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NIPPON在住の、NIPPON通による、NIPPONのこれからのためのキーワード。No.17

2020年に向けたこれからの日本:Discover Japan 高橋氏、電通総研南氏・倉成氏 鼎談後編

2015/03/24

前回に引き続き、Discover Japanの高橋俊宏氏をお迎えし、電通総研の南太郎氏、倉成英俊氏の3人に「A HAPPY NEW VISION '15」を中心に議論を進めます。#09~#15のメッセージの感想をお聞きした後、今の日本のあり方と2020年にについて考えました。

それぞれのメッセージを振り返る:後編

#09「言祝ぐ」翻訳家・詩人・アーティスト ピーター・ジェイ・マクミラン

倉成:恥ずかしながら、言祝(ことほ)ぐって言葉、初めて知りました。今度、美しいけど忘れられそうな「日本語レッドリスト」を知る企画、ピーターに相談しようと考えています。

高橋:一応知ってはいましたが、いい言葉使ってきたな、と思いましたね。

#10「トイレを気にしすぎ。」ロケットスタッフ株式会社 CEO 高 榮郁(コウヨンウ)

高橋:具体的な言葉で面白いですよね。

倉成:電通報のアクセスランキングでは、これがトップでした。

高橋:もう少し外に出よう、殻を破ろうよ、というのが、皆さんのワードに共通してますね。

倉成:トイレが汚いという理由で、日本の若者は海外に行かないという話ですが、逆に言えば、日本のトイレが海外から見ればやっぱり断トツキレイということですね。

高橋:日本のウォシュレットを買って帰りたいという海外の人も多いですよね。トイレは、日本の魅力の1つですね(笑)。

#11「miwezon」ベナン共和国駐日大使夫人 ポヌ・ゾマホン・ジョジアヌ

倉成:こちらは唯一の母国語です。

高橋:日本語の「おかげさまで」と同じ感覚の言葉があるんですね。

倉成:miwezonを使った定型句で、「あなたがいるから私がいる」という言葉があるという話も聞いて、インタビュー中に感動して泣きそうになりました。

南:改めてインタビューを読み返すと、まるで日本の人が話しているように感じます。共通する面がかなりあると思いました。

高橋:ベナンという国に行ってみたいと思いました。

#12「イレギュラー」POSTALCOディレクター マイク・エーブルソン

倉成:紙の長さもイレギュラーになりました(笑)。

高橋:元々、日本の文化は対称的なものより、何かが欠けているところに美を見いだしたりします。

倉成:割れた器、食器や花器を使ったりするのも最高にお洒落だと思いますが、まさにそのことで、英語で言うとこうなる。

#13「エイリアンカード→在留カード→もっといいのないですか?」電通 ビジネス・クリエーション・センター 2020プロジェクト・デザイン室 キリーロバ・ナージャ

南:電通報のアクセスランキングで2位と、アクセス率が高かったそうです。

倉成:彼女はCannes Lions Titanium Grand PrixやD&AD Black Pencilなどさまざまな賞を受賞して、いま世界のコピーライターランキング1位(The Directory Big Won Rankings 2014)なんです。なので、アクセスでは2位ですが、世界1位のコピーです(笑)。

高橋:昔付けた名称で、今の時代にフィットしていない言葉って、いっぱいあるじゃないですか。そういった名称は、そろそろ変えなきゃいけないと思いますね。

#14「自分の人生のリーダーに。」一橋大学大学院 講師 国際企業戦略研究 ジェスパー・エドマン

南:日本はあからさまなリーダー的立ち振る舞いがあまり奨励されない風土があるけれど、逆にそのような国においてリーダーシップを発揮している企業のリーダーは、大変強いパーソナリティーを持っていらっしゃる方が多い印象がある、ということをインタビュー時におっしゃっていました。

