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新明解「戦略PR」No.21

広告換算を求めた時点で、すでにおまえ(=PR)は死んでいる!(怒)

2015/03/30

さて、新明解「戦略PR」シーズン2、そろそろ中盤を迎えております(えっ?もう?)。そう、シーズンは短く、話題はころころ変わっていくモノですよね。ファッションと同じく、トレンドはあっという間に過ぎゆくものですが、一巡してもう一回旬になるということもよくあります。ってなことで、今月も読者のみなさんからの質問にビシッと答えていきますよー。題して、「そこんとこ、いのっちに聞いてみよっ!」のお時間です。

PRの効果測定は何で測るのか?

さて今回は、PR業界のお仲間を悩ませるKPI問題。「で、KPIはどう設定しますか?」なんてお題をクライアントからいただくわけですが、もちろん正解はありません。まず「何を基準とするのか」、そして「どこを合格ラインとするのか」を決めねばなりません。でも「えっ? 私たちがゴールを設定するんですか?」って感じがしちゃいますよね。目指すゴールというのはクライアントが明確にもっていなければいけないはずで、それを仕事の依頼相手に任せちゃっていいのかな、と思うことがあります。広告だと、「このくらいの予算かけて、このくらいのことやれば、このくらいの人に認知されますよ、そう他社もそれで納得してるんで!」みたいな感じでOKなんでしょうが、PRってのは未経験のところも多いし、未知なる世界と思っている企業さんも多いんですよね。だから先のようなオーダーになってしまうことも仕方ないのかもしれません。

広告の成果は、どれだけの人に届いたかが、まずは問われます。それはテレビの視聴率や新聞・雑誌の発行部数、あるいはウェブサイトのPVなどでリーチした数として導き出せます。「知らしめる」という意味で言えば、この数値が確かに適していそうです。しかし一方で、情報氾濫のこの時代、広告的メッセージのほとんどが思い通りに行かなくなっています。すなわち、「なんか言われてた気がするけど、あれ何だったっけ?」みたいな。頭や心に、情報が歩留まってないわけですよ。

PRの成果は、「意識変化、態度変容、そしてエンゲージメント」を意識

ひるがえってPRに求められる本質的成果とは何なのでしょう。カンヌライオンズのPR部門では常に同じ指針が貫かれています。それは「Change Minds, Change Behaviors, Engagement」ができているかどうかということ。すなわち「いかに生活者の意識を変えられたか?」「態度変容まで導けたのか?」「中長期的に見て、それは企業や団体と生活者との間に共感を構築・強化できたのか?」に至っていないとダメだよね、ということ。「言ったよね?」「聞いてねぇよ!」ではダメ、絶対!なんです。

しかし、現在効果測定で横行しているのはみなさまおなじみの「広告換算」というやり方。メディアに載せてどのくらいの人に見てもらえたかな?を測っているわけです。でもそれって結局「広告代替手段」として評価するわけですよね。すなわち情報リーチがその目的になってしまうわけで、PRが効果を発揮する信頼性や納得性、また話題の拡散性などの中身には触れられないわけです。さらにそれは「PR=パブリシティー」というステレオタイプに陥っているということ。

もちろん「リーチを最大化したい!」「CMを打つ予算がないからPRでマスメディアのパブリシティー露出を獲得したい!」という単純な目的の場合もあるでしょう。一概にそれがダメとは言えませんが、現在の立体的な情報流通構造の中で、実際の人を動かす仕組み作りを考えるのであれば、やはりそういった単純な考え方は否定していかねばならない時期だと思います。でないと、「単に露出する。中身は関係ないもんねー」という、本来の目的を無視したやり方に陥ってしまうことになりかねないと思うのです。

広告換算以外のKPI測定は果たしてあるのか?

「あるんです!」と、私ここで強く言っちゃいますね。そう、あります。もしかすると数字なんてことよりも「テレビであの番組見たあと、スーパーの棚から商品が一瞬で全部なくなっちゃってー♪」なんてことが起きればクライアントさんも納得するのかもしれません。そんな事象に接すれば「そんなこまごました数値いらんぜよ! 祭りじゃ祭りじゃ、わっはっは!」とPR効果をガッツリ体験いただけるわけで、「次も大漁、狙うぞい!」と瞬く間に「PR=神扱い」となることも多いです(私もたまに神扱いになります。家庭ではほぼゴミ扱いですが…)。でも毎回そんなことは起こりえないですよね。じゃ、細かく成果見ていきますかっ、ってことになります。

