正解のない時代を勝ち抜く武器「納得解」とは? コルク 柿内芳文×電通 小布施典孝(後編)

  • Kakiuchi
    柿内 芳文
    株式会社コルク 編集者
  •  1
    小布施 典孝
    株式会社電通 第3CRプランニング局 企画プランナー

前回に続き、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社)をはじめ、数々のベストセラーを送り出した編集者・柿内芳文さんに、電通のソリューションディレクター兼、企画プランナーの小布施典孝さんがインタビュー。「納得解」をテーマに、納得解に必要なプロセスや相手への問いかけ、はたまた未来における感情の価値など、幅広く話し合いました。

プロセスがあって、納得する。結論だけでは納得できない

小布施:前半では、納得解につながるストーリーや文脈づくりについて話しました。柿内さんは、新書をつくる際も一冊ずつ文脈づくりをされているんですよね?

柿内:まずはレーベルの文脈に共感してもらって、ファンになってもらうことを目指しましたが、もちろん一冊ずつ文脈をづくり、どんな本かをプレゼンし、納得してもらうようにしています。本の場合、プレゼンにあたるのが「はじめに」の部分で、そこでいかに読者の感情を揺さぶれるかだと思います。誰が、何を、どんなふうに語り、読者にどんなメリットがあるのかなどを説きます。本屋でこの本を手に取った人の買う動機になるかが大事で、いわゆる5W1Hが入っていない「はじめに」は、「はじめに」ではないんです。だから僕は「はじめに」に命をかけますね(笑)。

小布施:書籍の場合、文脈を消費者に伝える役割になるのが「はじめに」なんですね。

柿内:そうですね。僕の観点からすると、実は世に出ている書籍の8割が、「はじめに」になっていないと思っています。興味を喚起し、感情を刺激しないと、「はじめに」の時点で消費者は興味を失ってしまいますから。どうしたら最初に感情を揺さぶれるかを常に考えています。

小布施:ヒットしている書籍の「はじめに」を分析すると面白そうですね。本の中身では、どのように文脈をつくり、伝えているのですか?

柿内:刑期満了のタイミングで発刊した堀江貴文さんの『ゼロ』(ダイヤモンド社)は、これまでの堀江本とはアプローチを変えているので分かりやすいと思います。堀江さんは過去に50冊ほど著書を出されていますが、どれも面白いことを言っているんです。ただ、とてもクレバーだし、サービス精神旺盛な人だから、本の定価以上の価値を提示しなきゃと思って、結論ばかりを詰め込んでいたんです。例えば「結婚制度はいらない」とか「ネクタイはいらない」とか。でも、読者は結論に至るまでの過程が知りたいはずで、その納得解に至るまでのストーリーが抜けていたんですよ。

だから『ゼロ』をつくる時は、堀江さんの今までのプレゼンの仕方が間違っていたのではないか、という仮説を立てて、文脈をどう乗せていくかしか考えていなかったですね。前半は堀江さんの自伝のような内容にして「堀江貴文とはこんな人」「こんな堀江がこんなことを言っている」と堀江さんという人間への共感を持ってもらうことを意識しました。納得解にストーリーを持たせてプレゼンする方法ですよね。

正しい問いかけが、相手の熱狂や熱量を生み出す

小布施:『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』なども、同じようなエピソードがあるんですか?

柿内:さおだけ屋は、僕が手掛けた本の「はじめに」の中で一番秀逸かもしれないですね。「会計学って難しいから入門書を作ろう」「入門書って何?」という原点から考え始めた時に、「真の入門書とは、学術・専門性と一般社会との明瞭な接点を見せることである」といったゲーテの言葉を知って。それならばその接点をエンターテインメント風に語ろうと考え、商売のからくりに目を向けたんです。

例えばおばあちゃんが一人で座っていて、いつ行っても誰もお客さんがいない町の時計屋とか。店が潰れないなら、その理由は数値化できるので会計学の対象になるんです。そんなふうに謎を解消していく過程でさおだけ屋に行きついて、面白いからタイトルにもなったんです。

