加速する動画の「オムニ視聴」 #05

2020年、近未来の動画視聴風景

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    立木 学之
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 主任研究員(2015年末時点)

前回まで、「動画視聴に関するWEB調査」「通勤・通学時における動画視聴調査」「若年層におけるテレビ視聴量とネット利用量の併存パターンを規定する要因に関する調査」の3つから、通勤・通学時において動画視聴機会拡大のポテンシャルがあることや、インターネット動画は自宅でかつ1人で視聴されるというパーソナル性が高いコンテンツである点を紹介した。
当連載では動画視聴の点から若年層を掘り下げてきたが、最終回は今後のマクロ環境などを鑑みて、彼らが実際にどのようなメディア行動を取ることが予想されるかについて考察してみたい。


◆ 動画の「オムニ視聴」が加速

 

今後、技術進歩によって通信速度が高速化していくと、視聴されるコンテンツが通信なのか放送なのかの区別が曖昧に感じられるようになるだろう。かつては「テレビ=放送=高精細」「インターネット=通信=低精細」という図式が存在していたが、通信でも4K並みのクオリティーで動画を提供できるようになると、オーディエンスの意識から見た場合、いわば「伝送路認識の希薄化」が起こる。

本章までに見てきたオリジナル調査からも、テレビ由来と思われるコンテンツのプレゼンスが依然として高いことが立証されたが、4Kテレビや第5世代通信規格が出現しても「魅力的なコンテンツがオーディエンスを引きつける」という構図が変わることはない。オーディエンスが見たいと思うものは、それが自宅内外、伝送路の違いに関係なく見たいものなのだ。
このようにテクノロジーの進化と環境整備の進展によって、屋外でのインターネット動画視聴、タイムシフト視聴、プレースシフト視聴など、オーディエンスはさまざまな行動を取り始めることが予想される。若年層は生まれながらにしてスマートフォンを手にしており、その動きが活発化するだろう。インターネット通信を活用したIPサイマル番組配信やリモート視聴対応機器によるテレビ番組視聴行動も一般化していくだろう。

このいつでもどこでも動画が視聴できる環境、いわば「動画のオムニ視聴」現象を見据えつつ、情報メディア産業にかかわるプレーヤーが現行のビジネスモデル基盤を維持・発展させていくには、伝送路の違いや時空間を包含するさまざまな「オケージョン」において、若年層の視聴状況を定量的に把握する必要にも迫られるだろう。
特にスマートフォンネイティブの若年層では動画視聴がよりいっそう活発化し、通信か放送かを意識しないコンテンツ消費の方向に向かい、それに対応するべく、メディア/コンテンツにかかわる事業社は、図表1のように地上波、BS、CS、インターネットの4 メディアをベストミックスさせたビジネスモデルの模索が始まると見られる。今後の動画市場の動向には注視する必要があるだろう。

図表1

◆ 2020年 動画視聴風景

 

通信の高速化・大容量化に伴い、いたるところに動画が入り込んだ世界での生活はどのようになっているのだろうか。2020年という近未来において、動画は現在よりもさらに身近な存在となる。いつ、どこにいても、どんな時でも動画に接することが可能な世界での生活風景を描いてみた。

【起床時】
自宅内のいたるところに動画の接触ポイント

技術の進化に伴い、朝起きたその瞬間から意識することなく動画に接触することになる。窓ガラスがディスプレー化しており、アラームとともに窓ガラスに映像が投影される。たとえば、テレビのニュース番組などが、テレビ受像機ではなく窓ガラスに映るようになる。テレビ映像のほかにも、一日に必要な情報(天気予報や交通情報、スケジュールなど)を教えてくれる。屋内のあらゆるものがディスプレー化しており、生活動線のいたるところ(たとえば洗面台の鏡や、キッチンの冷蔵庫など)に動画が入り込んでくるようになる。

【起床時】 自宅内のいたるところに動画の接触ポイント

【通勤・通学時】
動画視聴のプライベート視聴

動画視聴は通勤・通学時の電車の中にも浸透している。スマートグラスやスマートウオッチといったウエアラブルコンピューターの普及により、混雑した車内でも幅を取らずに動画を楽しむことができるようになる。また、ウエアラブルコンピューターでの動画視聴時にはBluetoothを利用したイヤホンが主流となり、ワイヤレスで音を視聴者に届けてくれるようになる。スマートフォンやタブレットを利用する人も依然としているが、周囲の目を気にすることなく利用できるスマートグラスで、好きなコンテンツに接触する人が一般化する。