高橋:確かにそうかもしれませんね。打てなくなるほど強力に飛び出た釘になるわけですから。

#15「もっと悩もう」ミュージシャン・ジャーナリスト モーリー・ ロバートソン

倉成:スペースが足らなくなって「う」が横になってます(笑)。

高橋 ショートカットしたり、効率ばかり求めてもダメということですね。

倉成:画一的な商業施設が増えているように、クリエーターのあり方も画一化しているのではないかと言っていました。すぐにタグ付けして何かのカテゴリに分けないと商売のスピードが遅くなることを気にしすぎると。今回の冊子の作り方も同じで、予定調和な意見しか出てこないのはつまらないので、会いに行って、考え方を掘り下げて、脱ステレオタイプをやるぞ!と言って作っていきました。

倉成:改めて通して見て、最も気になった言葉を選んでもらえますか。

高橋:今見ていて、僕は「イレギュラー」が良いと思いました。

倉成:私は、やっぱり「失敗しない≠成功する」ですね。

南:寛心・放心・開心」です。先ほども申しましたが、痛いところを突かれたと感じたからです。

自分たちが書き初めを書くとしたら

倉成:日本人は外国人からの視線を気にしますが、他の国ではどうなんでしょうか。

高橋:日本ほど気にしてなさそうですね。僕が聞く範囲では、自分の国が一番と考えていると思いますよ。イスラエルに留学していた友人がいるのですが、さまざまな国から留学してきた人がみんな自分の国を自慢し、日本人だけが自慢できず、悔しい思いをしたという話を聞きました。実は、こういったことがDiscover Japanを作るキッカケにもなっています。

倉成:高橋さんが書き初めを書くとしたら、何を書きますか?

高橋:やっぱりDiscover Japanですね(笑)。Discover Japanには、さまざまな意味が込められていると思っています。人によって違ったDiscover Japanがあるはずだと常々思っています。

倉成:僕は有識者という言葉が嫌いで、有識者会合などで近未来が決まるということに懐疑的です。イノベーションは、さまざまな異質な人たちが集まる必要があるならば、有識者と一般の人も混じったほうがイノベーションは起きるはずです。そうすれば、視点や知識の深い、広い、難しい、カンタンといったことがもっと混ざるはずだから。「日本」については、ずっとみんな日本で生きてきたのだから、1億3000万人のみんなが有識者です。それぞれの個人的な思いやアイデアを、コネクトした方がいい。

今回の冊子は、日本在住の外国人を選びましたが、普通に街を歩いている人を選んでも成立すると思います。国や地域、企業など、それぞれからピックアップしてメッセージを出していけば、みんなの思いが伝えられるものになると思います。自分が書き初めを書くとしたら、「全員有識者。」ですね。

南:私は「ブレない自己評価」と書きますね。日本人に生まれてよかったと思っていますが、日本人の好きになれない面もあります。欧米に不必要なまでの劣等感を持っていたかと思えば、バブル期には「アメリカから学ぶことはもはや何もない」などと急に傲慢な事を言ったりします。振れ幅が大き過ぎます。短期的・表面的な現象に振り回されないようにしたいと、自分への戒めも含めて思います。

倉成:IMF世銀総会のプロデュースのときに、日本は世界70億人195カ国ある中の「何係」になればいいのかと議論していたことがあります。たとえば、ブラジルには「ジャポネスクギャランティード」という言葉があり、日本人は大丈夫、日本製品は大丈夫という考え方です。また以前、日系ブラジル人芸術家の大竹富江さんにインタビューしたときに、日本は、世界に類を見ないほど道徳がしっかりとしているという話になったこともありました。

その方向で行くなら、195カ国の中の「いいやつ」というポジションを選ぶことができるはずです。イノベーションや創造的破壊を目指したほうがかっこいいかもしれないけど、世界がこれだけ荒れている中で、日本は「いいやつ」になろうという戦略があってもいいと思います。「世界の何係になる?」というのを書き初めにしてもいいかもしれません。

地域活性化の現在とこれから

南:高橋さんはDiscover Japanの編集をされる一方で、実際の地域活性化に関わるお仕事もされていますが、「日本をこのような姿にしたい」といったイメージがあったりするのですか。

高橋:地域活性化の正解は1つではなく、それぞれの地域の足元に正解のヒントがあり、そこから魅力を引き出そうといつも言っています。バラバラな個性から地域活性が生まれ、日本の豊かさにつながったらいいなと思います。かつては欧米の文化に憧れていたものが、日本はいいという話になり、さらに日本の各地域が自分を肯定して自慢できるようにシフトしていければ、といつも考えています。そのために行政は、人に会わずに補助金を出したりするのではなく、現場に行って体感して、納得してほしいと言っています。