小布施:さおだけ屋につながるストーリーも面白いですね! 僕も企業の方に提案する際に考えるのが、客観的に正しい戦略ではなく、主観的に面白い物語になっているかどうか。その人が周りに伝え、どんどん上に伝わっていくような、「しゃべりたくなる物語」をどうつくっていくかが重要だと思っています。

そこで、魅力的なストーリーや文脈になっているかの基準にしているのが“膝ポン感”。納得とは発見でもあると思うので、相手がストーリーを聞いた時に、「あ、なるほど!」という、膝をポ~ンと打つ感覚を作り出せるかどうか。企画書では、その“膝ポン感”の強度を高められているかを意識しますね。もちろん、プレゼンする相手の知識量や立場から、どんな言葉を投げかけたらどのくらいの“膝ポン感”を感じてもらえるかも計算する必要があると思います。

柿内:投資漫画の『インベスターZ』(試し読みはこちら→1巻2巻3巻※IE, Chrome, Firefox の最新版を推奨します)に関連して、ベンチャー企業やベンチャーキャピタルの方たちと会う機会があるのですが、ベースにあるのは経営者がどんな魅力的なストーリーを説けるかですからね。

小布施:スタートアップはまさにそうですよね、その話に伸るか反るか。

柿内:そうなんです。リソースも根拠もないスタートアップ時は、「こういう世の中を実現したい」「今のままでいいの? こうなった方がいいんじゃない?」といった魅力的な問いかけが重要で。ストーリーの熱量が高いほど、一緒に答えを導き出すための仲間ができるというか。熱狂状態をつくれるかどうかで差が出ますし、熱狂状態をつくるには正しい問いかけが必要なんですよね。

小布施:僕らの仕事の場合は、最初にオリエンテーションがあり、「こんなことを思っているので、それに対する解決策を教えてください」とクライアントさんから問いかけがあるのですが、意外と「そもそもの課題って、こういうことな気もするんです」と問いかけることから始めると、いい提案になっていくことが多いんですよね。その問いかけは熱狂の作り方に通じるのだと思います。

未来は、「感情」が世の中を変える

小布施:最近感じているのは、「戦略」と言う言葉は、数学的なデータなどから導き出されるなんだか難しそうなもの、というイメージを持たれがちだけれど、結局のところは、ある葛藤に対してどんなストーリーでどんな解決策を提示できるかであり、「戦略」と「物語」って近いところにあるということです。感情を揺さぶるストーリーと、理論的なデータって相反するものではなく、納得解を導くためにはデータが必要かもしれないし、データを使ってストーリーを紡げればそれもいいのかなと。

柿内:シンプルですよね。あるバイラルメディアの記事のつくり方を聞くと、データを上手に活用しています。一つの記事に5通りのタイトルを考えて配信しているそうですが、読者は普段読んでいる記事の傾向でセグメントされているので、他のタイトルが見えることがないんです。その上で、各タイトルの通読率のデータを取り、一番読まれているタイトルにすべて変えるそうです。

書籍だとなかなかそういうことができないのですが、同じようにタイトルが5パターンくらい付けられて、一番売れているものに統一したり、日本の東西でタイトルを変えたりできたら面白いですよね。

小布施:ウェブの記事だとトライアンドエラーがしやすいですよね。

柿内:最近、「これからは人の感情のふり幅が価値になるのではないか」といった話をすることが多いです。例えばコーヒーの定価が300円だったら、おいしいと思った人もおいしくないと思った人も300円の価値ですよね。でも、おいしいといった感情がデータ化されて、感情をたくさん貯めることで信用が蓄積されて商品と交換できるような、未来型の通貨があったら面白いと思いませんか? 

原価積み上げ方式はマルクスの時代から変わっていないのですが、ビッグデータとお金が結びつくと、マルクスの資本論からいよいよ一歩踏み出す時代も来るのではないでしょうか。そういう時に価値になるのが、「感情」なのではないかと思っているんです。

小布施:感情が世の中のあらゆるものに関わってくるということですね。

柿内:そうです。成熟社会においては、スペック勝負では足りなくて、感動や喜怒哀楽を想起させるためにあらゆるものがストーリー化していくので、エンタメの夜明けはこれからじゃないかと思います。

