新明解「戦略PR」 #24

出したらそれで満足ですか?

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

うぃーっす! カンヌライオンズが終わり、またクリエーティブの面々が熱病におかされ、または強い焦燥感が漂い始める今日この頃、みなさまクールにお過ごしですか? 私はじっとりジメジメ、カンヌの思い出に浸りながら、こちらをお届けしたいと思います。(いやー、もちろん私も熱に浮かされていますが、カンヌ速報は別途執筆中ですんで、お楽しみに!)

「とにもかくにも、話題にならなきゃね!」ってのはどうなの?

で、今回のお題。少しばかりカンヌとも関連してまいりますが、要は「本当のPRの成果って、具体的な結果だよね?」ってことをもう一度言っておきたいなと。前々から言いますように、カンヌライオンズPR部門のクライテリア(評価基準)は「いかに意識変化・態度変容を生み出したか、そしてそれらを通じて企業と生活者との良い関係性を構築・強化できたか」ということになります。

「話題になったよねー!」「パブリシティーすごかったなー、あのタレント出まくりじゃん?」「いいね! 3万つきました! あざっす!」…、「だからなんなんすか?」ってこと。すなわち「結局あんたたちは具体的な目標にたどり着けたの?」っつーことをきっちり見てほしいわけです。

もちろんキャンペーンのゴールはクライアントと握ってから活動するわけで、成果に対する「ブレ」は少ないとは思うものの「なんとなく話題になったよねー、あの動画」とか、「なんとなく新しいから動画でやっちゃおうか?」みたいな手法起点で施策が決められていたとしたら、それは大間違いじゃねーか? と。いや、もちろんいいんですよ。新しいことにチャレンジするのはね。そこから新しい手法も一気に広がり、しのぎを削ることでクオリティーアップが見込めるってのが、この世界の事実上のステップアップだしね。でもさ、「とにもかくにも、話題にならなきゃね!」ってのはどうなのかなー。今日はこれを問うてみたいなと。

「正論言うほど、ウザいやつは居ねー!」ってのが、私の常日頃の口癖なんですが、本日は我を忘れて正論吐きまくります! 題して「出せば満足なんですか?」です。そう、メディア露出しかり、SNSしかり、話題化の先の目標に近づこうともしない人やキャンペーンが多すぎやしませんか?

露出したいのは分かったよ。でもそれって見せるに値する中身なんですか?

もちろんマスメディアでの露出や、SNSでの拡散は機会として非常に重要。大切にすべきと思います。しかし、それで満足するのはいかがなモノか? 「出るよ! 出た出たー!」で人はほんとに動くんですか? テレビの露出分数やネット数の多さで評価が大きく異なるんですが、それって要は広告換算ですよね? それって今回、本当に重要なことなんですか? 「やー、昨日のパブリシティーはすごかったね! 広告換算、億単位だよ。うふふ」なんて評価をよく聞きますが、「でも、結局1週間後にはコンビニで棚落ちしちゃったんだよね」なんて数日後に聞いたりすることも。ええ、そうでしょう。だってタレントはやたらと映ってましたけど、商品との関連性がまるで分かんなかったですもんね! なんてこともざらにあります。

もちろん私からは言いませんよ、ええ。「大成功でしたね、シャチョーさーん!」ってな感じでいったん盛り上げときます。でも一方で、ターゲット・オリエンテッドな、ちょいニッチなウェブニュースで取り上げられたことで、翌日「売れすぎちゃって、棚から商品消えた!」なんてこともあるわけです。みなさんにとってどちらが本当に喜ばしいことなんでしょうか?

たとえばBtoB企業におけるPRを考えてみましょう。基本的には、一般生活者にはあまり関係のない技術や素材を手掛けているわけです。それを無理して一般メディアに載せていくことに、なにかメリットはあるんでしょうか? もちろん、BtoB技術や特殊素材のその先に、具体的な生活者メリットを感じさせることで企業イメージを上げていくなどの目的があるのかもしれません。「生活者にこれだけ期待されているのだから、やはり企業責任としても頑張らないとね」「絶対に人気の出る商品が作れそうだよね」みたいなインターナルへの還元効果を狙うのも、ありかもしれません。しかし、純粋なBtoBビジネスとして成果を考える場合だったらどうなのでしょうか。マスメディアに載せていくことって本当に意味があるんでしょうか?  朝の情報番組に出ることで商談とか増えるんですか? 専門紙・誌にきっちり書かれた方がいいんじゃないですか?

