アドフェスト2015 審査員鼎談(後編)

試されていないことを試してこそ未来は開ける

  •                           r
    レイ・ イナモト
    AKQA AKQAチーフ・クリエーティブ・オフィサー/ヴァイス・プレジデント
  • Miura profile
    三浦 竜郎
    株式会社博報堂 インタラクティブ・クリエーティブ・ディレクター
  • 20160526 103
    Nadya Kirillova
    キリーロバ・ナージャ
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 電通総研 Bチームクリエーティブ
  • Pforile
    中山 幸雄
    株式会社電通 電通イージス・ネットワーク事業局 クリエーティブ・アドバイザー

3月19~21日、タイ・パタヤで開催されたアドフェスト2015では、AKQAのレイ・イナモトさんが総合審査委員長兼インタラクティブ部門・モバイル部門の審査委員長を務めた。
レイさんと共に、同部門の審査に携わった博報堂の三浦竜郎さん、電通のキリーロバ・ナージャさんを迎えた座談会を、審査直後に開催。後編では、インタラクティブを切り口に人材育成と未来のクリエーティブを考えた。(聞き手=電通クリエーティブ・アドバイザー 中山幸雄氏)


5年後にどうなりたいかビジョンを持つべき

 

——では、審査から見えた今後の兆しを受けて、広告クリエーティブ領域の人材育成や教育についてお聞きしたいと思います。僕はいつも、各所で拝見するレイさんのインタビュー記事がすごく学びになるんですよ。言葉や分析が明快で、まるでマッサージを受けたみたいに、自分がクリアになる気がします。

レイ:アハハ、マッサージっていう表現は初めてだ!

——以前のインタビュー記事で「日本人は1から10まで仕上げるのは得意だが、0から1が弱い」と話をされていたことが、僕の“ツボ”にはまりました。「0から1」は、どう補ったらいいのでしょうか?

レイ:日本は、例えば言語でも、中国から来た漢字からひらがなやカタカナをつくり出したりと、何かをリミックスして精度を高める文化がありますよね。産業を見ても、欧米から取り入れた技術を磨き上げて、また世界に打って出ているような業界も多い。
一方、そもそも島国で閉じられたところがあって、教育でも「標準で整うことが大切」「標準化するのが美しい」という風潮もあります。僕は日本を離れて20年以上たつので今は違うのかもしれませんが、そういう状況だと、周囲と違うことをする子はなかなか出てこない。間違ったことをしても、それがセレブレーションされれば、「0から1」を生み出す力がつくのではないでしょうか。

レイ・イナモト氏

——その力を、意識的に磨く方法はあるんでしょうか?

レイ:ビジョンを持つ、ということは言えると思います。例えば僕らAKQAでは、“火をつける”という意味の「IGNITE」というワークショップを世界各国で展開しています。AKQAが毎年カンヌで行う学生対象のコンペティション「Future Lions」の応募準備を兼ねていて、数日にわたり発想の仕方や考え方を地道に教えているんです。
広告やマーケティングの実務では、3カ月で1億円の売り上げをといった短期的な視点が常ですが、世の中に新しい価値を生み出そうとするスタートアップやアイデアだと、見ている時間の軸がぜんぜん違いますよね。 仮に3カ月で1億円損したとしても、10年後にその100倍になるくらいの可能性がある方へ投じようという見方をします。
教育も、そういうものだと思います。1回やったからといって、すぐに目に見える成果が上がるものではなくて、こつこつと何回も繰り返すことでようやく結果が見えてくる。だから若い人たちには、5年後や10年後に自分たちがどうなりたいのか、ビジョンを持とうと話しています。たとえそれが間違ったビジョンでも、ビジョンがないよりはずっといいと思いますね。

Untested Wayに挑戦して自分の幅を広げよう

 

——広告クリエーティブ領域の拡大にともなって、求められる能力も広がっていると思います。この先クリエーターはどう自分を伸ばし、生かしていけばいいのでしょうか?

ナージャ:日本のエージェンシーのクリエーティブというと、やっぱりまだまだ基本はコピーライターとアートディレクターしかいませんよね。コピーやアートワークといった基礎能力はもちろん必要ですが、最終的に言葉やビジュアルに落とし込まれるまでのプロセスには、実はもっといろんな能力が発揮されています。それに気付いていない人が多いと思うんですね。

中山氏

——気付いていないのは、当事者が?