倉成:それは地域の話だけではないですよね。会議で、周りに気を使って意見を言わない人、多いじゃないですか。最近気づいたのは「個人的には」法。「個人的には」と頭に付けると、みんな意見を言いやすくなるんですよ。行政も地域の担当者も、現場に行って、目で確かめて、自分の思いと考えで動かないと答えは出ないし、プロジェクトも進まない。「個人的には法」を上手く使ってほしいですね。

高橋:リスクや失敗を考えるとできなくなるというのはわかるのですが、「個人的には」ということで行動を起こしてもらえるといいですね。

倉成:権限がなかったり、チームのコンセンサスが取れていないから「個人的には」という言葉を使うのだと思うのですが、個人的な思いがなければ、変化は生まれないし、いいものを作れないじゃないですか。Discover Japanも高橋さんの個人的な思いから生まれているわけですし。

高橋:Discover Japanの前は、北欧デザインの本を作っていたのですが、家具デザイナーのハンス・J・ウェグナーさんの家に行ったら日本の物がたくさん置いてあったんですよ。日本で、北欧デザインのブームがあって、ウェグナーさんに会いに行ったのに、彼らは日本のデザインを非常に参考にしていて、北欧ブームのルーツに自分たちがあったということに気づかされました。

2020年までの日本を考える

南:最後に「これからの日本」について少し話したいと思います。これまでの日本の強みはモノづくりの領域で主に発揮されてきましたが、製造業はすでにGDPの2割程度であって、今後はサービス業に自ずと期待がかかる部分があります。サービス業には中小企業が多く、地方への広がりも顕著です。また、2020年というチャンスについて言えば、日本を訪れた外国人にいかに日本好きになってもらい、また訪れたいと思ってもらうかが重要となります。この辺りのことについて、高橋さんは地方関連のお仕事を通じて思うことはございますか。

高橋:Discover Japanを編集していく中で、やはりローカルや地方でのモノづくりが盛り上がっていると感じます。最先端なモノが作られるのは東京ばかりと考えている人が多いですが、地方のほうが新しいチャレンジを行い、新しいモノを生み出しています。僕らは、それを紹介していって、地方がいかにイケているかを伝えていきたいですね。

たとえば、尾道では「ディスカバーリンクせとうち」というプロジェクトで倉庫をリノベーションしたホテルやラウンジ、カフェなどを開き、場作り、モノ作り、コト作りを、地域を巻き込みながら非常に上手くやっています。地域の住民の満足度をまず上げて、その上に観光を乗せていかないと、東京や海外の真似事のような場ができるだけです。「ディスカバーリンクせとうち」のように、地域では、地元の人が喜ぶことを観光につなげていくというようにシフトしてきていると思います。

倉成:ここ4~5年は、たまたま国や自治体のプロジェクトをたくさんお手伝いをさせてもらい、日本について考えたり、議論しながらプロジェクトを進めることに縁があるのですが、その中で個人的に(笑)思うのは、「オジサンの、オジサンによる、オジサンのための何か」というものが世の中に非常に多く、これを21世紀型にアップデートしなければならないというのが、我々の世代の役割なのではないかと考えています。高度成長時代の効率化のままで進んできているものを、脱ステレオタイプし、リノベーションしていかなければなりません。また、若い才能を抜擢して、風向きを変えたり、化学反応を起こすことも必要になってくるでしょう。

2020年やもっとその先に向けては、ジャパンブランディングやジャパンプレゼンテーションという情報発信部分の前に、中身、つまり日本も東京も自分たちもまず「どうしたいのか」「どう生きていきたいのか」をしっかりと持つことの方が大事。それをみんなでシェアすることも、ちゃんとぶつけ合うことも必要ですよね。独自の哲学、仮説、新しい価値観を作る。そのお手伝いを、いろんな形でしていきたいなと思っています。電通総研的にも。個人的にも(笑)。