「そのひと言」の見つけ方 #10

影の本音を見つめる。見つめる。見つめる。

このコラムの最終回になりました。
ここまで読んでくださったみなさま、本当にありがとうございました。

伝えるためのテクニックを中心にこれまで書いてきましたが、結局のところそれも本質の価値を伝えるための手段でしかありません。一番大事なのは、ものごとの本質は何か、価値は何かをまず発見することだと僕は思います。

その本質をつかむためには、影の本音まで見つめ続けること。
コミュニケーションをするときに相手の考えていることは何か、どうしてほしいのか、どういうところで悩んでいるのか、どういう気持ちで目の前にいるのか。それは、すでに表に出ているとは限りません。本人さえも気づかない、心の奥底の暗闇に隠れた本音に光をあてると、必ず答えは見つけられる。 でも「影の本音を見つめる。」だけで終わったらダメで、「見つめる。」を3回以上しないと、本質は見つけられないのです。

ビジネスのアイデアや企画書も影の本音が重要です。
企画の影の本音、クライアントの影の本音、自分自身の影の本音、現場の影の本音。関わる人たちがどんな気持ちでやればいいのか、どんな気持ちで課題を抱えていて、どんな気持ちになればそれを解決できるのか、そこを潜在意識のレベルまできちんと捉えないと、どんなテクニックを駆使してもやはり薄っぺらくなってしまいます。

これは真面目にやろうとするととてもむずかしい。でもこれを真面目にやっている人が結局は勝つと思うのです。優れたクリエーティブ・ディレクターもアートディレクターもコピーライターも、自らの内面も含めて、すべての本質を捉えるのがうまい人が評価されていると思います。つまりは徹底的に考えることができる人ということです。
アニメーション監督の宮崎駿さんはあるインタビューでこう答えていました。

「考え抜いていると鼻の奥から血のにおいがしてくる。脳の表面的な意識や表面にあらわれない潜在的な無意識で考えているだけではだめで、脳のもっと奥の暗い部分からしか本当の物語は生まれてこない。血のにおいがするまで考えないと。」

コピーを書いていると、「書けた」と思う瞬間はやってきますが、それがすべてを総合した影の本音ではありません。その場合も最初のステップにすぎない。 だから物理的に距離をとって眺めるとか、一日寝て翌朝見てみるとか、判断基準をいくつか持っておいて、それで本当にいいかどうかを判断します。 自分だけの視点に頼らず、いくつもの視点でものごとを照射することで、ものごとの本質を捉えるわけです。

効率重視の世の中です。
書店には「一日3分、3カ月で英語が喋れます」とか、「一日5分で20キロやせられます」とか、時短や簡便が謳われる本があふれています。
しかし、あえて言わせていただくなら、時間をかけたらかけただけのものはできます。特に、言葉は時間をかければかけたぶんだけ、磨かれます。
僕はコピーライターのヒエラルキーでいうとまだペーペーなので、時間をかけることでしか勝負できない。神さまのごとく活躍しているコピーライターの人に唯一勝てる方法は、ひらすら時間をかけることです。そうやってできたものが、いつかあなたの心を動かす言葉になると信じて。

「そのひと言」の見つけ方_イラスト
絵/今井祐介(電通 第4CRプランニング局)

 

全10回連載『「そのひと言」の見つけ方』(了)

プロフィール

  • Yosukewatanabe photo
    渡邉 洋介
    株式会社電通 第4CRプランニング局

    コピーライター。
    2007年電通入社。おもな受賞歴に、宣伝会議賞シルバー、ACC CM Festival ブロンズ、文化放送ラジオCMコンテスト優秀賞、読売広告大賞協賛社賞、日経BP賞、英国D&AD賞 IN BOOK、ヤング・カンヌファイナリスト、ヤング・ロータスファイナリストなど。
    著書に『「そのひと言」の見つけ方』(実務教育出版)。

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