スタートアップって何?~新しい経済成長エコシステム~ #08

コネクテッド・ハードウェアを手がけるCerevoが起こす スタートアップの新しい潮流:Cerevo 岩佐琢磨氏インタビュー後編

  • Iwasa profile
    岩佐 琢磨
    株式会社Cerevo 代表取締役 CEO
  • Fmnakajima1
    中嶋 文彦
    株式会社電通 CDC 部長 事業開発ディレクター
  • Photo
    加賀谷 友典
    ディレクター / プランナー

前回に引き続き、加賀谷友典氏とともにCerevoの岩佐琢磨氏のお話を伺っていきます。少数精鋭のハードウェアメーカーが成功した背景にある環境や技術の変化、これから求められる人材と育成方法、大企業とのコラボレーションなどについて、岩佐氏の考えを話していただきました。

大手家電メーカーにはないハードウェアスタートアップのスピード

加賀谷:今、Cerevoは何人くらいいるのですか。

岩佐:すごく人が増えましたね。今日出社したら、知らない顔が5人くらいいて、昨日入社した人でした(笑)。2015年4月までに54名になると思います。電気設計、組み込みソフト、デザイン・メカニカルエンジニア、フロントエンドのアプリ開発の4職種があり、基本は4名を1ユニットにして1つのハードウェアを作っています。現在も、社として6~7商品のハードウェア製作を回しています。

 それとは別に、別働隊でスタートアップ支援も始めていて、DMM.make AKIBAに入居してくるようなハードウェアスタートアップの設計支援や、製品の量産立ち上げ支援も行っています。スタートアップでは量産のノウハウが足りていなくて、最後の一歩を踏み出せない場合が多いので。僕らがすでに使って実績のある部品などを紹介して、いろんな人とつなぐコーディネートを行っています。

中嶋:大手メーカーは、そういったモノづくりの仕方には興味があり、電通にも毎日のように、世界中でモノを作っているメーカーの新規事業の部署から問い合わせが来ていますが、コネクテッド・ハードウェアの時代にどうやって新しいチャレンジをするか悩んでいるように感じます。

加賀谷:大手だと、ロット数の桁が違ってくるし、数千台のグローバルニッチを狙ったプロダクトは多分できないし、やりづらいのではないでしょうか。

岩佐:僕らの商品のほとんどが、3000台から5000台でやろうと言ったその日から商品が発売される日までの費用を回収しています。5000台あれば、完全に損益を回収できますし、商品によっては3000台で回収できますね。自分も大手メーカー出身なので、大手がなぜ苦しんでいるかは痛いほどわかるのですが、やろうと言ってからやり始めるまでの時間が長く、人件費が高くなっていると思います。単純に5人が企画検討で1年かければ、数千万の人件費がかかり、開発でさらに費用がかかります。それを回収しようと考えれば、最低でも数万ロット作らなければならなくなります。

加賀谷:作り方のプロセスで、これまで少人数ではできなかったことができるようになってきていることは大きいですね。

岩佐:それは確実にありますし、他の要素もあると思います。従来は1年かかるものが半年でできるようになっている技術的な革新により、期間が短くなれば人件費も抑えられることも大きいでしょう。こういったモノづくりに対応した工場も増えてきています。物流や流通でも、以前はCerevoなんて会社は知らないからモノは置かないと言われていた時代から、消費者が大手メーカー以外からも選択肢を求めるようになり、名もないメーカーの面白い製品が置かれるようになってきています。量販店にとっても、画一化された製品よりも特長のある製品を売れば、値引き合戦をする必要がないというメリットがあると思います。

中嶋:そこにCerevoの価値があるわけですね。

岩佐:ノーブランドでも欲しい機能や形状だったら買うというようにお客様が変貌し、販売店は知らないメーカーでも値下げせずにお客様が買いそうなユニークなモノを仕入れてみようというマインドになり、短い時間で簡単にモノづくりができ、それを組み立てる工場も出てきた、といった要素はほぼ同時に発生していてエコシステムとなっています。

