地方創生の「処方箋」 

ローカル世界のホントの話

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    冨山 和彦
    経営共創基盤(IGPI) CEO
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    山田 修康
    株式会社電通 電通総研 シニア・コンサルテイング・マネージャー

地方創生の掛け声が高まっている。地方の発展が、大都市そして日本の将来に大きなカギを握る。企業・事業再生に豊富な知見を持つ、経営共創基盤の冨山和彦CEOに地方経済の実情を聞いた。 そこから導き出された「処方箋」とは。

地方創生

その1 地方への誤った“常識”を正せ

 

――震災復興下の東北で、企業の再建を手掛けられてどのような課題が見えましたか。

地方を議論する場合、誤った「常識」を正す必要があります。まず、「地方は経済が疲弊しているので人手が余っている」という思い込み。人口減少で経済が右肩下がりでも、人手不足の状況が続き、深刻な供給制約経済になっているのです。
ローカル型のサービス産業(第3次産業)は対面型・労働集約型サービスが中心です。また、「地方再生の原動力は製造業と農林水産業」というのも誤解です。従業者数では製造業が2割程度、農林水産業に至っては4%にすぎません。客観的・定量的な数字で現状を分析しないと、やはり議論の方向性を見誤ります。
地域密着で対面型サービス産業の人手不足を解消するには、労働参加者を増やすか労働生産性を高めるしかありません。グローバル型の産業では、東京が先端地域だと思いますが、その東京でさえローカル型のサービス産業従事者が圧倒的に多いのが現実です。
要するに、日本の社会・経済の課題は、以前から地方が直面していた問題なのです。私自身が東北のバス会社などの再建で実感したのも、まさにその点です。これまでの「地方」に対する誤解を改め、産業構造や社会経済構造がガラリと変わったことを正しく認識した上で果断な政策を打っていく必要があると思います。

――地方への振興策では、人口集積度の低さによる効率性を懸念する声もあります。

東名阪の大都市圏を除く地方在住者の3割が人口30万人以上の中核都市に住み、10万人以上の都市だと6割になる。地方在住者で中山間部に住む人は3分の1もいません。
地方経済の問題というのは、都会型で暮らしている中核都市をいかに活性化するかに行き着くのです。適度な集積度の街をつくり、稼げる仕事をつくる過程で、基幹産業であるサービス産業の労働生産性を高める必要がある。
生産性が低い限りは、賃金は上がらず、お金が消費に回らない。企業の収益向上、再投資という循環も生まれません。まず地方のサービス産業の生産性向上を図る必要があります。

富山和彦氏

その2 新陳代謝して生産向上を

 

――生産性が低い要因は?

地方経済圏もある種のミニ護送船団型で、会社をつぶさないことを優先して安定した仕組みを築いてきた。労働力過剰時代は社会的な安定を生んだその仕組みも今は、イノベーションや競争を阻害し、労働生産性向上の足を引っ張る要因にすぎません。 現実に人手不足なわけですから、新陳代謝して生産性を上げないと、社会システムが崩壊してしまう。
バブル崩壊以降、人手余りの固定観念が染みついて、生産性の向上が人員余剰につながるという錯覚をいまだに払拭できない人たちがいますが、今は全く違う。生産性の向上は労使ともに間違いなくwin-winになるのです。
 

――もてなしの精神でサービスするから日本は生産性が低いと指摘する人がいます。

半分正しくて、半分間違っています。労働生産性は、労働時間分の付加価値です。おもてなしに費やした時間の付加価値をちゃんとお金に転嫁しないと、当然のことながら労働生産性は下がる。サービス産業のコストは時間です。
お客さまは、払ったお金に対して、どれだけの価値があったかを常に比較して見ているわけです。知恵やサービスは、料金と投入した時間の業務効率を意識して収支管理をするものです。おもてなしをした分、相応のお金を取るべきなのです。
 

――生産性向上を図るために新規参入をうながそうとすると、規制の問題も出てきます。

サービス産業は労働集約型なので、参入規制を緩和して競争が激化すると、従業員に低賃金・長時間労働を強いる経営者も出てくる。そのとき、安全、衛生などで問題が起きると、行き過ぎた規制緩和はけしからんという議論になりがちです。
実際、過去10年は規制強化の揺り戻しが起きています。参入規制緩和時に、労働時間規制、最低賃金、安全・衛生監督などを厳しくするスマートレギュレーション(賢い規制)も同時に強化する必要があります。

 

その3 “地方で暮らす幸せ”を考える

 

――地方企業の人材確保での課題は?

東京には確かに仕事はありますが、求人の多くは、専門的な勉強やスキルが必要なジョブ型の職種です。これは地方も同じことで、東京も地方も変わらないのです。しかし、親は知名度の高い会社で働いてほしいと思い、幻想と誤解によって、必要以上に若者が東京へ集まる。
でも現実は、東京の生活コストは高いし、通勤時間は長い。結婚しても子どもを預ける場所がない。それに対して、職住近接の地方の中核都市なら、夫婦共働きで子どもを育てるのも難しいことではありません。いったいどっちが幸せかということです。
大学の進学費用も、今度の地方創生戦略では、地方に就職する大学生の学費支援制度を設けようとしています。教育費の経済的負担は、政策で十分対応できることなのです。 生活の安定という意味では、雇用の安定と共に、賃金相場を上げていくことも必要です。事業の集約化を図ることで、地域全体の生産性を上げ、年収を2割、3割上げる努力をすべきです。

――生産性上昇のための人材教育は?

