アタマの体質改善 #08

電話は大きな声で話す

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

「いま、パパと子どものおもちゃをたくさん作っているんです」
仕事でご一緒していた振付師のパパイヤ鈴木さんに、ある打ち合わせの冒頭こんな雑談を持ちかけたことがあります。この話をきっかけにその後生まれたのが、親子で簡単に踊って遊べるダンスメソッド『カズフミくん』(朝日新聞出版)です。

「最近、パパイヤさんと一緒にダンスメソッドの本を出したんだ」
ある後輩Yくんとお茶をしているときに、こんな話を切り出したところ、とても興味を持ってもらいました。その後、Yくんは自分の息子が通っている幼稚園のパパさん友達Mさんに、さらにMさんから教育事業をしている企業の社長に、と次々に話が伝わっていったのです。

こうして『カズフミくん』を使った、幼稚園や保育園向けの派遣授業やショッピングセンターで展開するダンス教室の開業へとつながっていきました。その数は全国100拠点に届くまでの規模になり、ビジネスに発展しています。

ほんの小さな雑談から、人との出会いや機会が重なりあい、アイデアが生まれ、それが実現され、仕事につながっていきました。もし話をしていなかったら、何も起こらなかったことでしょう。

拙著『アタマの体質改善』(日本経済新聞出版社)では、こうした話題についても触れています。

ふだんからまわりに、自分の思いや考えを広く知らせておくことで、それにまつわる情報や機会が集まってくるようになります。そうすれば、その思いや考えをさらに広げることになり、アタマが自然と動きだし、体質がどんどん変わっていくのです。

Illustrated by Shinpei Takashima

 

■声が大きいと、まわりの人たちが自然と助けてくれる

僕は「電話で話す声が大きい」とよく言われます。

もともと地声も大きいのですが、電話で話すときは相手の反応が見えないこともあり、はっきりと伝えなくてはと、さらに大きくなります。まわりにいる人たちにとってはさぞかしうるさく、はた迷惑なことでしょう。が、実はこれ、意外に役立つことがあります。

たとえば、電話で相手と揉めて、腹を立てたりしていると、話が終わったあと、「大変そうだなあ。大丈夫?」とまわりが声をかけてくれます。その一言で熱くなった気もちがクールダウンできます。その後、話を聞いてくれたりすると、ストレスも発散されます。

ときには、トラブルを解決するきっかけになることもあります。「それならあの人に聞くといいよ」「いまの話、こうするといいのでは」とアドバイスを得られ、助けられたことが何度もありました。

僕が入社した頃は、今のようにオフィスが静かではありませんでした。電話がジャンジャン鳴って、あちらこちらから話し声が聞こえ、にぎやかで活気があったのです。なんとなく聞こえてくる話から、まわりの人が何をやっているかを知ることもできました。
そんな時代を少し懐かしく思うこともあります。

 

■大切なのは、日常的にまわりから集まってくる情報と機会

また、「声が大きい」のは、音として大きいという意味だけではなく、自分の思いや考えを社内に広く知らせるという意味でも、これを実践しています。

僕は20代後半の頃から、上司から仕事を与えられるのを待つのではなく、社内広くからチャンスを探し、自ら仕事を創り続けるようにしています。それができるのは、「声が大きい」=「自分の思いや考えを社内に広く知らせている」ことに関係します。

まずは、自分がその時々に注目していることや課題など、向き合いたいテーマについて、直接知っている同期や先輩、後輩に話します。

次に、その話に関係していそうな社内の人を紹介してもらいます。同じ話をその人にもして、さらに関係していそうな人を紹介してもらいます。これを繰りかえすのです。会って話をしたとき、すぐ仕事につながることはほとんどありません。

ただ後になって、その話に関係したことがあると、僕のことを思い出して連絡がもらえるようになります。こうして社内から、情報と機会が集まってくるようになるわけです。

個人が接触できる情報や行動の範囲には限界があります。機会にも限りがあり、自分が向き合いたいテーマの仕事にはそうそう巡りあえません。でも、会社には様々な部署があり、いろいろな人がいます。そのネットワークを使えば、自分の物理的な限界を超えられるのです。

どんなに優れたアイデアや企画を考えても、それを実現する機会がなければ、どうにもなりません。1人ではけっしてできなかったことも、まわりから機会を与えられ、実現できたことがたくさんありました。

これまで、映画やテレビ番組の企画をしたり、大学と産学連携事業をしたり、雑誌の連載や書籍の制作に携わるなど、広告業の枠を超えた多様な仕事が経験できたのも、社内での声が大きかったからでしょう。

これは個人的な夢がかなったことがきっかけになっています。

『イルカと逢って、聞いたこと』(講談社)の著者であるドルフィンスイマーの野崎友璃香さんは20代前半の頃から憧れの人であり、会社の元先輩に当たります。僕が入社した頃には、もう退職していたのですが、「きっと先輩たちに、仲がいい人がいるはず」と考え、何かにつけて彼女の話を社内でするようにしていました。

すると数年後のあるとき、予想どおり野崎さんと仲がいい先輩と出会え、彼女を紹介してもらえたのです。そして、彼女が活動のベースにしているハワイ島の自宅を友人と訪ね、思う存分ドルフィンスイミングを楽しむことができました。

この経験が僕のモチベーションをグンッと上げ、その後、社内で声を大きくして仕事につなげようと意識し始めたわけです。

大切なのは、日常的にまわりから集まってくる情報です。自分が向き合いたいことに関係がありながら、自分では気づかなかったことをまわりの人たちが知らせてくれます。感度のいいアンテナがたくさんあればあるほど、いい情報と機会に恵まれるのです。

社内に限らず、社外にも、そうしたアンテナを立てるべきでしょう。出会った人や紹介してもらった人に、自分の思いや考えを知らせるようにすれば、欲しい情報や機会がさらに集まってきます。
そうなると、考えの幅もグンッと広がり、アタマも活性化されて体質がどんどん変わっていくのです。

Illustrated by Tokuhiro Kanoh

プロフィール

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

    1992年、電通に入社。入社後3年半の静岡支社営業経験を経て、東京本社企画プランニング部門に異動。以後、広告企画制作にとどまらず、コミュニケーション全般の設計、商品や新規事業の企画、コンテンツのクリエーティブディレクションなど、仕事の領域は多岐にわたる。現在CDCに所属。これまでに、慶應義塾大学SFC研究所員(訪問)、大学や小学校での講師など、教育機関での活動も多数。出版関連では、重松清『夢・続投!』(朝日新聞社)、清水浩『脱「ひとり勝ち」文明論』(ミシマ社)、パパイヤ鈴木『カズフミくん』(朝日新聞出版)の企画に携わったほか、子ども向け絵本の制作も行う。著書に『アタマの体質改善』(日本経済新聞出版社)、『おじいとおばあの沖縄ロックンロール』(ポプラ社)。

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