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企画者は3度たくらむNo.3

全ての中心は「人」である

2015/03/19

情報が氾濫しているいま、自分もしくは企業が発信する情報を、相手に気付いてもらうためにはどのようにすればいいのでしょうか。

前回のコラムでは、誕生日パーティという私的なイベントを例に挙げましたが、今回は仕事に活かすことを念頭に考えを進めていきましょう。

そのために必要なのは、その情報が不特定多数に向けられたものではなく、自分自身に関係ある情報であると、強く認識してもらうことに尽きると思います。マーケティング用語でいうところのターゲティングの重要性が、より増してきているといえます。

しかし、ターゲットの直訳としての「的」、狙い撃ちすべき「的」という概念では、もはや情報に耳を傾けてもらうことは難しくなっています。なぜなら、的にめがけて情報を撃ち込んだところで、彼らはそれらを無視する選択肢を持つようになったからです。

広告はラブレターにたとえられることが多いのですが、ラブレターの既読スルーが増えた、と想像すると分かりやすいかもしれません。仮に情報に触れたところで、自分には関係ないと瞬時に判断された時点で、存在していないと同じことになります。好きの反対は嫌いではなく、興味がない、無関心なのです。

そこで、考え方を変えなければならないのは、伝えるべき相手をターゲットとしてではなく、パートナーとして捉え直すことです。製品やサービスなどのブランドと生活者とのつながりを築き、相思相愛を目指すのです。それがエンゲージメント(約束、つながり、関係性)の考え方の基本でもあります。

現在では、どんな製品でも、製品を売り切って終わりというビジネスモデルは存在しません。生活者一人ひとりが生涯を通じてどれだけ製品を購入してくれるかという、生涯顧客価値を重視する傾向が強まっていますし、企業が発信する情報を鵜呑みにするような、企業にとって都合のいい生活者はほぼ存在しません。誰かのレビューを信用し、さらに、個人が新たなレビューを発信するようにもなっています。

もはや、生活者は撃ち抜いて終わるターゲットではなく、自社のブランドを愛し、共に広げてもらうパートナーと呼んだほうが、時代に合致していることは明らかです。

別の言い方をすれば、集団としての「顧客」を、個人個人の「個客」と捉えなければならなくなってきたと、捉えることができるのではないでしょうか。

一人ひとりの生活に目を向け、どのようにすれば彼や彼女が抱えている課題を解決することができるのか。楽しい気分にできるのか。よりよい暮らしの役に立てるのか。そうしたブランドの先にいる「人」が全ての中心にあるべきだと思うのです。

それに応じて、ラブレターの送り方も大きく変わっています。

自分の魅力を雄弁に語れば事足りていた時代は終わり、相手の場所や気分に応じて、ラブレターの出し方や内容を少しずつ変える手法が取られるようになります。クロスメディアの時代です。相手の自宅にラブレターを出す際には、ゆっくりと読む時間があるだろうから、思いのこもった長めのものを出してみよう。夜には、ロマンチックにメールで「月がきれいですね」と送ってみよう。こうしたコンタクトポイントとしてのメディアとメッセージのかけ合わせによって、興味を引き付けるように変化しました。

そして、「個客」「エンゲージメント」の時代になると、自分の好意を伝えるだけではなく、両想いになることが重視されるようになっていきます。風邪をひいていると聞いたときには、どんな風邪なのかという情報をいち早く仕入れ、症状に合わせた薬や療法を用意する。そのためには、まず「風邪をひいている」情報を仕入れなければなりません。これをマーケティングの視点で考えてみると、個客がいま何に困っていて、何を求めているか、を突き止めなければならない、ということになります。

情報を伝えるだけではなく、内容が正確に伝わるという目的を達成するために、相手のことを知り尽くすこと。それがたくらむことの基本になるのです。

彼らの情報を知る方法は、生活者調査やビッグデータの解析など多岐に渡ります。その一方で、自分の肌感もとても大事になります。その時に気を付けなければならないのは、肌感を、決めつけではなく、ひとつの仮説として捉えることです。

Illustrated by Tokuhiro Kanoh