現地レポート カンヌライオンズ2015 #03

課題解決から課題発掘のクリエイティビティへ

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    京井 良彦
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター  プランニング・ディレクター

あっという間に、カンヌライオンズは4日間の前半戦を終えました。

全部で17部門に膨れ上がった賞も、うち13部門の受賞が発表になりました。(ライオンズイノベーションの、イノベーション部門とクリエイティブデータ部門はまた別にあります)

例年だとこのあたりで、いくつもの部門にまたがってグランプリを獲る、飛び抜けたアイデア施策が出てきて、その年の目玉のようなものが見えてくるのですが、今年はそういったものが見当たりません。

各部門で、審査の評価傾向がバラバラな感じがします。
ただ、授賞式での会場の反応を見ていると、参加者みんなが納得する施策というものは、いくつかに絞られてきます。

たとえば、米国P&Gの生理用品「Always」が展開した「#LikeAGirl」という施策。

カメラの前で、10代後半の女性と、もっと小さな女の子に、「女の子みたい(=like a girl)に走ってみて」と同じ質問をします。
10代後半の女性たちは、みんな、クネクネ、ナヨナヨとしたジェスチャー。
ところが小さな女の子たちは、みんな全力でダッシュしたりします。

これは、多くの女性が初潮期を境にして自信をなくし、女性らしさというものに思い込みを持ってしまうことを浮き彫りにした実験です。
小さな女の子たちは、そんなことはなく、みんな活発で可能性に満ちあふれています。
この実験を通じて、「元々みんなそうだった。持っていた自信を取り戻そう」と女性を勇気づけるメッセージを発信したわけです。

「#LikeAGirl」は、今年新設されたグラス部門(人権や男女偏見問題への取り組み)でのグランプリが有力視されていましたが、ここではゴールドの受賞。世の中での合意形成が評価されるPR部門でグランプリを受賞という結果になりました。
女の子が無邪気に全力で走る姿や、思いっきり野球ボールを投げたり、ゴルフクラブを振ったりする映像に、会場は拍手喝采でした。

また、自動車メーカーのボルボUKが実施した「Life Paint」という施策は、今のところ唯一、プロモ&アクティベーション部門とデザイン部門という複数にまたがってグランプリを受賞しています。

英国では年間1万9000件もの自動車と自転車の接触事故があるそうです。
その多くが夜間に起きているということで、ボルボは自動車のヘッドライトにだけ反射する特殊なスプレー塗料「Life Paint」を開発したというものです。

これは単発の施策ではなく、ボルボが掲げる「2020ビジョン」にある2020年までにボルボ車の死傷事故をなくすという取り組みの一環として実施されたものです。
スプレーというアイデア以上に、自動車を製造するメーカーの責任としてここまで社会とコミットするという姿勢がすごいですね。
課題設定の高さの方に感心させられます。

プロダクトデザイン部門でグランプリを取った「The Lucky Iron Fish Project」という施策も目立っていました。
カンボジアでは国民の半分が鉄分不足で、妊婦や子どもたちは、成長障害など深刻な症状があるとのこと。
この対策として、鉄のブロックを鍋に入れて料理をすることを啓発しましたが、うまくいきません。
そこで鉄のブロックをカンボジアでは幸福の象徴とされる魚の形にデザインして販売。これを鍋に入れて料理することを一般普及させたというものです。

プチアイデアのようにもみえますが、実際に9ヵ月で50%の人々に鉄分解消の効果があったとのことで、デザインの力で多くの人々の健康に貢献したという実績が評価されたのでしょう。

しかし、恥ずかしながら、僕はカンボジアにそんな課題があることは知りませんでした。
他にも、グラス部門でグランプリとなったP&Gがインドで展開した「Touch the Pickle」という生理中の女性がピクルスの漬け物つぼを触ると中身が腐るという偏見をなくそうという取り組みや、複数部門でゴールドとなったALS(筋萎縮性側索硬化症)の理解を募った「Ice Bucket Challenge」(日本でも話題になりましたよね)など、世の中には僕たち一般人の知らない課題がたくさんあるんだなあと、改めて気づかされました。

ここ数年カンヌの潮流は、クライアント企業の課題にとどまらず、もっと大きな社会課題をクリエイティブで解決していこうという、いわゆる「ソーシャルグッド」に傾倒してきました。
もちろんその方向性は変わらないのですが、今年の傾向は、その視点がアイデアそのものより、課題設定の高さになっているように見えます。

つまり、世の中にはまだまだ僕たちが知らない課題がたくさんあって、それを顕在化させ、飛び抜けたアイデアでなくても、きちんと丁寧に解決していこうという。そういう視点で評価されているように思います。

僕は、日本勢がこういった領域で活躍しきれないのは、日本が他の国に比べて顕在化している大きな社会問題が少ないからだと考えていました。
しかし、どうやらそうではないようですね。

これまでは、「課題を解決すること」にクリエイティビティを発揮することが求められると考えていましたが、世界のクリエイティブは、「潜在的な課題を発掘する」ことまでチャレンジの領域を広げているというわけです。

日本という国にも、僕ら一般の人間には見えていない課題がまだまだたくさん眠っていて、これらを顕在化させる「課題発掘のクリエイティビティ」が期待されているのでしょう。

というわけで、カンヌもこれから後半戦。「あっ」という展開に、期待したいですね。
ではまた次回。今日はこのへんで。

プロフィール

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    京井 良彦
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター  プランニング・ディレクター

    1969年生まれ。大手銀行でのM&Aアドバイザーを経て、2001年電通入社。
    営業局でグローバルブランドや官公庁など多岐にわたるクライアントを担当し、現在はソーシャルメディアやデジタル領域を中心とする戦略プランニング、コミュニケーションデザイン、共創マーケティングを手掛ける。東京都市大非常勤講師。著書に『ロングエンゲージメント』(あさ出版)、『つなげる広告』(アスキー新書)などがある。

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