アタマの体質改善 #07

単位を置き換えてみる

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

小さめのお茶碗1杯には、お米が何粒入っているだろう?

いつも何気なく食べているごはん。ふだんだったらそのまま流していることでも、こんな疑問を持ってみると、これまで気がつかなかった視点や発想が生まれる。

こんな問いかけがあったのは、テレビ番組『デザインの梅干』(NHK・Eテレ 2015年2~3月 、6 回シリーズで放送)の中でのひとコマです。この番組はグラフィックデザイナーの佐藤卓さんが講師をつとめ、何の変哲も無い日常生活が、デザインの考え方を身につけると、フレッシュで豊かなものになり、それは仕事に生かせる発想のヒントにもつながるということがテーマでした。

拙著『アタマの体質改善』(日本経済新聞出版社)で伝えたいことと共通するテーマを掲げているこの番組。毎週、「そうそう!」「ふむふむ!」と共感しながら見ていました。

お茶碗1杯に入っているお米の数を想像したり、調べてみたりすることから、農業のこと、自然のこと、身体のこと……と次々に、色んな話題に広げていくことができるのです。

他にもこの番組では、100円で買えるものの数や量を考えてみよう!という話題もありました。100円の価値って、身のまわりのこと(たとえば、ティシュは何枚分?都心の土地は何平方メートル分?)で考えてみると、具体的にどんなだろう?と単位を変えながら考えを巡らせてみる。そうすることで、自分たちの生活にどんな影響を及ぼしているものかが可視化されていきます。

ふだん暮らしている中で、頻繁に登場する「単位」。これをあれこれと置き換えてみるだけで、新しい視点が生まれ、発想力豊かなアタマへと体質改善されます。

Illustrated by Moe Furuya

 

■想像を膨らませ、イメージやアクションを具現化する

「46歳じゃない。高校31年生って呼んでくれ。」
これは「マスターズ甲子園」という大会のポスターに使ったキャッチコピーです。

元高校球児のオヤジたちが、果たせなかった夢を実現させようと地方予選を戦い、甲子園に出場するという大会が毎年行われています。元高校球児の後輩から、「この大会をもっと知ってもらえる仕掛けを考えてほしい」と相談を受け、企画に携わりました。

社内でチームを結成し、大会のロゴやグッズ、パンフレット、ポスターの制作にかかわるだけではなく、高校野球を題材にした著書もある作家の重松清さんと出会い、大会の応援団長に迎えるという縁にも恵まれました。

過去の大会で撮影された数千枚の写真から、大きなお腹で豪快なスイングをして空を見上げている「46歳」の一枚が、この大会を象徴し、元高校球児の共感を得られるだろうとポスターに採用しました。キャッチコピーは、年齢を学年に置き換えることで、高校球児のときに抱いていた情熱や夢を呼び覚ませるだろうとチームみんなで決めたものです。

大会では、「高校31年生」と呼ぶにふさわしいオヤジたちが、そのポスターを嬉しそうに眺める姿を見ることができ、手応えを感じることができました。

量や割合を表す数値は、単位をどうとるかによってその言葉の意味合いや印象、もっと言えばインパクトや伝わり方が大きく変えられる―。そのことを初めて具体的に意識したのはこんな経験からです。

プレゼンの前日だというのに、なかなか企画が進まず、焦るだけで手が止まってしまっている僕らに、叱咤激励をしてくれた先輩のひとこと。

「1日しかないって思うからダメなんだ。まだ24時間もあるじゃないか」

そのとき、「そうか、まだまだ時間はある!」とモチベーションがグンッとあがりました。この経験をきっかけに、様々な場面で「単位を置き換えてみる」ようになったのです。

たとえば、ある商品の調査結果データを手渡されたら、こんなふうにとらえ直します。

商品の「知名率は33%」≒「3人に1人が知っている」≒「会社で座っているデスクの前と両横3人の誰かは知っている」あるいは「このカフェにいるおおよそ30人のお客さんのうち、10人は知っている」。

このようにイメージしやすい「単位」に置き換えるのです。33という数値のままだと、以前より上がったのか下がったのか、目標や競合商品より高いか低いかはわかりますが、世の中的に、もしくは自分のまわりではどんな状況なのかが具体的にイメージできません。

置き換えていくことで「デスクでその商品のことを話題にしたら、誰も知らなくて無視はされないけれど、みんなで会話して盛りあがるところまではいっていない感じ」「このカフェを見渡して、あの人とこの人は知ってそうだな。でも、まだこの商品のことを話題にしているテーブルはなさそうだ」と想像を膨らませることができます。

さらに、「あそこに座っているあの人はおしゃべりそうだから、ああいう人に知ってもらうにはどうすればいいだろう?」と次のアクションや考えにもつなげられます。

 

■一見無機質な数値を、エモーショナルなものへ

単位を操るトレーニングは、特別にかまえなくてもふだんからすることができます。仕事をしていると、否が応でも何らかの数値に接するからです。

そのときに、意識して試しに単位を置き換えてみる。それだけで、モノゴトをシンプルにとらえられ、次へのアクションにつながったり、モチベーションが上がったりする実感を繰りかえし味わうことができます。
身近なコミュニケーションでもどんどん使ってみましょう。

あるとき、幼い娘と野球中継を見ていると、「3割バッターって、なーに?」と聞かれ、こうこたえました。

「1試合に1回はヒットを打って、応援していれば『ヤッター!』ってパパたちを喜ばしてくれる選手のことだよ」。それを聞いた娘は、「じゃあ応援しなくちゃね」とチアリーダーのマネを楽しそうに始めました。

仕事でも、プライベートでも、切っても切り離せない数値のこと。一見無機質で、エモーショナルなことからほど遠いと思われがちですが、単位を操って見方を変えるだけで、印象が大きく変わってくるのです。

ちなみに、冒頭に紹介したマスターズ甲子園は、年々盛りあがりを見せています。今でも「オレ、高校〇年生になっちゃったよ」と自分の学年に当てはめ、照れくさそうに話す選手の姿を見かけるそうです。

Illustrated by Tokuhiro Kanoh

プロフィール

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

    1992年、電通に入社。入社後3年半の静岡支社営業経験を経て、東京本社企画プランニング部門に異動。以後、広告企画制作にとどまらず、コミュニケーション全般の設計、商品や新規事業の企画、コンテンツのクリエーティブディレクションなど、仕事の領域は多岐にわたる。現在CDCに所属。これまでに、慶應義塾大学SFC研究所員(訪問)、大学や小学校での講師など、教育機関での活動も多数。出版関連では、重松清『夢・続投!』(朝日新聞社)、清水浩『脱「ひとり勝ち」文明論』(ミシマ社)、パパイヤ鈴木『カズフミくん』(朝日新聞出版)の企画に携わったほか、子ども向け絵本の制作も行う。著書に『アタマの体質改善』(日本経済新聞出版社)、『おじいとおばあの沖縄ロックンロール』(ポプラ社)。

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