loading...

「2014年 日本の広告費」スペシャルインタビューNo.2

伝統メディアの良さを再認識し、個々の媒体の特性に応じた広告戦略を【後編】

2015/03/20

前回に続き、電通総研の奥律哉氏が、日本人の情報行動に詳しい東京大学大学院教授・橋元良明氏と共に、広告市場の現状と2015年のトレンドや課題を探ります。

スマホ利用を前提に他のメディアと連動した広告を

奥:ラジオ広告は1272億円、102.3%でした。首都圏では横ばいですが、関西・中部・北海道・九州では増加傾向で、業種別ではオフィス事業者向けの広告需要の高まりもあって「精密機器・事務用品」が増加したというデータもあります。

橋元:ラジオの伸びは利用行動ともリンクしていると考えています。我々の調査によれば、2013年から2014年の1年でやや上向き傾向にあり、2014年には平均聴取時間が10代で2.2分、20代で7.3分でした。私自身が大学で学生と接するなかでも、ネットで楽曲を検索することもできますが、自分で選ぶことが面倒くさくなって、むしろ自分の嗜好に合うディスクジョッキーやパーソナリティーのプログラムを聴くほうが好きというような話も耳にします。

また、かつての深夜放送には、無名に近いタレントさんがリスナーの支持を得てメジャーになっていくといったラジオ独特の魅力がありました。いま、若い人たちのあいだでも、そういうラジオ独自の感覚、ラジオの良さが見直され始めているのではないでしょうか。

「radiko.jp(ラジコ)」も、全国の放送が聴けるようになり、新しいメディアとして期待が高まっているように思います。

橋元良明氏

奥:IP再送信という形でスタートしたラジコは、エリアに関係なく全国の放送が聴ける「ラジコプレミアム」という新しいサービスを開始しています。現在17万人の有料会員がいるということですが、電波エリア外の放送を聴きたいというニーズもかなり含まれているのではないかと考えています。今後の電波のあり方、放送のあり方の一つの試金石と捉えても良いのではないでしょうか。

次はインターネットです。インターネット広告費は初めて1兆円を超え、1兆519億円、前年比112.1%で、特に運用型といわれる広告サービスが好調でした。

橋元:我々の調査によれば、2010年以降もインターネットの利用は伸び続けていますから、その広告費が増えていることは利用実態にも合致しています。

私自身も感じることですが、検索をしていると、個人の行動や属性を踏まえたターゲッティング広告が瞬時に配信されますから、まさに驚きのテクノロジーです。テクノロジーが高度に発展するなかで広告費が伸びていくというのは十分に理解できます。

ただ、惜しいといいますか、少し前に検索した内容に基づいた広告が出てくることに対しては、抵抗を覚えることもありますし、面白みに欠けます。旅行先を探しているときなど、「その情報はもういいよ。そこへの旅行はやめたんだから」「今はもう別の国に行きたいかもしれないじゃないか」と思ってしまうことがあります。新聞のところでお話ししたようなセレンディピティー的な面も忘れないでいただきたいと思います。

スマホの利用率を見ると、10代で89%、20代で93%です。今やほぼ全員がスマホを持ち、四六時中見ているような時代ですから、それを前提にテレビなどいろいろなメディアと連動した広告を考えるべきですし、ソーシャルメディアを通じた広告にも注力する必要が高まっていくと思います。

奥:プロモーション広告については、前年比100.8%、2兆1610億円です。プロモーションメディアにはいろいろな媒体群がありますが、どのような印象をお持ちでしょうか。

奥 律哉氏

橋元:個人的に印象が強かったのは、新進の女優さんを起用した駅貼り広告です。多くの方がハッとして見ていたと思いますし、以降の女優さんの露出ぶりを見ますと、その駅貼り広告が起爆剤の一つになったといえるでしょう。みなさんが注目するようなポスターには他のメディアにはない効果がある。そのことを改めて我々に教えてくれたような気がしますね。

もう一つ、今、電車の車内では多くの人がスマホをいじっていますが、満員電車では使いにくいですから、多くの人が車内ビジョンを見ている。これについては、伸び代が期待できる、面白いメディアが出てきたと思います。

盛り上がる消費者マインドで期待される広告市場の拡大

奥:広告費は時代の先駆けの数字、先行指標ともいわれますが、2015年のトレンド、課題について、どのようにご覧になっていますか?

橋元:現在の状況は多くの企業にとって追い風ですし、消費税増税の延期もありますから景気は上向きになっていくのではないでしょうか。2020年のオリン ピックに向けて、消費者マインドの盛り上がりも期待できますし、この春節でも、特に中国人旅行者が大幅に増加しており、実質的な効果もあります。そうした ことを考え合わせると、広告出稿も増大を続ける可能性が大きいのではないかと思っています。

橋元良明氏

古いお話になりますが、アメリカのプロパガンダ分析研究所にいたレオナード・ドゥーブという社会心理学者が1935年に『プロパガンダ、その心理と技法』という本を書いています。戦時期ということで、日本の外務省が「対敵宣伝放送の原理」にその要約をまとめていますが、そのなかに「個別法と関連法」という節があり、一つの事柄だけではなく、関連する事柄に結びつけて同時に伝えることが肝要だと述べているのですね。例えば、マライ(マレー)の復興状況を宣伝したいのであれば、「香港も復興している、フィリピンも、ジャワもビルマも復興している」と立て続けに宣伝したほうが記憶に残るというわけです。

もう一つ、「多元的メディアを駆使しろ」とも述べています。「戦いに勝利した」という情報を伝えるのであれば、ラジオだけではなく、映画や演劇でも、落語でも同じように宣伝していく。

もちろん、戦後のプロパガンダは好ましいものではありませんでしたが、アプローチ自体は現在の広告業界にも共通した部分があります。本格的なマルチメディア時代に入り、ドゥーブのいう関連法を改めて吟味すべきだと思うのですね。一つの商品に関連付けて同時に伝える。ネット、テレビ、ラジオ、新聞、すべて同時に、あらゆる媒体を駆使して総合的に印象を強める。それぞれのメディアの良さを再認識し、さまざまな媒体を有機的に連関させた広告戦略が必要になってくるでしょう。

ネットが一段落しテレビも順調です。メディアの利用環境は安定期に入りつつありますから、伝統メディアの良さを見直し、それぞれのメディアの特性に応じた広告戦略を立てることによって好況が続くと思います。テレビでは大画面の臨場感、新聞ではセレンディピティー、雑誌ではカメラが捉える質感、ラジオでは仲間感覚の語りかけなど、それぞれのメディアが持つ魅力を踏まえた上で意外性を表現するような広告が出てくることを期待しています。

奥:ご指摘の通り、一世代前には「メディアミックス」という言葉がありました。現在でいえば、まさにメディアをどう使いこなすか。メディアの役割に合わせて表現、あるいはメッセージを考えなくてはなりません。さらに、メディアそのものも進化しており、テレビには放送で伝える部分とネットで伝える部分があり、ラジコにも放送で伝える部分とネットで伝える部分があります。広告主の課題解決にメディアを使うというのであれば重層的、多層的、あるいは複眼的にやっていかなければなりません。また、「ながら」利用、並行利用も増えておりますので、どのように広告やメッセージを入れていくのか、我々も十分に知恵を絞って提案していかなければならないと思っています。

本日はありがとうございました。