中嶋:製造側と消費者側がうまく噛み合ってきたと。

岩佐:そこにグローバルな物流や課金決済システムがセットで入ってきて、全体が一気に動いてきていると感じます。実は、そのエコシステムを国際的なメディアリレーションが支えているところもあると思っていて、CESがあると米国のギズモードが取材に来て、24時間以内に日本のギズモードにも翻訳記事が配信されて世界中に広がり、記事を見た各国の人が一斉に取材に来るという流れがすごく早くなっています。

加賀谷:インターネットの情報の世界で起こっていた変化が、どんどんリアルなモノやハードウェアにも起きているということですね。

中嶋:それを受け取る側も、面白いモノを扱っているウェブサイトやメディアを見て話題にしていますね。

加賀谷:しかし、まだまだ生態系の変化の始まりで、ここからもっと大きく変化していくのだと思います。

事業をすべてわかっている若い人材の育て方

中嶋:求めるチームやメンバーの資質も変わってきているのではないかと思います。スタートアップでは、マルチな職種ということも非常に重要で、マルチでなければ動けないのではないでしょうか。岩佐さんの考えるこれからの求める人材というのは、どのような人なのでしょうか。

岩佐:Cerevoだけでなく、日本全体として早期に育成すべき人材は、全部わかる人です。しかも、若い人。たとえば、家電メーカーで設計、ソフト、生産を経験して、いったん海外セールスに飛ばされて、戻ってきて何かの商品の事業部長をやり、現在は執行役員をやっている人は、全部わかる人で、メディアとのネットワークもあります。そういった60才でそろそろ引退といった人ではなく、20代後半~30代ですべてを見られる人を育成することは十分に可能で、早くたくさん作って組織していけば、日本の競争力は上がっていくと思います。

加賀谷:今は、より細分化されてきているような気もしますね。

岩佐:細分化されて専門性のある人は、放っておいても育つと思います。日本人は、どちらかといえば、特定のことを行う専門職や職人の気質が国民性としてあります。それだけだと使われるばかりで、ダイソンやアップルの一大開発拠点が日本だという感じになるだけです。第二第三の松下幸之助さんや盛田昭夫さんが生まれてこなければならないし、今の大手メーカーをゼロから超高速に作るキーとなるのが全部わかる若い人だと思っています。

加賀谷:そういった人材は、どうやって育成していけばよいのでしょうか。

岩佐:いち早くハードウェアスタートアップを始めさせて、お金を付けてあげることですね。いち早く始めれば、調達をどうするか、セールスをどうするかの課題にぶつかります。

絶対にみんな失敗するし、失敗が一番の勉強になると思います。

中嶋:その環境を提供するファンドやキャピタルも増えてきたので、それらが賑わってくればチャンスが多く生まれるということですね。

岩佐:たとえば、日本で5000万円以上の資金を調達したハードウェアスタートアップが100社生まれれば、確実に100人以上は全部わかって若い人が生まれるので、地道にやっていけば、結構すごいことになると思います。100社がすべて成功するわけではないので、仮に5人しか成功しなかったら、残りの95人の半分くらいはまたスタートアップに挑戦します。残りの40人あまりは、僕らが喉から欲しいと思っている人材となっているので、すぐに一緒に仕事することができるのです。

 大手メーカーの経営幹部と話しても、そういった人材が欲しいという話になります。大手は、30才手前の若者を事業部長にするというキャリアパスがなく、既存の人事システムでは全部がわかる若い人材を育てることができません。社内インキュベーション部門も1つの手ですが、僕は特殊部隊を作ってはどうかといつも話しています。たとえば、軍隊にもキャリアパスがありますが、特殊部隊は既存のキャリアパスを飛び越えた存在で、訓練、装備、業務のタフさ、報酬がまったく異なり、若くてもあっという間にものすごい経験をします。優秀な人を見つけて、特殊なキャリアパスに入れるという仕組みを作ることはやるべきだと思います。