実はPRに慣れている企業さんほど、さほどそういった数値へのこだわりはありません。PRというアンコントローラブルな世界に生きていると、肌感覚みたいなものも身につくわけですね。とはいえ、経年やプロジェクトごとに追える評価軸があるのなら見てみたいとも思うでしょう。そんな方々にお薦めする指標として、いくつか代表的なものを紹介しましょう。

①メディア・ヒアリング

メディアの視点から、企業の情報発信の中身や発信体制などについて意見をいただくというもの。記者がおもしろい、報道したい、と思ってくれていても、メディアのスペースや尺は限られているわけで、タイミングによっては、掲載・報道されないこともあります。例えば、テレビで企画になり、取材されたとしても、大きな社会的事件の影響でその取材レポートが放送されないままお蔵入りしてしまうこともあるのです。報道されたから今回の情報発信は良かったと定量的に評価することだけが、KPIではありません。報道されてもされなくても、そこには記者の所感があるはずなのです。ですからメディアの記者たちに、実際のところ企業からの情報をどう捉えたのかを聞いてみれば、PR活動の定性的な評価につなげることができるはずです。企業としては、自分たちの活動を第三者視点で批評してもらうことで、次の活動の一手を考えることができます。活動のヒントとなる意見は非常に貴重ですよね。

②ソーシャル・リスニング

マスメディアへの露出が困難だったり、またマスメディアでの露出に興味を示さないネット重視の企業さんなどもいらっしゃるでしょう。そんなときにはネット上に流通する生活者のナマ声を拾うことをお薦めしています。いわゆる「ソーシャル・リスニング」です。以前からリスク対応ということでネット上に書き込まれたネガティブ意見をウオッチするなどのサービスはありましたが、最近ではポジティブ意見も拾い上げ、さらにそれを詳細分析するということをやります。

「この製品の実はここが好き!」「この機能はこういう使い方のほうが意味あるよね」「この言い方は、私たちのことを何もわかってないね!」など、情報発信側の思惑とは違う伝わり方から、新たな評価ポイントが見つかる、あるいは現商品の改善ポイントが見つかるなどといったことがネット上では頻繁に起きています。これらの意見をリアルタイムに拾い、評価されている部分はより強く訴求、ネガティブな部分は戦略を転換して、というふうに即時対応していくのです。併せて、どのような属性のグループに何が評価され、またどういう経路で情報入手、拡散されたかなどを把握することもできます。イマイマの情報展開がどうなったか、ということも大事ですが、こちらも次の一手をどう考えるかという視点で活用できる手法ですね。

③情報接触前後の生活者パーセプション比較

最後が、先に挙げた意識変化や態度変容を、PRが実際に引き起こせたかを追う調査。ちょっと大がかりになりますが、PRキャンペーン前後で数千の生活者サンプルの変化を比較するというもの。たとえば3カ月のPRキャンペーン期間、生活者が毎日どのような情報接触を体験し、それによって「商品に関心を持った」「買ってみたいと思った」「店舗に赴き購買検討した」「買った」など、どのような行動をとったのか見ていくわけです。

当然、いろんな情報接触をしているわけで、同期間にCMを見ている人もいるだろうし、PRから派生したネットのニュースを見たかもしれない、はたまた街中のイベントで、あるいは店舗のセールで製品を知ったのかもしれない。でもそれぞれ単体で情報接触した人、複数の情報接触をした人などを条件別に比較していくことで、個々の施策における効果というのも導き出すことができます。こうすることで「PR単体の効果」というのも判明してくるわけです。

売り場来場意向率/購買検討率がそれぞれ4倍に

ここで私はある経験をしました。導き出される個々の成果を見るよりは、それらを複合的に組み合わせた時の効果の方が注目に値するということ。これは一例ではありますが、私が関与したキャンペーンで、CM単体接触の場合よりも、PR情報と複合的に接触した生活者の方が、売り場来場意向率/購買検討率がそれぞれ4倍になるという数字を弾き出したのです。広告で、PRで、という単体ソリューションではなく、やはりいかに各施策を有機的に設計できるか、これが現代のコミュニケーションプランに強く求められることではないでしょうか。

ほかにも「日経企業イメージ調査」の各項目のポイントを経年で追っていく、製品の売り上げとの連動をみる、株価との相関を重要視するなど、さまざまな指標はあります。時にリアルタイムというショートタームで、時に経年というロングレンジで、時に定量的に、時に定性を絡めながらとやり方はさまざま。でも要は何をゴールとするか?なんですよね。すなわち大切なのは「あなたが何を目指すのか?」をしっかり私たちに伝える、ということではないでしょうか。もちろん一緒に議論することも大歓迎。先月に続きまして、「ワタシニレンラクシテクダサーイ」。