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Japan Study TalkNo.2

ニューヨークで 85歳の巨匠に聞いた、日本。そして人生。(後半)

2015/04/21

海外に出て様々なジャンルで活躍する日本人と、Talk(=interview)を通じて日本の未来のヒントを探す新連載。前回に続き、電通総研クリエーティブディレクターの倉成英俊が、ニューヨークで約50年活動されているアーティストの川島猛さんと夫人の順子さんにお話を伺いました。

大切なのは、「Why born?」

倉成:川島さん、日本に対して言いたいこと、何かありません?

川島:こんな若い人が来てくれて話してると、言う必要ないね、楽しくて。

倉成:いや、いや、いや、言ってください。それ聞きたい。だって、これから日本は節目になるから。みんなで気持ちを一緒にして、変えてかないといけないから。お願いします、ぜひ。

川島:僕は日本から出たかっただけですからね。日本は、何かあったらね「お前の親父には世話になった」「お前、東大か?早稲田か?」「お前、高校出?」「お前、社長の息子か」とかね、他人との比較で判断されることが多すぎて、リアルと存在がないんですよ。俺はリアリティーと存在とホワイボンが好きなんだ、三種の神器みたくね。

倉成:ホワイボンって何ですか?

川島:何で生まれてきたか。

順子:Why you were born?。要するに、それが分からないからずっと絵を描き続ける、って主人はずっと言ってるわけ。そういう答えが出てきたらね、絵を描く必要もないし、もう死んじゃえばいいって。

川島:こっちだとね、自分の生き方を はっきりしないと存在しないことになっちゃうんですよ。全部個人ですよ。Why born?なぜ自分は生まれたか、という。日本はそういうの言う必要ないっていう国なんです。何もしなくても存在できるんですよ。「親孝行もんだな~。後を継いでちゃんとやれよ」とかな。だからね、正反対。どっちがいいか、って言ったら、どっちがいいも悪いもないのよ。

ただ、自分は何をしていくか、でいいわけよ。僕はくそ田舎の長男だけど、まあ一応の土地はあるから、家を継いどけばね、全く違う人生で、なんか違うことやったと思うわけ。村のため、町のためとか。大きくすりゃあ、まあ、政治家になって国のためとかね。だけど、その暇も時間もないじゃない。生きるのは100年以下だから。そして三分の一は寝てるんだから。

倉成:川島さんのWhy born?は見つかったんですか?

川島:ちょっと見つからない。仕事に対してね、なんか一つの自信があればね、見つかるかも分からんけどね。僕もまだ分からない。自分が分からない。

倉成:「ああ、少し光が射してきた」とかそういうのは?

川島:消えてきたんちゃうかな。20代はね、光だらけだったけどね。年とってくるとね、生物学的に消えてくるんですよ。100年、200年生きられるようになったら、どんどん光ってきたと思うよ。

順子:ただね、私が一緒になってから、もう40年以上でしょ?昔はね、よく「ダメだもう~」とかってよく言って、描いた絵にバッテンして、べーって破いちゃったのとかもあったけどね、最近は何やっても作品になってる。傍から見てて分かるの。本人はね、分からないわけよ。最近のはね、何やってもね、いいね。

川島:前は「絵描きー」ってね、アホみたいにキャンバスに色塗ってね。「絵だけじゃなくて立体だー」って言って、彫刻とか石とかね、いろんなのを全部やったけどね。今は自然でね、まあオーバーに言えば、手に触れる物、目に見たものを全部アートにしたいっていうのはある。

倉成:順子さんから見て、川島さんのWhy bron?は、なんか少し見えてるんですか?

順子:見えないから、絵を描いてるんじゃない?見えたらね、絵を辞めてね、女の人をはべらしてね。ソーホー村の村長さんになったりしてさ。多分アートやんないと思うわ。だから、見えたら私も失礼するけどね (笑) 。

倉成:良かったですね、見えなくてね (笑) 。

順子:そうそう。見えないから一緒にいられる。見えたらね、もうダメなの。

川島:あのね、自分の人生を説明できる時は、人生は動いてないってことですよ。あいつは課長になった とか、なんだとかね。そういう現実と夢みたいなこと、どっちがいい?僕たちはこっちの方に来たんだよね。夢を描く人としてね。ところで、倉成さんは今いくつだっけ?