オペレーションマネジメント、コーチング、見える化など従業員教育に投資して、モチベーションを高める施策を実行すれば、良い人材を確保でき、収益力が高くなります。
従業員の賃金をたたいて長時間働かせて、企業収益を確保する時代ではない。結果的に人が集まらず、企業の存続が危うくなるだけです。

山田修康氏

その4 農業と観光に“稼げる力”を

 

――生産性向上が「稼ぐ力」の土台だとすると、農業にも大きな課題があります。

農業はサービス業より生産性が低く、多額の補助金を注入してきた。その弊害を打ち崩すには、市場経済に任せる方向性をとるのが基本だと思いますが、参入障壁を低くして新陳代謝を図ると同時に、農業と関連産業全てに生産性を上げる動機づけとなるスマートレギュレーションを敷くことが重要です。
やみくもに規制緩和するのではなく、用途規制など強化すべき規制はきちんと強化していかなければなりません。また、生産性が高く、モチベーションが高い優秀な農業従事者を優遇する政策も必要です。収入を高め、若い人が結婚・子育てが可能だと思える魅力的な産業にしていくことが何よりも大切です。
一方、農業は食糧安全保障、公共財的な観点からの配慮も必要ですが、その点はナショナルミニマムとして税金で支えることも考えなければなりません。といっても、財政負担はそんなに大きいものではありません。
 

――外国人の観光客が増加しています。稼げる観光産業にしていくための課題は?

サービス産業共通の問題として事業者の新陳代謝は必須です。観光固有の問題としては、働き手の言語力の問題があります。教育訓練が不可欠ですが、ローカル型のサービス産業はほとんどが中堅中小企業で、雇用スタイルは、ある特定の技能をベースにして働くジョブ型雇用です。
その産業特性、雇用特性を考えると、基礎的な訓練は、学校システムの中で積ませるのが最適です。職業訓練と資格取得制度を上手に組み合わせてトレーニングし、外国人が安心して宿泊できる旅館・ホテルだという情報を発信することが大きな課題になります。
これには政府の介入が必要だと思います。教育訓練の問題も、現在の日本の学校制度が抱える問題に行き着きます。学術的な一般教養至上主義になっている高等教育のあり方を、抜本的に変えていかなければなりません。

その5 ローカルに人と知識を回せ

 

――地方の企業に技術やアイデアがあっても、目利きをする人材の不在で、“チャンスの芽”が出ないケースもあるようです。

優秀な人材が大都会に偏って、閉鎖的な仕組みの中に閉じ込められているため、人と知恵が効率的に世の中を循環しないのです。市場経済の大前提は、知恵とお金、あるいは、開発する才能と営業する才能、経営する才能などが自由に動き回り、その組み合わせから新しい価値が生まれる仕組みです。障壁があると、そのベストマッチが起きなくなってしまいます。

――地方創生には、地元の資源に加え、外部からの発想や視点も重要ですね。

グローバル経済圏で勝負してきた企業を再生するのは大変ですが、ローカル経済圏の会社は、かなりの確率でうまく再生できます。
ストリートインテリジェンス(現場体験から得る知識)を身に付け、PDCA(計画、実行、評価、改善)を回して目標達成に臨めば、100メートルを30秒で走っていたのを20秒にすることはできる。裏返して言えば、そこに非常に大きなチャンスがあるということです。

富山和彦氏

――人材・ナレッジをマッチングさせると、マーケティング、ファイナンス機能なども強化されますね。

地方にもグローバルで勝負できる潜在力を持った企業が多くありますが、人材や情報アクセスがなくて、埋もれてしまうことがよくあります。逆に海外の企業がそんな企業を発掘することもある。
東京の大手企業に勤めていた人が地方に還流し、付加価値を創出する仕事で活躍する。私は、そういったケースを数えきれないほど見てきました。 地方に不足しているのはナレッジの流通・共有です。
やるべきことははっきりしていて、賢い規制をした上で、労働市場に流動性を持たせ、都会から地方へナレッジトランスファーを起こす。労働者のスキルを上げて生産性向上を図り、「相応の賃金」「安定雇用」「誇り」のある地域と仕事を創造する。
結果的に、「地方の稼ぐ力」が高まり、日本全体が良くなる。これが結論です。

――ありがとうございました。

プロフィール

  • Toyama kazuhiko profile
    冨山 和彦
    経営共創基盤(IGPI) CEO

    東京大法学部卒 スタンフォード大MBA修了
    ボストンコンサルティンググループ勤務、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、IGPIを設立。経済同友会副代表幹事ほか要職を歴任し、企業・事業再生に豊富な経験を有する。昨年出版され話題となった『なぜローカル経済から日本は甦るのか』(PHP新書)など著書多数。

  • Yamada nobuyasu profile2
    山田 修康
    株式会社電通 電通総研 シニア・コンサルテイング・マネージャー

    大手広告会社を経て、2005年電通入社。国策プロジェクトのストラテジック・プランニング、新産業動向を踏まえた地域開発、ブランド開発、事業設計、IMF世銀総会におけるジャパンプレゼンテーションの企画構築、戦略広報に取り組む。執筆記事に「スマート時代の潮流」「地域創生の処方箋」など。
    【専門分野】産業動向、地方創生、事業設計

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