ナージャ:当事者も、周りも。例えばコピーライターは言葉の専門家ですが、物事を整理して、何がいちばん大事なエッセンスかを見極めて組み立てられる人でもあるので、アウトプットが言葉じゃなくても生かせる。このプロジェクトにコピーライターが一人いたら、がらっと変わりそうだなと思うこともあります。だから、肩書にこだわらない意外な組み合わせとか、意外な場所での能力の発揮を考えるのが重要なんじゃないかと思っています。
ただ、やることがたくさんありすぎて、困っている若手も多いですよね。仮説を立てて試しながら調整するのはわりと得意で、フットワークは軽いけど、一方でコピーの世界では地道に10年やって一人前ともいわれます。名刺の肩書と、実務ややりたいことに食い違いが出てくることもあると思います。

レイ:コピーライターというと、すごく狭い表現に聞こえるから、例えばアイデアを描く「アイデアライター」と捉えてはどうでしょうか? あるいは、究極的にはデザイナーですよね。格好つけた言い方をすれば、僕も未来をデザインするのが仕事だと思っている。

——今のお話を聞いて、菅野薫さん(電通)が「クリエーティブ・テクノロジスト」と職名をつけたら仕事の幅が広がった、というエピソードを思い起こしました。発見されにくい能力だから、名前をまず考えたと。肩書を変えて周囲との関係が変わったら、チャンスですね。新しい挑戦もしやすい。

三浦:そうですよね。新しいことに挑戦しないで、僕らが3年後も同じことをしているようでは、若手の将来どころか業界全体が沈んでしまいます。そう考えると、審査でも出てきたキーワードですが、“Tested Way”では先が開けない。
審査では「これはもうテストされ尽くした手法なんじゃないか」という議論があって、僕はこれがすごく日本的だなと思ったんです。方程式がわかっていると納得もしやすいし、お金も付きやすくてスムーズですが、続けていくと、3年たっても同じことをしている状態になってしまいますよね。
広告に携わる人間として、短期で結果を出す基礎体力は前提として、未知のことを思い付く力がまず大事です。そして、なぜそれを試すべきなのか、周囲の人に分かりやすく翻訳して伝える力は、鍛えるべきだと思います。

三浦氏

——なるほど。先ほど話に上がった、日本の教育の難しさを解決するのは時間がかかりそうですが、試してみて調整していくスタートアップ的な教育なら、むしろ僕らの得意とするところですね。では最後に、若い読者へメッセージを。

ナージャ:ぜひ“Untested Way”で。日本の人は冒険を遠ざけがちですが、自分の得意な領域と基礎能力を組み合わせて何ができるかを探ると、未来を見いだせると思います。年齢に関係なく、私もそれを見つけて、武器にしていきたいですね。

中山氏

三浦:どんどん、一線を越えましょう。僕、実は広告賞の審査員も英語での仕事も初めてで、ドキドキして来ましたが、本当にやってよかった。他の領域の人と仕事をする、クリエーティブの言葉をビジネスの言葉に変えてみるとか、毎年何かの一線を越えるくらいがいいですね。

レイ:一言。「世界で会いましょう」

——皆さん、ありがとうございました。

プロフィール

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    レイ・ イナモト
    AKQA AKQAチーフ・クリエーティブ・オフィサー/ヴァイス・プレジデント

    Creativity誌「世界の最も影響のある50人」、Forbes誌「世界広告業界最もクリエーティブな25人」の1人にも選ばれる一方、ニューヨークを拠点に世界を舞台に活躍するクリエーティブ・ディレクター。04年からAKQAに所属。07年に行われたインタラクティブ・クリエーティブ・ランキングで、世界のトップ5に選ばれる。
    10年には日本人として初めてカンヌ国際広告祭チタニウム&インテグレーテッド部門の審査員に抜擢される。世界中で受賞多数。

  • Miura profile
    三浦 竜郎
    株式会社博報堂 インタラクティブ・クリエーティブ・ディレクター

    2003年博報堂に入社。企業ブランド戦略からインタラクティブクリエーティブ、テレビCMを含む統合コミュニケーションプラニングに従事

  • 20160526 103
    Nadya Kirillova
    キリーロバ・ナージャ
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 電通総研 Bチームクリエーティブ

    ソ連(当時)、レニングラード生まれ。6カ国で育つ。電通入社後は、様々な領域に取り組むクリエーティブとして活動し、国内外のプロジェクトを幅広く担当。Cannes Lions Titanium Grand Prix、D&AD Black Pencil、文化庁メディア芸術祭大賞など多数受賞。

  • Pforile
    中山 幸雄
    株式会社電通 電通イージス・ネットワーク事業局 クリエーティブ・アドバイザー

    京都大学理学部生物物理学科卒業。ベルリン・スクール・オブ・クリエーティブ・リーダーシップMBA取得。カンヌ・フェスティバル・オブ・クリエイティビティ、クリオ、アドフェスト(プロモ・ダイレクト部門審査委員長)、スパイクスアジア、AdStars、The CUP、クレスタ、ニューヨーク・フェスティバル、ロンドン・インターナショナル・アワーズなどで審査員を務める。国内海外の広告賞で12のグランプリを獲得(テレビCM・ラジオCM)。電通の同僚たちと広告クリエーティブに関する著作3冊を執筆・出版。仕事をしていないときは、日本でナンバーワンのラジオコマーシャル・ライター/ディレクターの妻、二匹の猫とのんびりとした、幸福な生活を送っている。

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