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人もペットもうれしい社会を。No.24

ペットと長生きするための「理学療法」って?(前編)

2015/05/26

飼育環境の変化やペットフードの高度化によって、十数年の間に格段に延びたといわれるペットの平均寿命。愛するペットと一緒に過ごせる時間が増えた一方で、人間同様に高齢化に伴うさまざまな問題も生じています。
そんな中、近年日本でも注目されつつあるのが、ペットにリハビリを施す理学療法。人とペットのよりよい社会を築くために理学療法にはどんな可能性があるのか、理学療法士として動物のリハビリに従事する下神納木加枝さんと、Think Pet Projectメンバーの奈木れいさんが語り合いました。

 

ヒトの理学療法士からペットの理学療法士へ

奈木:Think Pet Projectでいろいろなリサーチをする中で、ペットの高齢化は向き合わなくてはならない問題だと常々感じています。
徐々にさまざまなケアサービスも生まれつつありますが、理学療法に関しては日本ではまだ全然周知されていないのが現状です。具体的にはどのようなことをされているんですか?

下神納木:基本的には人間のリハビリと同じで、体力が落ちないように身体を動かしたり、バランス機能を保つための運動をしています。それから、犬にも認知症があります。

奈木:夜中にウロウロ徘徊したり、何もないところに向かってほえたりするんですよね。

下神納木:犬も高齢で一日中部屋にいることが多くなると、認知症がどんどん進んでしまう。外からの刺激を与えるという点で、理学療法が介入することもあります。

奈木:そもそも下神納木さんは、動物の理学療法士ではないんですよね?

下神納木:そうなんです。人間の理学療法士の国家資格を持っているので、もともとは人のリハビリが専門ですね。

奈木:どういうきっかけで動物の理学療法士の道に進んだのですか?

下神納木:理学療法士の養成学校に通っているとき、たまたま動物の理学療法に関する海外の文献に出合ったことがきっかけです。
私は小さい頃から動物が大好きだったので、理学療法の分野で動物に関われたらいいなと思って調べてみると、オーストラリアで日本の獣医師向けに理学療法のセミナーが開かれることがわかって、私は獣医師ではないのですが参加させてもらいました。

奈木:人間の理学療法士から動物の理学療法士になるのは一般的なんですか?

下神納木:私の知っている限り、日本では5、6人しかいないですね。
そもそも動物専門の理学療法士が日本ではまだまだ新しい分野で発展途上です。養成学校の先生に聞いたときも、「日本にはそんな職業はないよ」と言われましたし。

奈木:そうなんですね。海外にはあるのでしょうか?

下神納木:はい、動物理学療法士という資格があります。4年制の大学で理学療法士の資格を取得したのち、大学院で動物理学療法士の資格を取得するケースは多いです。
あとは、大学に獣医師と理学療法士の課程のある動物理学療法の教育システムがあって、そこで座学や実技、研修を受けてライセンスを取得するケースもあります。
オーストラリア以外だとアメリカやイギリス、スウェーデンやフィンランドなどの北欧も動物の医学療法は進んでいると聞いています。

奈木:海外では専門として認められる段階まで進んでいるのに、日本で海外ほど浸透しないのはどうしてなんでしょう?

下神納木:そもそも、人間の理学療法を学んでいるときに、動物の分野があるという情報がまったく入ってこないんです。海外では獣医師会と人間の理学療法士学会が連携して、動物理学療法士学会という団体を運営しているのに対し、日本だと獣医師と理学療法士が交わる場所がほとんどないので、それも発展しない大きな要因のひとつだと思います。

 

老老介護にならないために

奈木:ところで、人間の理学療法とペットの理学療法ってけっこう違いますよね?

下神納木:最大の違いは二足歩行と四足歩行ですね。
理学療法は解剖学と運動学が大事なので、動物だとどの筋肉がどんな動きに作用しているかを、ひとつずつ勉強しています。あとは、人間だと動かしてほしい箇所を言葉で伝えることができますが、動物相手だとそれが難しい。

奈木:犬種によっても違いませんか?

下神納木:そうですね。足の長さから違うので、そこは経験しながら学んでいく感じです。犬種によって、かかりやすい病気も違います。
たとえば、柴犬は緑内障にかかりやすいですし、ダックスは椎間板ヘルニア、チワワには水頭症が多いですね。

奈木:ゴールデンレトリバーには皮膚がんが多いと聞きました。昔飼っていたゴールデンレトリバーがまさに皮膚がんで、だんだん歩けなくなったんです。
当時はペット専用の介護用品もまったくない状況で、体重が40キロ近くある大型犬を介護するのが本当に大変でした。犬を飼っている高齢者にとっては、老老介護の問題は本当に心配です。

下神納木:単身で寂しい思いをしている高齢者にとってペットの存在は大きいですし、認知症予防という観点でも、高齢者がペットを飼うことは素晴らしいことですよね。
でも、飼ってからのケアサービスやセーフティーネットがあまりにも少ないのが現状です。

奈木:そこは課題ですよね。猫は比較的、人よりも家になつく生き物なので、その特性を生かしたサービスなどが増えていますが、犬は人との関わりが切っても切れない生き物。
実際、飼育頭数も猫に対して犬は減少傾向にある中で、どうしたらもっと飼いやすい世の中に変えていけるのか、Think Pet Projectでも考えていきたいと思っています。

下神納木:そうですね。そこは理学療法の分野も貢献できる可能性があると思っています。

 

※後編は5/27(水)に公開予定です。