loading...

前に進め、30オトコ。No.5

未来をつくる30オトコ、仕事の持ち場づくりとは?(前編)

2015/03/30

いまや私たちの生活に欠かせない存在となったスマートフォン。
もしスマートフォンが無ければ、現在の生活は維持できないと言っても過言ではありません。
仕事やプライベートのあらゆる場面で必要とされるツールになった結果、外出先でスマートフォンの充電が切れて途方に暮れた経験のある人も少なくはないでしょう。スマートフォンは、持っている人が増えるというフェーズから使い方が深まるというフェーズになり、「便益」と共に新たな「負」も発生しています。
この「負」を解消することで急成長をしている企業がある――そして、その経営者の方がひとりの30オトコとしてとても興味深い人生を歩まれていることを知り、アンカー・ジャパンの井戸義経社長にお話を伺いました。
ゴールドマン・サックス証券をはじめとする外資金融の畑で腕を磨いたビジネスマンが、日本のものづくりの世界で見つめる未来とは――。
井戸社長と、「THINK30」の大貫元彦が、「30オトコの迷いや不安と人生の岐路」について語り合います。

【Anker】
モバイルバッテリーなどのスマートフォン周辺機器を開発・製造、世界中で販売するブランド。
2009年、米Google本社の検索エンジンに関わっていたSteven Yang氏が事業を開始。
2013年1月に日本法人を設立したばかりの若い会社だが、グループ全体の年間売り上げは早くも全世界で200億円を超えると予想されている。

魅力的な海外企業に出合い、日本法人の設立を決意した

大貫:僕が井戸さんを知ったのは、同僚の紹介がきっかけでした。「30代の、とても面白いチャレンジをなさっている経営者がいる」と聞いてお会いしたところ、ゴールドマン・サックス、メリルリンチなどの外資金融畑を渡り歩いたあと、突如、“ものづくり”の会社の日本法人を興しているということがわかって……。そのユニークな人生に、強く引かれました。
10年近く積み上げてきた金融畑のキャリアを手放して新しい世界に飛び込むというのは、容易なことではないと思います。なぜ、ここまで思い切ったキャリアチェンジをしようと思われたのでしょうか?

井戸:最大の理由は、Ankerが魅力的なブランドだったから。私がAnkerに出合った当時、米国や欧州のAmazonなどでトップクラスの販売実績を残しているにもかかわらず、日本では本格的に販売を行っていませんでした。
そこで、日本事業の本格的立ち上げを提案しに創業者に会いに行ったのです。その際に、彼は、とても明確かつ共感できるビジョンを提示してくれました。

「今後スマートフォンの普及が進み、開発途上国も含めてあまねく世界中の人々が保有する時代となる。その後には、“スマートフォンを深く使う”というフェーズがやってくる。我々は、使い方が深まることで成長する“これからの分野”を取りたいと思っている」「便利な周辺機器は、ユーザーの時間を節約して、新たな時間を作り出す。より多くの便利を提供し、時間と余裕を生み出して、やがてユーザーひとり一人の人生の価値を高めたい」、そんなことを熱く語ってくれたんですよね。
売り上げや利益の話だけだったら、人生を賭けて一緒にやりたいとは思わなかったと思います。大きな夢と可能性、そしてストーリーがあったからこそ、「ここに賭けよう」と思えました。

大貫:夢を語れる社長の存在は、重要ですよね。

井戸:はい。しかもこの社長、私より若いんですよ。それにもかかわらず、圧倒されるぐらい大きく力強いビジョンを持っていて、しかも会社を急速に成長させる基盤を作っている。
集まっているスタッフも優秀で、「自分もこの一員に加わりたい」と思いました。……と同時に、「悔しいなあ」という思いもあって。年齢が近いからこそ、「負けていられない」「日本のものづくりだってまだまだやれるんだ」という思いを新たにしました。
この反抗心みたいなものも、アンカー・ジャパン設立のモチベーションになりましたね。負けず嫌いなんです(笑)。

視点を変える――「損得の二元論」じゃないことへの気づき

大貫:勤めていた会社を辞めてアンカー・ジャパンを設立する際に、不安や迷いはありませんでしたか?

井戸:ものすごくありました。金融の世界でキャリアを積んでいけば、年齢なりのポジションが得られます。そのキャリアをいったん手放さなければなりません。「もとには戻れない」「金融のキャリアが終わってしまうかもしれない」。そんな覚悟を持たなければならず、怖さを感じたのを覚えています。

決断を下すまで、しばらく時間がかかりました。自分の人生を賭けるに値するか、期待感とリスクはどちらのほうが大きいか……。てんびんにかけながら検討していたような気がしますね。

大貫:「THINK30」の分析では、「得をするより損しないことを選ぶ30オトコ像」が見えてきました。先の見通しにくい時代、就活前後にリーマンショックを経験したりと簡単には前向きになりきれない30オトコの慎重さの表れでもあると思うのですが、井戸さんは、得をすること、損をしないこと、どちらに重きを置いてキャリアチェンジのてんびんを測られていたのでしょうか?

井戸:どちらというわけではなく、視野を広げて複数の観点を持つようにしていました。30代の男性というと、仕事では責任あるポジションを任され、家庭には妻や子どもがいる、攻めだけでなく守りの姿勢も求められる立場だと思います。大企業に勤め続け安定的な生活をしたほうが、平均的な幸せは得られやすいことでしょう。しかし、リスキーな選択をして大きなリターンを得ることで、より確かな幸せが手に入るケースもあると思うのです。

また、広い視野で考えると、「リスキーに見えてリスキーじゃない」ということも多く、ぐっと選択肢が広がると思います。例えば、転職するとき。これまでのキャリアを手放すと考えるとリスキーに思えますが、培った人脈や知識を生かし異業種でより良いキャリアを積むことができると考えると一気にポジティブに見えてきますよね。

大貫:なるほど、視点を変えたり俯瞰することで、「損得の二元論」以外の気づきが生まれるし、新たな可能性が見えてくるわけですね。

井戸:それに、大きなチャンスを狙って起こすアクションは、意外と保険が効くものです。誰かが助けてくれたり、予想外の効果が生まれたり……。枠にはまって動かないよりは、気楽に考えてアクションを起こしたほうがいいと思いますよ。

ロールモデルがいないなら、自分の足で歩いていこう

大貫:もうひとつ、「THINK30」の調査で、「30オトコにはロールモデルがいない」という事実が浮き彫りになりました。井戸さんはいかがでしょう? どなたか、ロールモデルになるような方はいらっしゃいますか?

井戸:特定のロールモデルはいないかもしれませんね。一緒に働いてきた上司や先輩、歴史上の人物や現代の経営者など、いろんな人のエッセンスをいいとこ取りしながら、なんとなく参考にしている感じです。自分の道は、自分で切り開いていくしかないと思っています。

※対談後編は4月6日(月)掲載予定