【通勤・通学時】 動画視聴のプライベート視聴

【学び】
場所と時間を選ばず受講

未来の大学では、授業は講堂や教室だけで受けるものではなくなっている。街中のカフェなどで、場所と時間を選ばずに授業を受けられる環境が整っている。お店の中のテーブルがデバイス化しており、スマートフォンなど自分の保有するパーソナル端末をテーブルに置くことで、自動的に端末が起動し、テーブルが自分専用のパーソナルデバイスとして使えるようになる。今自分が見たい動画にすぐにアクセスできるようになる。場所を選ばずに大学の授業を受けられるようになることから、地方在住であっても東京の大学の授業を受ける、もしくは世界中の大学から先端的な授業を受けるといったようなことが可能となる。

【学び】 場所と時間を選ばず受講

【街中】
ショッピング中でも常に動画に接触

未来の街中は動画コンテンツであふれている。デジタルサイネージで動画が流れ、街中の看板や柱看板など、いたるところに動画の案内や広告を目にするようになる。街中に流れる動画で気に入ったものがあれば、自分の保有するスマホを向けるだけで、手元にその動画が流れ込んでくるようになる。動画をお気に入りに登録すれば、商品に関する情報や、取り扱っている近くのお店などの情報も配信される。また以前行ったお店であれば、服のサイズなどを登録しておくことで、即座に在庫の確認や予約などがとれるようになる。単に街中に動画があふれるだけではなく、個人情報などと組み合わせた、より快適な買い物をすることができるようになる。

【街中】 ショッピング中でも常に動画に接触

【友人との動画視聴①】
場所を選ばない大画面でのテレビ視聴

手元のスマートフォンが小型のプロジェクターとしての機能をもつようになる。壁さえあれば場所を選ばずに、大画面でのテレビ放送などを友人たちと楽しむことができるようになる。四畳半の部屋の中や部室であろうと、また公園や路上であろうと数人が集まり、同じ動画を大画面で楽しめるようになる。スポーツイベントがある際に、いつでもどこでも気の合う仲間たちが集まれば、そこが大画面の共視聴の場となる。

【友人との動画視聴①】 場所を選ばない大画面でのテレビ視聴

【友人との動画視聴②】
3D ホログラム映像の普及

第5世代の通信規格が登場すれば、ホログラムの映像で3次元的に動画を視聴できるようになる。今までのスポーツバーでは大画面があり、一つの画面に皆が集中して楽しんでいたが、未来では端末化したテーブルから映像が個別に投射される。配信されている映像も様々で、同じ瞬間を別アングルで撮った映像の中から、好きなカメラアングルの映像をそれぞれのテーブルで立体的に楽しむことができるようになる。

【友人との動画視聴②】 3D ホログラム映像の普及

【自宅①】
テレビは形を変え、プロジェクター化

未来のリビングにはプロジェクター型のテレビが普及している。大画面のテレビ映像を壁に投射し、家族で楽しむことができる。食卓にもプロジェクターからの映像が投射され、テレビ映像とは別の映像を手元で楽しむことができるようになる。大画面のテレビを見ているお父さんや、選手のプロフィールを見ているお母さん、地図を見ながら別集団の様子を見ている娘。まったく別の種目を見ている息子など、同じ空間にいながら、手元で別々のものを楽しむスタイルが広がっている。

【自宅①】 テレビは形を変え、プロジェクター化

【自宅②】
ヘッドマウントディスプレーによる大迫力の映像体験

部屋ではヘッドマウントディスプレーといったようなパーソナル性の高いデバイスで、映画などのコンテンツを大迫力で見ることができる。投影する場所を選ばずに、目の前に広がる映像に没入することによって、動画を見るものから体験するものへと変えていく。部屋にいながら、SF の世界に入り込んだり、海外旅行に行くような気分を味わったりすることができるようになる。未来において動画コンテンツの専念視聴が増えていく。

【自宅②】 ヘッドマウントディスプレーによる大迫力の映像体験

若年層を中心に広まるインターネット動画のオムニ視聴。視聴環境が整っていき、オーディエンスが増え、かつコンテンツの拡充が後押しとなっていけば、インターネットで動画を見ることが普通の行動になっていくだろう。この領域から、ますます目が離せなくなりそうだ。

プロフィール

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    立木 学之
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 主任研究員(2015年末時点)

    入社以来、世代研究や男性消費トレンド研究のほか話題注目商品プロジェクトなどを担当。営業局にて大手自動車会社を担当した後、電通総研にて中国市場とインド市場のインサイト開発に従事。2012年1月より「電通日本の広告費」「世界の広告費」「情報メディア白書」の制作をはじめ、各種オーディエンスインサイト構築を手がける。2016年からインターネット広告のセールスを手掛けるセクションへ異動。

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