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シェアされるクリエーティブNo.1

コブクロをバズらせろ

2015/03/20

時代は“伝えること”に主眼を置いたコミュニケーションから、人に“シェアされること”を前提としたコミュニケーションへ。ソーシャル時代の広告の在り方を考え、日々実践しているiPR局のクリエーターがお届けする、思わずシェアしたくなる(?)コラムです。


「明日までに、バズらせろ」(井上)

そんな無理難題を、近頃聞く機会が多くなった気がします。そんなバズを起こすには、メディアや消費者によって“シェアされる”ことが欠かせません。SNS全盛期を生きる僕らにとって、“シェアされる”コミュニケーションを考えることは史上命題。そんなバズを狙ったソーシャル時代のクリエーティブを日々企画し、実践しているのがiPR局のクリエーティブです。そこに所属する世瀬と井上が、記念すべきコラム第1回をお送りします。

今回ご紹介するのは、ワーナーミュージック様から頂いたお仕事。「コブクロの新曲『奇跡』を話題化させたい。」というお題をもとに、僕たちが何をどう考えたのかをシェアさせていただきたいと思います。

「不完全な情報こそが、シェアを生み出すきっかけになる」(世瀬)

3月4日に発売する「奇跡」という曲。これをどうバズらせるかが課題でした。お聴きになったことのある方ならお分かりのように、アップテンポで勇気をもらえる強い歌詞が特徴の曲で、変化の多い3月という季節柄、多くの人の心に響く曲だと、直感的にそう考えました。コブクロと言えば超がつくほどメジャーなアーティストで、何もしなくても多くのファンが話題にし、買ってくれる。でもそれだけではバズらせたとは言えない。僕たちが設定した課題は、コブクロファン“以外”をも取り込み、より多くの人の言の葉に乗るようなコミュニケーションです。どうすればこの課題を解決できるだろう。僕たちは熟考を重ねた結果、既存ファンをバズの起点にし、それが同心円状に広がっていくような構造を思い浮かべました。既にかなり濃いファンがいるコブクロだからこそできる、ファンを中心に構えた共創型のコミュニケーションを実現できないかと考えたのです。

まず、こちらのCDジャケット写真(画像①)をご覧ください。飛び散るインクで描かれたハートの真ん中に、小さな黒い穴。なんとこの穴、実際に穴が開いている仕様になっています。(※初回限定)

画像①:表面に5ミリの穴を開けたCDジャケット

そして次に、アーティスト写真(画像②)をご覧ください。コブクロのメンバーの右手には、謎の光るリング。赤と青に光っています。

画像②:メンバーの二人の腕には、謎の光るリングが装着されている

これを見たファンの人たちは何を思うでしょうか。「『奇跡』のジャケ、真ん中の黒い穴はどういう意味?」「腕につけたリング、これがきっと、今回の曲のキーになるに違いない」。ファンが思い思いに予想し、その考えをソーシャル上にシェアする動きがいくつも見られました。そうです。彼らはとにかくコブクロの話題に飢えていて、何か新しい情報が出てくると、それをキャッチし、シェアしてくれて、皆で予想ゲームをするかのように楽しんでくれるのです。僕たちの狙いは、まさにこれでした。あえて不完全な情報を投げかけることで、ファンを中心にノイズが高まっていく、そんなことを確認できた瞬間でした。

次に、ミュージックビデオ(画像③)をリリースしました。ようやく前述の謎が解明されることになります。ビデオの中で、思い悩む人々がハートのイヤフォンジャックにイヤフォンを差し込むと、心の中にコブクロが現れ、「奇跡」が聞こえてくる。その歌に勇気をもらい、立ち直るというストーリー展開になっていました。二人の装着していた謎のリングの正体は心拍計で、それがリアルタイムに背景の映像を演出する装置であるというテクニカルな仕掛けも施しました。このビデオを見たファンは、それまで抱えていたモヤモヤがすーっと晴れて、ひとつのストーリーが頭の中に完成し、人にシェアしたい気持ちが増幅したのではないでしょうか。

画像③:二人の鼓動にあわせて水滴が発射される装置を活用し、リアルタイムにライトの演出が変化する。
二度と再現不可能な“奇跡”の映像に仕上がった。
また、ハートのイヤフォンジャックは、物語の中でキーアイテムとして登場。
MVを視聴することで、謎の穴の意味が明かされる仕組みになっている。
(動画はこちら:
https://www.youtube.com/watch?v=0NVlWFTXGfI

 

現に、ソーシャルリスニングをしてみると、「MV見た。ジャケットのあの穴の意味が…(涙)」や「MVやばい。アー写とジャケ写と光るブレスレットの意味がわかった!」といった好意的な意見が後をたたず、多くのファンがさらに情報をシェアしてくれる行動が生まれました。さらに、リアル施策として東京タワー大展望台の壁に、ハートのイヤフォンジャックも設置することにしました(画像④)。情報を聞きつけたファンの訪れが絶えず、写真が連日ソーシャルメディアにアップされるような状況が続きました。

画像④:東京タワーの大展望台に設置されたハートのイヤフォンジャック。
イヤフォンを差し込むと光り、コブクロからのメッセージとともに曲を聴くことができる。

そして3月4日。店頭に並んだCDジャケットには、ミュージックビデオで見た、あのイヤフォンジャックが開いています。このCDを購入したファンは、CDジャケットにイヤフォンを差すそぶりとともに写真をシェアし、さらにここでも多くのシェアが生まれました。(画像⑤)

画像⑤:CDジャケットにイヤフォンを差して遊ぶ、ユーザーのTweet。

 

「ファンをコミュニケーションストーリーの中に誘う」(井上)

この事例から言えるのは、ロイヤルティーの深いファンを、インフルエンサーとしてコミュニケーションに巻き込む、共創型のストーリー設計の重要性です。シェアは誰もがしてくれるものではなく、関与度の高いファンこそが中心になって行われるものだと思います。この事例のみならず、映画やマンガ、車などは根強いファンが多く、ファンがコミュニティー化している場合もあります。こういった濃いファンをうまくコミュニケーションストーリーの中に取り入れ、一緒に話題を作り上げていく。そんな視点を持つところから、バズは起こせるのかもしれません。