加賀谷:そこで経験を積んだ人が相互に行ったり来たりすれば、層も厚くなりますね。

岩佐:経営層を若返らせるのにも役立つと思います。若い人が抜擢されても、元特殊部隊でどういった実績を残しているかがわかれば、周りも納得しますし。大変だけどやる気はあるかと言われて、やると言った人たちで結果を出して、評価されて、非常に早い勢いでキャリアパスを上るという仕組みができると面白いと思います。

大企業とスタートアップのコラボレーションのあり方

中嶋:Cerevoは、パナソニックと共同でクラウド型リスニング・デバイス「Listnr」を出しています。大手とスタートアップのコラボレーションが自然かつ活発に生み出されている事例を数多く出したい、という話はよく聞くのですが、何かアドバイスなどはありますでしょうか。

岩佐:僕がいつも大企業に求めているのは、精鋭部隊をCerevoに送り込んで一緒に開発をやらせてほしい、ということです。大企業のエースクラスの人材は非常に優秀なので、その人たちが報告書や企画書を書く時間を取っ払ってしまえば、放っておいてもよい製品が生まれるというのが僕の論理です。「これでいいんです」「早く前に進みましょう」「もう検討はやめましょう」と定期的に言うだけでよく、早く大企業の判断プロセスや検討プロセスからエースクラスの人材を切り離せは、大企業とスタートアップが連携した結果は生まれると思います。

中嶋:以前私がお手伝いさせていただいた案件で、検討、開発、検証のプロセス、リリース判定会議などを圧縮するというチャレンジをやってくれた大企業があって、結果的に大幅な期間短縮で製品化が実現しました。このようにプロジェクトにスタートアップの優れたメンバーを加えて一緒にやり、既存プロセスと切り離した事例を増やしていくことが重要ですね。

岩佐:大企業の社員は、上司を見て仕事をするので、彼らから上司を無くすということが非常に大事なことですね。Cerevoに出向してもらえるなら、レポートする人や評価する人を大企業ではない人を付ける必要があります。そのことで、スタートアップの早さや方法を学んでいけると思います。

プロフィール

  • Iwasa profile
    岩佐 琢磨
    株式会社Cerevo 代表取締役 CEO

    1978年生まれ、立命館大学大学院理工学研究科修了。2003年から松下電器産業(現パナソニック)株式会社にてネット接続型家電の商品企画に従事。2007年12月より、ネットワーク接続型家電の開発・販売を行なう株式会社Cerevo(セレボ)を立ち上げ、代表取締役に就任。世界初となるインターネットライブ配信機能付きデジタルカメラ『CEREVO CAM live!』や、既存のビデオカメラをライブ配信機能付きに変えてしまう配信機器『LiveShell』シリーズなどを販売。

  • Fmnakajima1
    中嶋 文彦
    株式会社電通 CDC 部長 事業開発ディレクター

    電通でマーケティング局、営業局で国内外のクライアントのマーケティング戦略と実施を担当。退職後、アイ・エム・ジェイに転職。ネットマーケティング部門運営、子会社役員、CCCのTポイントECモールの事業化などを行う。2008年末に電通再入社。現在は、位置情報データやセンサー技術などを活用して自社、クライアント、パートナー企業との事業開発、サービス開発を行う。モバイル広告大賞、グッドデザイン賞など受賞。1971年生。

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    加賀谷 友典
    ディレクター / プランナー

    フリーのプランナーとしてデジタルネットワーク領域で多数のスタートアッププロジェクトに参加。
    新規事業開発における調査・コンセプトプランニング、チームマネジメントが専門。
    主な事例としては坂本龍一インスタレーション作品「windVibe」「GEOCOSMOS」など。現在は生体信号を使った新しいコミュニケーション体験を提案する「neurowear プロジェクト」(http://www.neurowear.com)で脳波で動くネコミミ「necomimi」、脳波ヘッドフォン「mico」、脳波カメラ「neurocam」、EYEoT デバイス「mononome」などを開発。

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