このように「モノを売る」ことをゴールにせず、「広告を売る。手法を売る」ってとこに行っちゃうのは我々コミュニケーションのプロフェッショナルとしても、もうやめなきゃいけない段階にあるんじゃないかと思うのです。

「ケガの功名」で本当の成果に気づくことも

先日クライアントさんに戦略PRのレクチャーをした後、意見交換をしたところ興味深い体験談をお聞きしました。昨今どのクライアントさんでも、CM発表会などをひとつのネタ・タイミングとして情報拡散をさせていくのは常套手段です。芸能枠を持つメディアにとっては、タレント・バリューそのものがファースト・プライオリティーですから、企業の知名度や製品の新しさなどはあまり関係なく、そのとき旬なタレントをいかに起用できるか、またおもしろい話をさせられるかで露出のボリュームは大きく変わってきます。

ある意味、中小企業でさえ大手をしのぐ大きなPR露出を稼げるやり方として、今もっとも競争率の高い手法ではないでしょうか。もちろんタレント・バリューの戦いのみならず、これらの枠は社会的ビッグニュースが発生すればたちどころに存在感を失ってしまい、露出そのものさえも失う可能性が非常に高いというリスクをはらんでいます。

お話ししてくれたクライアントは、運悪くある事件でほぼ発表会における露出がぶっ飛んでしまったということでした。力が入っているときに限って、こんなこともあるんですよね。しかし、たまたまタレント絡みでなにかしらの補填情報を確保していたらしく、その発表会におけるタレント周りの映像を記録していたそうで、これが奏功しました。これが少しでも足しになれば、ということでネット動画としてお披露目してみたのです。

その結果、驚くなかれ、ネット動画ランキングで上位を獲得し、人気を博すコンテンツとして大きな拡散を果たしたということでした。その商品のメーン・ターゲットは、ネットに親和性の高い層だったらしく、その意味においても当初もくろんだよりもはるかに高い到達率と共感醸成という成果が獲得できたというのです。

そう、もうお分かりですよね。「テレビに出さなきゃ」「長い尺で紹介されなきゃ」などは、施策そのものを図るための「指標」から考え出された基準でしかないんです。多くの人にテレビ番組を見てもらうという目的なら、オンエア時間帯や全国ネットの数でリーチを図るということもいいと思うのですが、そこに載せていく企業側の情報としては、「見てもらう」のが重要ではなく、「見てもらい、関心を持ち、買ってもらう」まで行き着くことが重要なはず。その最終ゴールを、コミュニケーション設計の段階で、フラットに話すことが大切なのではないでしょうか。

オリエン変えなきゃ、プレゼンも変わらず

そして、それらを目指すときに重要なのが、やはりクライアント側からのオリエンなんです。「CMは一応作りたいんですよね」と言われれば、まずは広告会社の営業担当はCMクリエーターに話をしますよね。そしてどんな方向で作らせるかのロジックを組み立てるためにマーケ担当をつけます。その後、「そういや最近はPRも大事だって言うし、あとでPR担当に声掛けてみるか」「動画とかも流行りだからプラス提案してみっか」となる。

それを聞いていると、いやいや、まずはさ、クライアント課題がなんなのかをみんなで大もとから考えるべきなんじゃないのかな、と思うわけですよ。その目標をきっちり聞き出すのがAE(アカウント・エグゼクティブ)の仕事であって、さらにクライアント側もそれを目指してオリエンしなければならないのではないかと。

なかなかこういった既存の段取りを覆すのは難しいことなのは分かりますが、正道で進めてこそ正しい結果が出るのではないでしょうか。そして広告会社側もそれを支援していく姿勢を持っています。当たり前のことを毎度言っているつもりですが、勇気をもって臨まなければそれは実現しません。実は立て続けにこのような「分かっちゃいるけど…」的なご相談をいただいたりもしたので、現在同様のお悩みをお持ちの皆々様にエールを、と思い今回はこんなことを書いてみました。

さぁ、同胞たちよ、今立ち上がる時が来たのです。ともに世の中を変えましょう!!(うーん、ちょっと今回、マジメ過ぎたかなぁ?)

プロフィール

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

    1990年株式会社電通PRセンター(現株式会社電通パブリックリレーションズ)入社。コミュニケーションデザインを手がけるチーフPRプランナー。
     
    企業のコーポレートコミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体広報まで、幅広く手掛ける。最近では、熊本県の赤い特産物をアピールするため仕掛けた「くまモンほっぺ紛失事件」のPRプランを手掛け、世界的なPR業界紙「Holmes Report」が主催するアワードで「世界のPRプロジェクト50選」に選出された他、多数の口コミを起こしたキャンペーンとして、世界的な口コミアワードである「WOMMY AWARD2014」を日本で初めて受賞。
    その他、受賞歴に、Asia Pacific PR Award、日本PR協会「PRアワード グランプリ」、国際PR協会「ゴールデンワールドアワーズ」、SABRE AWARDS ASIA PACIFIC、PR WEEK アワード・アジア、Asia Pacific SABREアワード、Spikes Asia 2014、Global SABRE アワードなど。
    実務のみならず、大学やトレードショー、PR協会での講義による若手育成にも従事。「Cannes Lions 2012」「Spikes Asia 2012」PR部門、「SABRE AWARDS ASIA PACIFIC 2014」「PRWeek Awards Asia 2015」「ヤングカンヌPR部門日本代表選考」審査員。「New York Festivals パブリック&メディア・リレーションズ部門」Grand Jury。2013年6月に「戦略PRの本質~実践のための5つの視点~」を上梓。

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