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新規事業を成功させる秘訣とはNo.4

Airレジのユーザーリサーチ手法とは。

リクルートライフスタイル・鹿毛雄一郎氏インタビュー(後編)

2015/05/19

前回に引き続き、今回も鹿毛雄一郎氏と三浦直也氏の対談のなかから、UXデザインにフォーカスしてAirレジの成功の秘訣を探っていきます。Airレジでは、どのようにユーザーの声を聞き、サービスに落とし込んでいるのでしょうか。
また、コンシューマー向けアプとは異なる、業務用のアプリを開発するポイントなどについてもお伺いします。

 

実際の現場を見ることがUXに生かされる

三浦:前回、UXを設計するなかでユーザーの元に出向くことに注力されているとお聞きしました。このようなリサーチやヒアリングで注意された点や苦労された点はあるのでしょうか。

鹿毛:現在、大きく2つのフェーズでユーザーリサーチを実施しています。一つ目は、開発を着手する前に仮説が正しいかをリサーチすること、二つ目は、作ったものを触ってもらって問題がないかを検証することです。特に、前者を重視していていますね。
UXデザイナーだけでなく、プロダクトオーナーやエンジニアも同行します。ありがちな間違いは、こんな機能があったらどうですか、と直接的な聞き方をしてしまうことです。そうではなく、普段どのような仕事をしていて何のためにやっているのかなど、仕事の背景や具体的な業務内容をヒアリングして、そこからどのような機能を作ればいいかを間接的に引き出していくことが重要です。

アプリが使いやすいことはもちろん重要ですが、店舗側にとって何よりも大事なことは、店舗を利用してくれる人への円滑なコミュニケーションとより良いサービス提供です。そこを支援するためにAirレジとして何ができるかを考える必要があります。
お客様が本当に見ているのは、端末ではなく、その先にある店舗の利用者であるため、例えば割引の機能についてであれば、この画面が使いやすいかだけを聞くのではなく、店舗でどのような割引をしているのかなどを聞いていくなかで、割引の目的をひもといていく必要があります。
このようなヒアリングのスキルを、チーム内のすべてのメンバーが身につけることができれば、究極的にはUXデザイングループのメンバーは必要なくなり、エンジニアやデザイナーがユーザーのところへ行って、その場で作って検証できるようになります。

三浦:統計的にこのような問い合わせが多いから機能改善しようというのではなく、その背景にある気持ちを考える必要があるのですね。数字やデータではなく、マインドモデルまで考えて、ユーザーの裏側まで見て仕様に落とすということが大事だとわかりました。
UXの設計ではよく語られることですが、そこまでやれている人たちは少ないと思います。店舗へは、どの程度リサーチに行かれるのでしょうか。

鹿毛:毎月5件以上は何らかの目的を持って行っています。行くときには、積極的にメンバーを募るようにしています。希望すればその回の案件には関係ない人も行けるようにしていますね。もちろん、大人数で押しかけては迷惑になるので、5~6人の範囲内で参加するメンバーを決めています。

 

多種多様なユーザーに合わせた設計

三浦:我々も新しいサービスを作るときに、どのようなユーザーがこのサービスを使うのかペルソナを作って設計します。Airレジの場合は、さまざまな使い方をされる方がいて、業種業態も多種多様です。これらに対応するために、どのような設計を行っているのでしょうか。

鹿毛:最初は飲食店に向いた設計思想でサービス が作られていましたが、今ではもっと広げて他の業種でも使いやすいようにしています。商品の登録の際にも、例文で「コーヒー」や「サンドウィッチ」といっ た飲食店向けのワードが多かったので、これらを他の業種でも使える言葉に置き換えたりもしています。新機能の開発も、それぞれ適切なユーザーの話を聞いた 上で機能を絞り込み、個別最適の部分は後から作り込むようにしています。最も大事なのは、その機能を使う想定ユーザーを仮説立てて実態を聞き、想定ユー ザー像が複数ある場合は、複数のユーザーから話を聞いて、適切なリサーチをしていくことです。

画面イメージ図

 

三浦:Airレジには周辺機器も多いと思うのですが、ハードウエアも含めたUXデザインについては、どのように考えているのでしょうか。

鹿毛:これからしっかりと取り組んでいきたい領域ですね。
たとえば、我々がターゲットとしている小さな店舗ではスペースにも限りがあるので、現金を収納するドロワーが大き過ぎるという声をいただいています。
また、日本円には硬貨が6種類あるので小銭の仕切りもそれに対応している必要があります。周辺機器の価格についても、店舗によって安さにこだわるのか、高級なものを使いたいのかが分かれるでしょう。実際に使われる環境を見て、どのような周辺機器をそろえる必要があるのかを見極めていきたいですね。

 

業務向けサービスだからこそUXにマッチする

三浦:Airレジは、じゃらんやホットペッパーのようなB2Cのサービスではなく、店舗や店員に向けたB2Bのサービスです。B2BのUXを考えたときに、何を心がけているのでしょうか。

鹿毛:リ クルートライフスタイルの他のサービスは、自分自身が1ユーザーとなり得るケースが多いため、ユーザーがどう考えるかを想像しやすいと思います。
一方で、 Airレジなどの業務用サービスは、自分がユーザーとなるケースは稀であるため、お客さまのところへ行って業務を理解することが重要になります。

また、使う人によって使い方が大きく異なるB2Cに比べて、業務の世界はある程度ルーティン化されており、ゴールもハッキリとしているため、コンテキストをしっかりと掴めれば、UXデザインにマッチしやすい領域です。また、A/Bテストなどをやっても、母数が少ないために信頼できる数値が得られないケースが多いことや、業務で毎日使うサービスのUXは頻繁に変えられないことも注意しなければならないポイントですね。

三浦:今後のUX戦略で考えられていることや、将来的な機能拡張の予定はありますか。

鹿毛:繰り返しになりますが、我々が作っているサービスのユーザーが対峙しているのは、店舗を利用する人たちです。店員さんのよりよい接客やサービスを支援できる機能や仕組みをもっと作っていきたいですね。また、大規模店舗やチェーン店では前年度売上や月や曜日ごとの売上、トレンドなどをしっかりと管理しています。1人または2~3人で運営している店舗でも、このような情報の管理を同じようにやれる機能も作っていく必要があると感じています。

三浦:我々もB2B企業のお手伝いをするときに、クライアントのお客さんがどう考えるのかを必死に想定します。周辺の環境やメンタルモデルを想定し、ユーザーが何を求めているかを考えてサービスに落としていくことが心地よいUXにつながると、お話をうかがって確認できました。
中小規模の店舗が大型店舗に近い業務やサービスができるようになることで、地方活性化や中小企業の決め細やかなサービスにつながっていくことが、Airレジの夢のあるところだと思いますね。

鹿毛:レジは、店員さんの顧客接点の一番最後の段階で、お金のやり取りをしてお店での体験を印象付ける場所だと思います。レジの打ち方がもたついたり、正しく入力できていなかったり、不安なそぶりを見せてしまうと、店舗を利用する人も不安にさせてしまうので、何も考えずに自然に会計が行えるようにし、会計時のコミュニケーションをスムーズに行えるようにしなければなりません。
このような大事なシーンをしっかりと支援して、役立つ機能を今後も作っていきたいですね。