Good JAPAN Innovation #02

【埼玉】手描きこいのぼりを宇宙に向けて飛ばす。

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    佐山 太一
    株式会社電通 CRP局 アートディレクター

「伝統工芸× デザイン」をテーマに優れた日本のものづくりと電通のアートディレクターがコラボレーションして作品を制作し、新たな価値を世界発信するプロジェクト「Good JAPAN Innovation」。第2回は、埼玉県の手描きこいのぼりとテクノロジーのコラボレーションです。

上空約30,000 メートル、「空より高いこいのぼり」

端午の節句を彩るこいのぼりは、立身出世のシンボルとされていた「鯉の滝登り」が起源とされています。登るなら、できるだけ高く。そのほうがたぶん縁起が良い。
そんな発想で撮影したのがこの写真です。職人さんにお願いして特製こいのぼりを描いてもらい、気球にカメラとこいのぼりをのせて成層圏で撮影しました。と、簡単にまとめてますが、実はいろいろな方に無理をして頂いてます。

無理をしていただいた方々。左からこいのぼり職人の橋本さん、打ち上げを手がけてくださったGOCCO. 水口さん、佐原さん。

手軽に宇宙に向けて飛ばせる時代

きっかけは、岐阜のデジタルクリエイティブ集団GOCCO.(http://goccojapan.com)さんに見せていただいたSPACE BALOON PROJECT(http://goccojapan.com/sbp/)。バルーンサットという気象観測用の気球を用いた動画は、それほど珍しいものではなく、海外では小学生が打ち上げた動画をアップしていたりするほど。今回の企画まで、日本でも打ち上げ実績があることを知らなかったのですが、テレビ番組の撮影などで、何回も成層圏に飛ばした実績があるそうです。

ちなみに原理は、
ヘリウムを入れた気球の浮力で上空にあがる。

気圧の下がる上空でヘリウムが膨張し、気球が破裂。

パラシュートで地表( 海) に落ちる。
とのこと。

ざっくりと理解したところで、GOCCO. さんに今回のプロジェクトの相談を持ちかけました。

SPACE BALOON PROJECT(左)企画段階に想像で書いた設計図(右)

手軽とか言って、すみませんでした。

実施に向けて計画を話していくうちに、このプロジェクトが手軽ではないことが分かってきました。

・日本には電波法、航空法の縛りがある。
・日本は集落が密集しているため、下手なところに気球を落とせない。
・したがって、落下地点から逆算して放球(打ち上げ)地点を綿密にシミュレーションして決めなければならない。
・気球の軌道は風の影響を大きく受けるため、直前(2、3 日前) まで打ち上げ日、放球地点が決められない。
・気圧、温度の変化に耐えられるようにカメラ部分は頑強かつ繊細なつくりが必要。
・こいのぼりが気球と絡まらずに、更にカメラに収まるよう、被写体の固定に工夫が必要。その中で重量制限も守る。
・GPS で軌道をリアルタイムに解析して予想落下地点(海) に小さな漁船で向かう。初心者はたいてい吐くことになる。
・GPS があるとはいえ、広大な海の中から小さな気球ユニットを見つけるのは何時間にも及ぶ捜索が必要。見つからないこともある。
etc…

「小学生でもできている」と高をくくっていたところ、思った以上にテクノロジーとノウハウと人員を総動員しなければいけないことが判明しました。とはいえ、GOCCO. の皆さんとSPACE BALOON PROJECT のリーダー佐原さんの、日本での気球打ち上げを開拓してきた経験により、およその段取りが見えてきました。

気球打ち上げ直前の様子@ 三重(左)回収班の皆さん@ 静岡(右)

手描きこいのぼりの限界に挑戦

こいのぼり生産量日本一の埼玉県加須市で、今なお手描きの伝統を守り続けている橋本弥喜智商店。当代3代目の橋本隆さんに話を持ちかけたところ、快くご協力いただけることになりました。工房には色も模様も様々なこいのぼりが所狭しと並べられています。

橋本弥喜智商店の工房

「伝統的な技法をベースにしながらも新しい色や模様を開発しては試している」と語る橋本さん。訪れるお客さんから出る要望に応えているうちに新しいデザインができることもしばしばあるようです。伝統と聞くと、昔からカタチを変えずにそのまま作り続けるというイメージをつい持ってしまいますが、橋本さんいわく「細かく対応できることこそ、手描きのいいところでしょう?」。

時代とともに手描き職人がみなナイロンプリントに流れていった中、伝統的技法に変に固執せず柔軟にとらえる姿勢を持っていたがゆえに橋本さんだけが” 手描き” という伝統を守り続けることができたのかもしれません。そんな橋本さんだからこそ、我々は安心してお願いができたのです。
「超ミニサイズのこいのぼりを描いていただけませんか?」

全長30cm の極小手描きこいのぼりを描く橋本さん

橋本さんの手がける手描きこいのぼりは、小さいものでもおよそ1 メートル。事前に検証した結果、今回気球に搭載可能なこいのぼりのサイズは全長30 センチメートルでした。
「ぼかし」や「かすれ」に技が宿る手描きこいのぼりにおいて、型紙すらないミニサイズでの制作をお願いしたわけです。橋本さんはそれでも、極細の面相筆で、模様のみっちり入ったデザインを施してくれました。とても30 センチメートルとは思えない迫力のある手描きこいのぼりを前に、あらためて伝統工芸の可能性を感じたのでした。
こうして全ての準備が整いました。さぁ、今こそ、失われつつある素晴らしき日本の伝統を、空よりも高く掲げよう!

世界初!?こいのぼり、成層圏へ。

こうして、たくさんの人と技によって実現した「空より高いこいのぼり」。実際にカメラに収録されたその様子を動画でお楽しみください。

メーキングムービー

プロフィール

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    佐山 太一
    株式会社電通 CRP局 アートディレクター

    2008年電通入社。カンヌ広告賞、スパイクスアジア、交通広告グランプリなど、国内外で多数受賞。グラフィックから映像、CAD、プログラミングまで広く浅く制作経験をもつ。趣味は電子工作。

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