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現地レポート カンヌライオンズ2015No.1

人種・性差別の抑止に挑む、
今年のカンヌは何を示すか?

2015/06/22

cannes

さあ、今年もカンヌ国際クリエイティビティ・フェスティバルが開幕しました!今回で62回目を迎えるカンヌですが、今年からは従来の「カンヌライオンズ」に加え、昨年から始まった「ライオンズヘルス」と、イノベーション部門が独立した「ライオンズイノベーション」と、3つのフェスティバルで構成されるようになりました。

で、今回もこりずに現地までやって来たわけですが、毎度のことながら、とにかく遠い。長時間の移動で、身も心もクタクタになってしまいます。
それでも現地に着くと、コートダジュールの目も開けられないほどまぶしい日差しと、世界中から1万人以上も集まる業界を担う人たちの熱気で、一気にテンションが上がってしまうというものです。

ここ数年の広告を取り巻く環境の変化で、カンヌは様変わりしました。
もう単に過去の実績を表彰するアワードというものではなく、これからのアイデアを競い、ナレッジを共有する、いわば「未来を開くアイデアの見本市」に変貌しているのです。
僕としては、これを見ずして一年仕事はできません。どんなに遠かろうが、なんとしてでも現地に来ようと考えるわけです。

昨年は、ホンダinternaviの「Sound of Honda」が示したビッグデータの新しい活用や、ボルボの「The Epic Split」のように自走するほどの力をもったコンテンツが評価されました。これはおそらく、ソーシャルグッドに傾倒し過ぎた評価軸から、あらためて広告の可能性をどう広げるかという評価軸への揺り戻しがあったのでしょう。

そして今年の注目は、なんといっても新設された「Glass Lion(グラスライオン)」という部門でしょう。これは、人種差別や男女の偏見といった社会課題を抑止するクリエーティブを評価しようというもの。FacebookのCOO、シェリル・サンドバーグ氏が運営する、女性の社会的地位向上を推進するNPO団体「Lean In」をサポートする意義で設けられたようです。
P&Gが女性の偏見問題に切り込んだ施策「#LikeAGirl(ライク・ア・ガール)」などの前評判が高いですが、「クリエーティブが担う領域もここまで来たか」といった感じですね。

そんな中で迎えた開催初日ですが、会場は早くも人でごった返していて、登録手続きに1時間近くもかかるという状況でした。
今年も90カ国以上から1万2000人超の参加者が集い、エントリー数は3万7000を超えるという過去最大規模とのことで、まあ、混むのは当たり前ですよね。

初日は授賞式がなく、セミナーとワークショップ中心ですが、これも開催中トータルで250セッション以上あり、スピーカーは500人以上という、とんでもない規模です。
そしてセミナーのテーマや内容は、従来の広告セミナーをイメージしていると面食らうでしょう。
ソーシャル、テクノロジー、コンテンツから、カルチャーや人種問題、ゲームや人口知能まで、あらゆる分野の第一人者が、アイデアで社会課題をどう解決していけるかを、本気で議論するものなのです。

今日の内容でいうと、出会いアプリTinderの創設者であるショーン・ラッド氏や女性起業家のマーサ・スチュワート氏などが登壇し、テクノロジーの革新がヒューマニティーをどう支えていくのかという話題を中心に展開されていました。
今後も、元アメリカ副大統領のアル・ゴア氏や、女優のヴィオラ・デイビス氏、歌手のマリリン・マンソン氏など、ビッグネームが続々と登壇します。どんな展開になるのか本当に楽しみですね。

今さらですが、カンヌはとっくに「広告」から脱却しています。
ブランドや企業をより良い世の中を目指す存在であるべきだと位置づけ、いかに世の人々を巻き込み、その活動を継続していけるかと問題提起しています。
人間の一人ひとりと丁寧な関係を構築しながら、一緒になって社会の課題を解決しくためのアイデアを求めています。人間が次の社会を創造していくための、あらゆるクリエイティビティを追求する場になっているのです。だから、そのアウトプットは、表現だけに収まりません。
テクノロジーを駆使したプロダクトやサービス、人のネットワークを自走するコンテンツ、持続可能な長期活動からカルチャーの創造にまで広がっているわけです。

さあ、今年のカンヌは、僕らの未来にどんな指針を示してくれるでしょう?
これから一週間の展開を、じっくりと見ていきたいと思います。

このレポートは、現地から3回にわたってお届けする予定です。
ではまた次回。今日はこのへんで。