざまな完成品が販売されている。小型(1375ドル)、中型(2899ドル)、大型(6499ドル)の同社のメーン3機種が展示されており、3Dで自分の頭像を作るコーナーなどもある。今のところ、素材はプラスチックのみだが、年内には新しく木材、石、金属素材の製品も作れるようになるという。

3Dプリンタ—は技術の進化とともに、小型化、低価格化が進み、個人やスモールビジネス層、学校などでも利用できるようになってきた。私の子どもの小学校にも2台置いてある。プリンター大手のヒューレット・パッカードが2016年に参入することも明らかになり、市場はますます活況を呈すとみられる。 マーケティング分野でも活用の動きは広がっている。アシックスは、ニューヨークマラソンの参加者500人の3D像を作成し、個々のフェイスブックに投稿されるキャンペーンを展開した。ある3Dプリンターメーカーは、視覚を失った人の記憶の中にある思い出の写真のイメージを3Dプリンターで再現し、それを手で感じ取ってもらうというプロジェクトを実施した。家族との触れ合いの思い出がカタチとなり、手の中で記憶としてよみがえるさまを動画として公開、話題を呼んだ。 多くの企業が「次世代のイノベーション」としての3Dプリンターの可能性に大きな関心を寄せている。

プロフィール

  • Profile hirakawa
    平川 健司
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 事業開発室 室長

    新規事業開発およびアライアンスを担当。
    2000年~2009年にかけて、東日本旅客鉄道株式会社担当アカウントプランナーとしてモバイルsuica導入、電子マネー導入、企業提携支援作業実施。2009年には、政府エコポイント事業のプロジェクト・マネージャーとして事業設計からコンソーシアム運営までの業務推進を実施。省エネルギー等事業の推進も行う。最近では、中小企業・小規模事業者支援ポータルサイト「ミラサポ」にて中小企業支援施策のバリュー・チェーンを繋ぐことで中小企業のビジネス創造を支援。

  • Ind pic1
    稲田 雅彦
    株式会社カブク 代表取締役 CEO

    大阪府出身。2009年東京大学大学院修了(コンピュータサイエンス)。大学院にて人工知能の研究に従事。修了後、博報堂にて新規事業開発に携わり、カンヌ、アドフェスト、ロンドン広告祭、TIAAなど、受賞歴多数。2013年株式会社カブク設立。主な著書「3Dプリンター実用ガイド」など。

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    京井 良彦
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター  プランニング・ディレクター

    1969年生まれ。大手銀行でのM&Aアドバイザーを経て、2001年電通入社。
    営業局でグローバルブランドや官公庁など多岐にわたるクライアントを担当し、現在はソーシャルメディアやデジタル領域を中心とする戦略プランニング、コミュニケーションデザイン、共創マーケティングを手掛ける。東京都市大非常勤講師。著書に『ロングエンゲージメント』(あさ出版)、『つなげる広告』(アスキー新書)などがある。

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