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セカイメガネNo.35

日曜日の情熱はアナログ

2015/06/17

僕はロドリゴ。サッカーにまるで関心がない。というか、サッカーが大嫌い。そう、本当に嫌いなんだ。僕がアルゼンチン人でないのなら、それは問題にならない。問題は僕がアルゼンチン人で、僕の暮らす国がサッカーをなにより愛していて、世界に誇る二人の偉大なサッカー選手マラドーナとメッシを生んだってことだ。僕の国ではサッカー以外の会話は成立しない。昼夜を問わず、いつだって。

一方アルゼンチンはスマートフォン普及率でブラジルを上回り、ソーシャルメディアのアクティブユーザー率で米国、カナダに並ぶ。だから次の方程式がカギになる。(サッカーへの情熱)×(スマートフォン所有数)×(一人当たりのソーシャルメディア受発信数)=? 答えは絶望的。サッカーを愛してやまない国がその情熱の全てを、デジタルで毎日24時間やたらめったら共有したがることになる。僕の苦悶(もん)を読者の皆さんにも想像していただきたい。

日曜日はアルゼンチン中のサッカーファン(全国民数-1、つまり僕)がひいきチームを応援しにスタジアムに出掛ける。ライブの試合体験をスマートフォンとソーシャルメディアで拡散・共有するためにだ。その時、素晴らしいことが起きる。アルゼンチンのスタジアムなら起きて当然の素晴らしいことが起きるのだ。大勢の人間が一斉にアクセスしてサーバーがパンク。そして、誰一人として目の前の出来事を写真、コメントでアップできなくなる。リアルタイムが命なのに。もちろんスタンドの全員が怒り狂う。

テレビ観戦ファンがソーシャルメディアでコメントするのは平均的アルゼンチン国民にとってイケてない行為だ。スタジアムからアップしなくちゃ価値がないっ! こうして僕に90分間の安息が訪れる。家に居て、サッカーの試合とまるで縁のない僕だけがインターネットを使い放題。この時とばかり僕は野球やアメリカン・フットボールの写真をフェイスブック、ツイッターに上げまくる。なんて素晴らしい夢のような時間。

僕が外国のスポーツに夢中でも、誰一人僕を責められない。僕以外の全国民がスタジアムにいて、インターネットに接続できず悶々としているからだ。アルゼンチンにおいて、日曜日の情熱は依然としてアナログなのである。

(監修:電通イージス・ネットワーク事業局)