「クリエーティブ新時代」の証明
2014年クリエイター・オブ・ザ・イヤーに菅野薫氏

  • Saotome profile
    早乙女 治
    アサツーディ・ケイ エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター
  • Furukawa yuya profile
    古川 裕也
    株式会社電通 CDC センター長/ エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター
  • Sawamoto2015 3884 pr
    澤本 嘉光
    株式会社電通 CDC エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー

進化し続けるクリエーティブ・テクノロジスト

 

菅野氏は、2012年に本賞の審査委員特別賞を受賞。それから2年を経て「データとテクノロジーを自在に融合し、人々に新しい感動を与える手法をさらに進化させ、広告クリエーティブに新しい歴史を刻み込んだ」として、今回の受賞となった。
主なクリエーティブワークに、本田技研工業インターナビ「Sound of Honda /Ayrton Senna 1989」、同「Road Movies」、日本スポーツ振興センター「SAYONARA国立競技場ファイナルセレモニー」、同「世界を更新しよう。」、アミューズ/ユニバーサルミュージック「Perfume Project」、太田雄貴「Fencing Visualized Project」など。受賞に当たり菅野氏は「僕一人の力で成し遂げた仕事は一つもない。チームで大きな成果を達成する時代だと思っている。チームとプロジェクトに貢献できる、強い専門性と技術を身に付けていきたい」と語る。

「Sound of Honda /Ayrton Senna 1989」
「Sound of Honda /Ayrton Senna 1989」
「SAYONARA国立競技場ファイナルセレモニー」
「SAYONARA国立競技場ファイナルセレモニー」
 
「世界を更新しよう。」
「世界を更新しよう。」
「Fencing Visualized Project」
「Fencing Visualized Project」

菅野薫氏

電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/クリエーティブ・テクノロジスト。2002年入社。データ解析技術の研究開発業務、国内外クライアントの商品サービス開発、広告キャンペーンの企画制作など、テクノロジーと表現を専門に幅広い業務に従事
カンヌライオンズ チタニウム部門 グランプリ/D&AD ブラックペンシル(最高賞)/ロンドン国際広告賞 グランプリ/ワン・ショー AutomobileAdvertising of the Year / スパイクス・アジア グランプリ/ アドフェスト グランプリ/ACCグランプリ/TIAA グランプリ/文化庁メディア芸術祭 大賞/アルスエレクトロニカ栄誉賞など、国内外の広告・デザイン・アート他、さまざまな領域で受賞多数。
菅野薫氏

「クリエーティブ新時代」の証明

~同賞の関係者に聞く~

 

賞の26年の歴史で初めて、その出自がコピーライターでもアートディレクターでもCMプランナーでもない人間が選出された。データやテクノロジーを自在に操り広告クリエーティブへ昇華させる「クリエーティブ・テクノロジスト」菅野薫氏の世界的な活躍は、この1年の広告界の最大の事件となった。大変な勢いで業務領域を拡大している広告クリエーターたちは、これからどこへ向かうのか。

クリエーティブは今や異種格闘技

日本広告業協会(JAAA)は3月12日、「2014年クリエイター・オブ・ザ・イヤー賞」受賞者を発表した。同賞は、JAAA会員社の中で最も優れたクリエーティブワークを行った個人を表彰するもので、今年で26回目となる。最高賞に輝いたのは、電通のクリエーティブ・ディレクター(CD)/クリエーティブ・テクノロジストである菅野薫氏。
もともとマーケティング領域の研究開発部門でデータマイニ ングやシステム開発に従事し、クリエーティブ部門に所属したのはわずか2年前のこと。

歴代の受賞者の中で、極めて異質の存在だ。今回の選考について、約10年間同賞の審査員を務めてきた早乙女治審査委員長は「今年は節目の年となった」と振り返る。「時代と共にメディアも変遷し、表現の幅が広がっている。メディアやキャンペーンの骨組みなど、枠組みの掛け算が求められるようになってきた」。審査員の一人、古川裕也氏も「四半世紀の歴史を経た今年、今までと全く違う仕事が受賞した」と語る。「日本ではいまだにテレビが強い。
それでも種目は確実に増えつつある。明らかに従来と異なる人間が頂点を取ったことは象徴的だ」。マスメディアにとどまらないネットやイベントなど多様なフィールドからのエントリーは「異種格闘技的な様相を呈し」(早乙女氏)、一つの俎そじょう上で審査するのは困難を極めたという。だが結果的には、菅野氏への支持は圧倒的だった。

自分の頭の外にアイデアのソースを見いだす

ただし、流行のテクノロジーをクリエーティブ領域に持ち込んだことが授賞理由ではない。二十数年前の走行データから故アイルトン・セナの世界最速ラップの軌跡を、スピーカーとLEDライトで鈴鹿サーキットによみがえらせた壮大なプロジェクト「Sound of Honda /Ayrton Senna 1989」をはじめとする菅野氏の作品について、早乙女氏は「テクノロジストという自分の得意フィールドから入り、エモーションを動かす高みへと持ってきた。そこには大変な努力があったはず」と評価する。

