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ロボティクスビジネス入門講座No.10

「2020年に向けて、ロボットを日本の力に」  経済産業省・今里和之氏インタビュー(後編)

2015/03/24

電通・西嶋氏(左)と経済産業省・今里氏。インタビューの前編はこちら

日本が世界をリードしていく、ロボット開発と活用

西嶋:ここで改めて、経済産業省におけるロボット支援の体制を教えてください。

今里:経済産業省は通商産業省の時代(2001年以前)から、工場などで使われる産業用ロボットの活用を支援してきました。そして、生活支援用など多様なロボットが出てきた変化を受け、より幅広いロボット活用を支援するために、2005年に省庁で唯一、ロボットの名を冠した組織「ロボット産業室」を立ち上げました。私が所属する製造産業局の産業機械課内に位置しています。

ここで、先ほどのNEDOをはじめロボット開発や活用にトライしている組織の支援や、1月まで政府が主導していた「ロボット革命実現会議」のとりまとめ、「ロボット大賞」の管轄なども行っています。

西嶋:広く一般生活者への発信や関心喚起という点では、ロボット革命実現会議もその一端だったと思いますが、概要を教えていただけますか?

今里:この会議は、昨年5月に安倍首相がOECD閣僚理事会で行った演説の中で「日本からロボットを使った新たな産業革命を起こす、そのための戦略をつくる」と宣言したことから始まりました。政府が一丸となってロボット産業を応援する体制をつくり、また官民で方向性を共有していくべきだという認識のもと、首相のトップダウンによって総合的な戦略を検討することになったのです。

西嶋:1月に最終回を迎えましたが、どんな成果がありましたか?
今里:ロボット革命実現会議として議論の内容を踏まえ、今後のアクションプランを「ロボット新戦略」としてまとめて1月23日に公表しました。さらに2月10日には全閣僚が参加する日本経済再生本部で決定されました。再生本部は、安倍政権が掲げる金融政策、財政政策、成長戦略の「3本の矢」を実現する司令塔です。まさに政府が「ロボット新戦略」をきっちり実現していくことになります。ロボット新戦略の基本的な柱は、3つあります。

西嶋:どのようなものでしょうか。

今里:1つ目は、日本を世界最先端のロボットのイノベーション拠点にすること。これまで培ってきた研究開発力や技術力をさらに磨き上げて、日本から次々と新たなロボットが生まれるような環境をつくることです。

2つ目は、世界一のロボット利活用社会をつくること。単に生み出すだけでなく、それが生活の中できちんと役に立ち、社会課題の解決につながる、本当にロボットを使いこなせる社会にしよう、ということです。つまり「ロボットのバリアフリー社会」ですね。

3つ目は、ロボットを生み出し使いこなす先にあるIoT社会において、日本が国際的な主導権を握ることです。ロボットが情報産業の大きな核のひとつになる中で、日本はこれまでの蓄積を糧に、世界をリードする取り組みをしていくべきと考えているからです。

西嶋:ロボットが社会に浸透し、また世界を率いる日本の力となっていくために必要な戦略なのですね。

今里:この3本柱の推進体制として、今春にも「ロボット革命イニシアティブ協議会」を立ち上げる予定です。

この会は、今まさに西嶋さんが言われた「世界を率いる」意図を込めて、開かれた場にしていきたいと考えています。メーカーやロボットを使う現場の企業、研究者など、ロボットに携わる人たちを幅広く集めて、戦略の共有や情報発信をしていきます。海外企業とのコラボレーションや、国際的な連携によるプロジェクトも模索したいですね。新戦略も日本国内でとじる訳ではなく、世界に積極的にアプローチしていきたいです。

変わりゆく社会に合うロボットの基盤づくりを

西嶋:世界への発信という点では、新戦略の中で2020年の「ロボットオリンピック」開催が提言されています。

今里:はい、これも重要な項目です。ただ、まだ名称自体が仮ですし、中身も具体的に決まっていません。マイルストーンとしては来年までに形式や種目を決定し、2018年にはプレ大会を実施する予定です。

西嶋:ほかにも、2020年をメドとする具体的な動きなどはありますか?

