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Experience Driven ShowcaseNo.8

「デザイン×匠」のシナジーが生み出すクールジャパンダイニング、“進化する伝統”を世界に発信!

2015/06/29

5月1日のミラノ万博開幕から約2カ月がたちました。日本館には連日平均約60分の行列ができるなど、参加国の中でも人気パビリオンの一つとなっています。外国人来館者からは、「体感できるのが魅力」「日本の食文化を楽しく学ぶことができた」という声を聞きます。

前回はデジタルインスタレーションの先駆者であるチームラボの猪子氏とライゾマティクスの斎藤氏、そして日本館展示プロデューサーである電通イベント&スペース・デザイン局の内藤氏との鼎談を行いました。(鼎談はこちら→前編後編
これに続き、今回は日本のデザイン力と職人の技がもたらす「クールジャパンダイニング」展示エリアをご紹介したいと思います。

編集構成:金原亜紀 電通イベント&スペースデザイン局
連日盛況を見せる日本館

食をテーマとするミラノエキスポ、日本館のテーマは「Harmonious Diversity」(共存する多様性)です。その根底にあるのは、自然を慈しみ、食に関わる様々な人々を思う、感謝の気持ちです。このメッセージを、産地から食卓まで、「食を巡る遥かなる旅」の体験を通して、来場者へ届けています。
そんな日本館の展示はデジタルとアナログな手法をリズミカルに配し、来場者の好奇心をそそり、五感をフルに働かせて体感していただくようにしています。

そして今、世界中でブームを巻き起こしている日本食。
美味しさやヘルシーさだけでなく、見た目の美しさも日本食が愛される理由の一つです。四季折々の彩り豊かな食材を立体感のある盛り付けで引き立て、また器もその時期に合わせ細やかに使い分けるのが通例です。「和食器」は、季節ごとに食卓を彩り、料理をより魅力的に演出する重要な役割を担っています。

たとえば青竹やガラスといった涼やかな器は夏に、温もりのある厚手の土ものの器は冬に。漆器や陶磁器には、梅、桜、菊、紅葉、雪といった季節を象徴するモチーフが描かれています。
このように、舌で味わう前に、まず目で楽しんで、季節を感じてもらうことも日本の食文化の特徴の一つです。

今回のミラノ万博では、この素晴らしい日本の食文化を下支えしてきた、日本各地の伝統工芸品と職人の技の数々を紹介することになりました。電通プロデュースチームが考えたのは、どうせやるなら、長年培われてきた伝統工芸品をただ陳列するではなく、その進化形を新たにオリジナルで創作して万博の場で披露したい、ということでした。「クールジャパンのデザイン × 職人の技」、常に新しいものを追い求める時代の中で、継承すべき大切な日本の伝統文化を伝えたい。伝統に若手デザイナーが持つクリエーティビティーを加えることで、デザイン&ファッションの発信地ミラノから、世界にアピールしていきたい。この機会に、職人技の数々が、ミラノで話題となり、新たな需要が生まれ、途絶えかけた職人の技を後世に伝えていくきっかけとなる、このような地方創生にもつながるようなプロジェクトにしたいと考えたのです。
電通プロデュースチームの構想をもとに、公示を経て、ギャラリー空間のトータルデザインプロデュースは、今やミラノサローネでも名をとどろかせている、米ニューズウィーク誌「世界が尊敬する日本人100人」に選出された日本のトップデザイナー佐藤オオキ氏が選出されました。

 

佐藤オオキ氏
デザインオフィス nendo 代表
1977年カナダ生まれ。2002年早稲田大学大学院理工学研究科建築学専攻修了後、デザインオフィスnendoを設立。
建築、インテリア、プロダクト、グラフィック、エキシビションなど、幅広い領域で活躍する日本のトップデザイナー。エルメス、ルイ・ヴィトン、バカラなど海外クライアントも多く、ミラノサローネには2003年から参画。Wallpaper誌をはじめとする世界的なデザイン賞を数々受賞。MoMA(米)やV&A博物館(英)など世界の主要美術館に多数の作品が収蔵される。

細長いダイニングテーブルと椅子、その上に置かれるプロダクトはいずれも黒色に仕上げられています。「陰翳礼讃」(谷崎潤一郎著)の中で「羊羹の色あいも、あれを塗り物の菓子器に入れて、肌の色が辛うじて見分けられる暗がりへ沈めると、ひとしお瞑想的になる」と述べられているように、色彩情報を取り除くことで、質感や職人の高い技術力を鮮明に浮かび上がらせます。陰影の中でこそ研ぎ澄まされる感覚世界が生み出す、日本文化特有の美意識が感じられる展示空間にしたいと、佐藤オオキ氏は語りました。

テーブルと椅子は奥に進むほど背が高くなり、不思議な遠近感をつくり出すとともに、展示ゾーンの手前からは、全ての作品を俯瞰できるようになっています。

このスタイリッシュなギャラリー空間の実現に至る道のりは平坦なものではありませんでした。佐藤氏のデザインと全国200件以上もある「経済産業省指定伝統的工芸品」の職人をどのようにマッチングしていくかが難題でした。経産省と幾度も打ち合わせを重ねながらも、限られた予算、短期間での産地選定とその制作マネジメントの座組みを実現する答えがどうしても見いだせませんでした。方々を駆けずり回り協力・協賛社を募る毎日。

プロジェクトが行き詰り諦めかけたその時、救世主が現れました。
佐藤オオキ氏と日頃の仕事で付き合いのあるそごう・西武さんがプロジェクトに賛同してくださることになったのです。日頃から伝統工芸品を取り扱うそごう・西武さんが、その深い知見と産地とのネットワークを生かし、佐藤オオキ氏と産地職人のコーディネート役として支援してくださいました。こうして、経産省、佐藤オオキ氏、そごう・西武、産地の職人たち、そして電通が一丸となり、わずか半年間で、13の産地の匠とのコラボレーションによって、16点のオリジナル作品が出来上がりました。
いずれの作品にも、日本人の丹念なものづくりの精神が表れています。

 

そんな中、代表として2点の作品をご紹介します。

 

和菓子のようなコースター

常滑焼は愛知県常滑市を中心として知多半島内でつくられる焼物で、日本六古窯のひとつとして知られています。土肌の色を生かした赤褐色の陶器が一般的ですが、今回は焼成時にもみがらでいぶして黒くし、その多孔質の素地がもつ吸水性を生かしたコースターをデザインしました。その質感は砂糖菓子の落雁に似ていて、型にはめて成形するという製造プロセスも共通しています。モチーフもまた落雁によく見られる形を採用。ひょうたんのコースターはカップとスプーンを一緒に載せられたりと、新しい機能が生まれました。

 

筋で表す江戸切子

東京名物として名高い江戸切子は1834年発祥。赤や青のグラスの表面を細かいカッティングで埋め尽くすのが典型的な江戸切子ですが、ひとつのカッティングに注目しても美しさがあります。そこで透明のガラスと黒いガラスによる二層のシンプルな筒型のグラスにワンストロークでカッティングを施すことにしました。縦1本や横1本のタイプをはじめ、斜めにカッティングしてらせん状にしたり、放物線状にしたりとバリエーションをもたせています。グラスをのぞき込むと黒いガラスのカットした部分から、透明なガラスの差し込む光が内部で反射し、美しい模様を描いていることに気づきます。

いかがでしたでしょうか。
今回は一部のみのご紹介となりましたが、次回はギャラリー空間が生まれるまでの立役者の方々との対談をお届けいたします。