倉成:葛藤ばかりの39歳です。

川島:そうだよなあ。絶対葛藤ばっかりですよ。永遠に続きますよ。権威主義にならない限りは。リアリティー、存在、Why born,How are you doing, How do you do itの、doingの世界だよな。俺もdoingだからね。

東京に必要なのは、人を大切にする革命?

倉成:Why born?の他に、以前お会いした時にライフコンセプトという言葉もおっしゃってましたよね。川島さんの ライフコンセプトは?

川島:人に優しく。人を大切にする。

「輪」1999-2000年

倉成:いままで家に1000人くらい招いたり、泊めたりしていると伺いましたが、そういうことだったんですか?

順子:まあ、ニューヨークに来た時にね、主人が、いろいろな人にお世話になったりしたらしいのよ。それがあるから、困ってる人は泊めてあげようとかね。まあ、困ってなくても平気で来る人いるけどね。

川島:俺の時代はね、困ったことがたくさんあってもね、助け合いって少なかった。だからお返しをしてるだけ。次に来た人にもしてあげてほしいな、っていう。

順子:その何百人のなかに、1人でも原石がいればいいっていうものもあるし、やっぱり川島猛の生き方を分かってくれる人がいてくれたらいいと。だから「川島さんは人がいいから、誰でも泊めてくれる」という噂がはびこると、私はそれはもう不本意なの。そういうことじゃないのよ。

川島:100 人に 1人で言えばね。クリエーターっていうのは 100 人に 1 人とか 2 人 しか出てこないけど、時代を変えてきたのは、クリエーターなんです。エリート族ってね、クリエーターじゃないんで すよ。改良するとかね、アドバイスするとか、時代をつくっていってる人なんですよ。すごく大事じゃない。両方とも素晴らしい。両方とも大事なんですよ。じゃなかったら、日本も世界も滅びてしまう。改良と革命の違いはそこなんですよ。

革命っていうのはね、ないことやること。人間を変えてしまうわけやな。猿が人間になるっていうのと同じで。

順子:革命やりましょう。革命やりましょう(笑)。

倉成:今の言葉でいうと、クリエーターが0→1で、エリート族が1→100という話かもしれないですねー。ちなみに、川島革命は、どういう革命が起こりますかね?

川島:人を大事にするっていう革命。

順子:優しい革命だね (笑)。

倉成:あー、それ、まさにいま東京に必要な革命だと思いますよ。

川島:ん?

倉成:こないだ朝 8 時半にミーティングを入れた日、満員の 8時台の山手線に乗ったわけですよ。そうすると、15 分乗ってる間に、目の前で 2、3 回争い事が 起きて。押した、押してない。カバンが引っかかった、引っかからない、みたいな。

順子:そんなことで争うの?

倉成:あと、1日に3回靴を踏まれた時があったんですよ。最初踏んだのは中学生だったけど、何も言わずに去って行った。2人目のサラリーマンも。3回目、初めて謝られたんですよ、「ゴメンナサイ」って。それ、外国人だった。

川島:ふーん、ものすごく分かるね。

順子:私こっちにいて、道歩いてて、何かわかんないことがあるとね、見ず知らずの人にね、聞くことができるの。でも東京にいた時に、聞こうと思ったらね、怖いのよ。

倉成:それ、何なんですかね?

順子:聞けないの。でね、聞こうと思ってね、「あのー、すみません」って言うと、ガッとにらまれて。

倉成:最近のオリンピックは、終わったあと「レガシー」ってのを残すようになっていて、いま日本中がそれで躍起なんですよ。でも、ハコとかテクノロジーとかじゃなくて、「東京の人がやさしくなった」っていうのが残ったら、オリンピックが東京に来てよかったって思いますよね。そういうオリンピックがいいなあ。人を大事にするっていう、優しい革命。

お知らせ:
2015年4月18日(土)〜4月29日(水)
神戸市のギャラリー島田で、川島猛さんの個展が開かれます。
詳細はこちら http://gallery-shimada.com/