クリエイター・オブ・ザ・イヤー3回受賞という前人未到の記録を持つ澤本嘉光氏も「広告とは広く伝えて人を動かすこと。そこをきちんと考えてやっている。彼が作っているのは、語り伝えたくなる『事件』。まさに広告の根幹」とたたえる。古川氏は「オウィディウスから繰り返し使われてきた『死者の再生』という物語構造が含まれていて、それを高度なテクノロジーで表現した。ヒューマンであるがゆえに、世界中の心をつかんだ。

本田宗一郎氏が『テクノロジーは、人を幸福にして初めて意味がある』と語っているが、彼の登場でテクノロジーが広告クリエーティブと真にリンクした」と分析する。アイデアがいかに精彩を放ち、心を揺さぶり、実際に人を動かすか。選考基準の根幹は変わっていない。それでも、菅野氏が特異な存在であることは明白だ。セナの走行データを初めて目にしたときの菅野氏の様子は、居合わせた人たちに強烈な印象を残している。「すごいものを見つけた、いろんなことができる、と興奮していた。
僕らCMプランナーが課題を解決できる素晴らしいアイデアを見つけた、という感覚に近い。それをデータ相手に感じていた」(澤本氏)、「今まで僕らは自分の脳みそだけを頼りにアイデアをひねり出そうとしてきた。自分の頭の外にアイデアのソースを見いだせる、無機質なデータから背後にあるストーリーを瞬時に想起できる、そんな人間がクリエーティブに現れたことが新しい」(古川氏)。新たな水脈は受け継がれていくのか。古川氏は「ここまでデータテクノロジーにたけた人間が広告領域に登場したのは初めて。従来の広告クリエーター、デジタル系の人、二重に抜き去った」と言う。「菅野」の新しさは突出しているのだ。

得意技が結集するコングロマリットの時代

選考の場では、これからは「菅野以前と菅野以後で語られるようになる」とのコメントも出たという。これからの広告クリエーターの在り方に、どのような示唆をもたらすのか。「今後はデータに限らず、今までにないリソースを使ったクリエーティブが出てくるだろう。今やカンヌのカテゴリーも18部門ある。若手はテレビCM以外でも、自分の得意技を探すことができる」(古川氏)、「誰もが菅野にはなれない。でも、クリエーターにはいろんなタイプがいていい。大事なのは自分の得意分野を持つこと。一個、すごく面白いというものをクレージーに突き詰めれば、そこから広がっていける」(澤本氏)。菅野氏は受賞の弁でチームでの功績を繰り返し強調している。

古川氏は「こ れからはさまざまな人の知恵や能力を結集する『コングロマリット』の時代」だとした上で「そのために、高度な専門性を持った個人の力がますます重要」と重ねて強調した。今回をもって委員を引退する早乙女氏は「ビジネススケールの大きさが、広告会社のクリエーターの強み。アイデアのクオリティーにこだわり、ムーブメントを起こしてほしい」と取材を締めくくった。広告クリエーティブもまた多次元に拡大する今、可能性は限りない。

プロフィール

  • Saotome profile
    早乙女 治
    アサツーディ・ケイ エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター

    第3回JAAAクリエイター・オブ・ザ・イヤー特別賞受賞。2007~14年度同賞審査委員長、07~08年度ACC CM FESTIVAL審査委員長を務める。

  • Furukawa yuya profile
    古川 裕也
    株式会社電通 CDC センター長/ エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター

    1980年株式会社電通入社。
    クリエイター・オブ・ザ・イヤー、カンヌライオンズ28回、D&AD、One Show、アドフェスト・グランプリ、広告電通賞(テレビ、ベスト・キャンペーン賞)、ACC グランプリ、ギャラクシー賞グランプリ、メディア芸術祭など受賞多数。カンヌライオンズ、D&AD、クリオなど、国内外の審査員・講演多数。2013年カンヌライオンズ チタニウム・アンド・インテグレーテッド部門の審査員を務めた。

  • Sawamoto2015 3884 pr
    澤本 嘉光
    株式会社電通 CDC エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー

    1966年、長崎市生まれ。1990年、東京大学文学部国文科卒業、電通に入社。ソフトバンクモバイル「ホワイト家族」、東京ガス「ガス・パッ・ チョ!」、中央酪農会議「牛乳に相談だ。」、読売新聞など、次々と話題のテレビCMを制作している。著書に小説「おとうさんは同級生」、小説「犬と私の 10の約束」(ペンネーム=サイトウアカリ。映画脚本も担当。)映画「ジャッジ!」の原作脚本。クリエイター・オブ・ ザ・イヤー(2000年、06年、08年)、カンヌ国際広告祭銀賞・銅賞、ADFEST(アジア太平洋広告祭)グランプリ、クリオ賞金賞・銀賞、TCC賞 グランプリ、ACCグランプリなど受賞多数。

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