「タグの張り替え」を、日常で意識してみよう

小布施:いろいろな楽しい話を聞かせてもらった上で、この記事を読んでいる方に、自分なりの納得解を導くTIPSみたいなものを伝えられたらいいなと思っているですけど…。

柿内:まずは原点に立ち返って、自分が「これだ!」と納得し、熱狂するものを見つけること。納得すればそこにストーリーが生まれるので、そのストーリーを駆使して他人を巻き込んでいくということですよね。見城徹さんの『たった一人の熱狂』(双葉社)ってタイトルも、とてもいい言葉ですよね。あらゆるものは、一人の熱狂からでないと始まらない。まずは自分を熱狂させることではないでしょうか。

小布施:僕自身は、ストーリーを考えるにあたってまずいろんな人に話を聞きに行きます。自分から答えをつくるというより、人と話しながら自分が納得できるストーリーを探している感じでしょうか。納得できるまで探すというのも、納得解に必要ですね。

柿内:自分が納得していないと強度も出てこないですからね。それから、言葉を磨くことはとても大事です。ITの時代にこそ、アナログなコピーライティングが武器になるのは面白いですよね。同じものでも、「タグ」を変えるだけでガラッと文脈が変わったりしますから。例えば「東京R不動産」に掲載されている物件って、他の大手不動産でも扱っているけれど、「昭和○○スタイル」とかタグを変えることでそこにストーリーが生まれ、共感を得やすいんです。身近にあるものに、どんなタグをつければストーリーが生まれるかを考えると訓練になるかもしれません。

小布施:最近、柿内さんが考えているタグってどんなものがあるんですか?

柿内:気になった言葉はメモしているんですけど、最近では「レギュラー満タン」「ラーメン全部のせ」「希少部位」とかですかね。どれもテンションが上がる言葉なのに、テンションを上げる仕掛けがないですよね。例えばガソリンスタンドで「レギュラー満タン」のオーダーが入ったら派手な音楽が流れるとか、従業員全員で囲むとか(笑)。せっかくテンションが上がるものがあるのだから、より感動につなげる仕掛けやストーリーを考えられると思います。

小布施:確かにどのワードもテンション上がりますよね(笑)。今回、柿内さんとお話しさせていただいたことで、僕の中でもまだカタチになっていなかった物語×ソリューションという考え方がクリアになってきました。これから僕らは、クライアントさんに与えられたお題にただ応えるだけではなくて、クライアントさんと一緒になってゼロからプロジェクトを起こし、社内外のさまざまな人たちを巻き込んでいく必要があります。そうした際には、関わる人のモチベーションをいかに高めるかが重要で、「正しい説明や計画」だけではなく、「ワクワクできる、信じられる、そこに賭けてみようと思える物語」こそが人の心に火をつける納得解になっていくのではないかな、と思いました。本日はありがとうございました!

プロフィール

  • Kakiuchi
    柿内 芳文
    株式会社コルク 編集者

    1978年、東京都生まれ。
    慶應義塾大学文学部卒業後、光文社に入社。ミリオンセラーとなった『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(山田真哉)をはじめ、『若者はなぜ3年で辞めるのか?』『99.9%は仮説』『ウェブはバカと暇人のもの』などの編集に携わる。2010年に星海社へ移り、「武器としての教養」をコンセプトとした星海社新書を立ち上げ、『武器としての決断思考』(瀧本哲史)などを担当。フリーランス時代に『ゼロ』(堀江貴文)、『嫌われる勇気』(岸見一郎、古賀史健共著)の編集に携わった後、2013年に作家のエージェント会社・コルクに入社。現在は投資をテーマにした漫画『インベスターZ』(三田紀房)などを担当。

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    小布施 典孝
    株式会社電通 第3CRプランニング局 企画プランナー

    事業戦略、新商品開発、CM、プロモーション、ウェブ、アプリ、店頭、戦略PR、イベントなど、さまざまな領域での企画作業に従事。社内では、「原体験デザイン」「逆算型商品開発」というメソッドを開発するとともに、スポーツをソリューションにするユニットを立ち上げ、現在活動中。カンヌイノベーション部門ショートリスト、スパイクスアジアブロンズ受賞、アフリカ最高峰キリマンジャロ登頂。全日本大学野球選手権・優勝。

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