今里:協議会やオリンピックについては分野横断的事項という位置づけですが、分野別の事項では具体的な数値目標を掲げているものもあります。例えば国土交通省との連携で、全国の老朽化した橋やトンネルの点検の20%にロボットを使うとか、厚生労働省とは介護分野で、パワースーツなどを用いて介護者が腰痛を起こすリスクを低減しようとか。

西嶋:かなり具体的ですね。これは、各省庁との連携が重要でしょうか。

今里:おっしゃる通りです。省庁だけでなく、民間企業や関連団体、研究者など、あらゆる立場の人と一緒に前に進んでいくことが不可欠です。いち官庁の独り相撲で変わる世の中ではありません。そもそも経済・産業の面から日本を元気にするという経済産業省のミッションを考えると、広く関係各所と問題を認識し、解決を模索していく姿勢が根本にありました。

例えば介護分野およびインフラ・災害対応分野では、経済産業省が民間企業・研究機関等における機器の開発支援を行って、厚生労働省・国土交通省が、開発の早い段階から現場のニーズを伝達、活用、現場での試作機器を実証してきました。来年度以降は、ものづくり分野やサービス分野でも同様の事業を実施していく予定です。

新戦略の元となったロボット革命実現会議の、おそらく一番大きなメッセージは「まさにこれからロボットと一緒に暮らす社会が来るのです」ということだと思うのです。外界を認識して判断し、何らかの付加価値を生み出すという機能も含めた、広い意味でのロボットと捉えた場合、産業分野でもまだ大きな伸びしろがありますし、私たちの生活の中で使っているものも次々とロボットと融合していくでしょう。コミュニケーションロボットの領域などは特に、発展の可能性がありますね。

西嶋:コミュニケーションロボットの果たしていく役割などはいかがでしょうか。

今里:個人的には、人と寄り添い、コミュニケーションを行うロボットには大きな可能性があると思っています。ロボットを介してコミュニケーションをして、会話を楽しむことによって、認知症予防などの医学的な効果効能もあると仰っている方もいます。今後はさらにデータに基づく研究と、社会への普及の仕方を検討する必要があって、厚生労働省との連携も必要です。ここでも大切なことは、ロボットが活用できる現場で、役立つものを導入するという考え方です。

西嶋:どのような分野のロボットであっても、一貫して現場での利用促進を大切にしていらっしゃるのですね。

今里:少し前は誰も予想していなかったことが、どんどん実現していきます。ロボットと共生する社会においては、ロボットをつくる人だけがロボットのことを考えていれば良いのではなく、みんなで考えていく新しい時代になってきたのです。大企業や一部の業種で利用していた、大型で個別ライン専用のロボットだけでなく、中小企業にも使いやすい小型で汎用性の高いロボットを開発する必要があります。また、ロボットに触れたことがない人たちに使ってもらうためには、安価にすることはもちろんですが、従来の機械技術中心の技術開発から、高度なセンサーやクラウド、人工知能といった多様な分野にわたって連携が可能となる技術開発にシフトしていく必要もあります。ですから我々としてはアタマを柔らかくして、またさまざまな声を聞きながら、これからのロボットと共生する社会に合った制度や基盤を整えていかなければならないと考えています。

西嶋:官公庁というと、現場からとても離れたイメージがありましたが、経済産業省がこんなに柔軟に利用者の視点で考えていらっしゃるとは思いませんでした。ロボット産業について俯瞰したものの見方をされつつ、単なる規制をするのではなく、利用者が安全につかってもらうためにどうしたら良いのかを、常に考えていらっしゃることが分かりました。

ぜひ、ロボットが人の役に立ち、それを日本から世界へ発信していけるように、私たちも一緒に考えていきたいと思います。今日は本当に有難うございました。

今里:有難うございました。