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企画者は3度たくらむNo.10

自分なら動くという基準

2015/05/14

全ての企画は、企画者およびチームの発想によって生まれます。そこで私が重要と考えているのが「自分が生活者なら動くか」という基準を持つことです。
私がここで説明したいのは、企画を生み出す側の責任についてです。

実際、企画やアイディアが採用され実施へと至る場合、組織を超えて数多くの人がその案件に関わることになりますし、規模が大きくなるほど、企業は費用やリスクを抱えます。自分が提案しようとしている企画は、そのリスクをとるに足るクオリティに達しているかどうかを、自らの判断として見極める必要があると思うのです。決して自分が気に入っている、やってみたい、といった身勝手なものではあり得ません。

この企画者としての尺度は、調査データなどの客観的な尺度と同等に扱うべきであるとさえ考えます。

企画者も生活者の一人である

「自分なら動く」という基準を機能させるためには、自分自身がよい生活者として生活しているかどうかがものを言うことになります。その意味では、これからの企画者は仕事に明け暮れるだけではなく、ごく普通に生活をしていなければならないと考えます。
ワークライフバランスではありませんが、仕事モードや家庭モード、遊びモードなどのスイッチはあるにせよ、個人の中ではその全てが地続きになっているのですから。

例えば、私は普段、広告を作るという立場でありながら、広告に影響されて製品を買う生活者でもあります。 出勤時には電車に乗り、車内の中吊りやドアステッカー広告を目にします。
駅に降りれば駅貼りや大型の街頭ビジョンに目をやり、刺激を受けることもあります。コンビニに寄れば自分の定番製品に手を伸ばし、休憩時には缶コーヒーを飲みながらスマートフォンをいじります。

こうした生活者としての経験や実感が、無意識のうちに企画にフィードバックされることで、時代の空気が自然と取り込まれていきます。
それこそが、結果的に、企画者の目線を養うことにつながるのです。意識的に行えばより効果的であることは、言わずもがなです。

「自分なら動くか。グッとくるか。そして、製品を買うか」
そんな自分だけのハードルを育てていくことが、仕事の質を向上させるのです。

「一人脳内会議」が企画の精度を高める

そうして吸い込んだ時代の空気を企画に生かす、具体的な方法についてもご紹介します。
それが「一人脳内会議」です。

企画やアイディアは、基本的には一人で生み出すものであり、どれだけの時間、一人で考えられるかで量も質も決まってきます。しかしながら、一人で考えているとどうしても思考が止まってしまったり、ブレークスルーしないことがあります。
以前に説明した、たくらみを阻む見えない壁(前編後編)から抜け出せないこともあるでしょう。

そこで一人脳内会議の出番です。発想から議論、フィードバック・ブラッシュアップまでを一人で一貫して行う方法です。以下がその概要です。

①アウトプット
考える、アイディアを広げる、企画に落とし込む。頭の中にあるものを全て可視化する

②ディスカッション
テーブルに広げられた思考プロセスを見ながら、様々な視点からツッコミを入れる

③フィードバック
企画のいいところや穴を認識し、さらに考えを深めていく。企画としての精度を上げる

なかでも重要になるのが、②のディスカッションです。議論を行うためには、仮想的な出席者が必要になります。
私の場合には、部署の先輩や後輩、他部署の尊敬できる同僚、クライアントと共に、日常生活を営んでいる普段の自分や、家族、親しい友人にも出席してもらいます。もちろん仮想ではありますので、場所も時間も自由です。

まずはじめに、企画を参加者全員に向けて、資料を使って説明します。もちろん、声を上げて、です。そうすることで、頭の中が整理されていったり、未熟な部分や説明がつながっていない部分を発見することができます。

そのうえで、それぞれの立場から意見を付箋に書いて貼っていきます。
すると、同僚の目線、クライアントの目線、生活者の目線を俯瞰することができるようになるのです。

もちろん全員が納得する企画はあり得ません。その先にどこを高めていくのかは、自分で判断をすべきだと思います。

ただ一つ言えることは一人脳内会議を行うことで、他者からの自分の企画への理解度と、自分自身の納得度、時代との整合性は、飛躍的に高まります。
すると、繊細だった企画は、太い幹を形成し、ちょっとやそっとの批判にもびくともしないほど強くなっていきます。

この壁打ちに近い行為こそが、「なるほど!」でとどまっていたアイディアに、「まさか!」や「びっくり!」を加えて、「そうきたか!」を生み出すために非常に有効です。

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