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Experience Driven ShowcaseNo.9

そごう・西武がデザインする、日本の未来のものづくり

2015/06/30

現在開催中のミラノ国際博覧会(ミラノ万博)は、「地球に食料を、生命にエネルギーを」をテーマに、140以上の国と地域が参加しています。日本館内の「クールジャパンデザインギャラリー」のデザインをプロデュースした佐藤オオキ氏と共にものづくりを手掛けた、そごう・西武の指田孝雄氏、芦澤明利氏にインタビューしました。

 
取材編集構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局

 

そごう・西武が取り組む、佐藤オオキ氏と伝統工芸を融合したクリエーティブ

浦橋:ミラノ万博での「クールジャパンデザインギャラリー」のお話を受けての第一印象はいかがでしたか。

指田:弊社はふだんからの取り組みで、一般社団法人ジャパンクリエイティブに参加しています。これは、日本の伝統的な技術を使って、現代のデザインを取り入れた新しいものづくりを世界に発信していき、日本の伝統産業を活性化させていくお手伝いをしていく取り組みです。まさに今まで取り組んできた内容を、万博という世界的な場で広く伝えられる機会だと思いました。

浦橋:佐藤オオキさんのデザインは、かなりアグレッシブで、色を排除した黒一色の世界観のものでしたが、それを最初にご覧になったときの印象はいかがでしたか。

クールジャパン デザイン ギャラリー

指田:非常にショッキングでしたけれども、「ショッキング=自分の過去の経験の中にないこと」だと思いました。色を排除することによって、ディテールで技術の確かさを伝えるところに焦点を絞って佐藤さんは提案をされたのだろうと感じ、次の時代に技術を伝えていくための新しい手段なのだなと思いましたね。

浦橋:結構スケジュールも厳しかったと思うのですが、製作管理はいかがでしたか。

指田:極めてタイトでした。特に日本の伝統技術は古くからある分、時間の流れが現代とは全く違うつくり方をしているところにも良さがあるのですが、新しいデザインを今の時代のスピード感でやるためには、新しい技術を生み出す必要もあった。伝統技術を未来に継承していく上で作り手側にとっても素晴らしい進化の機会だったと思います。

 

伝統の技とデザインコンセプトのはざまで

浦橋:佐藤オオキさんの事務所であるnendoサイドと職人さんたちの間に入って調整したのは芦澤さんですが、進めていく中で何を感じられましたか。

芦澤:これまでもそごう・西武は、nendoさんとはかなり多くの取り組みを具現化してきたのですけれど、今回の万博までの時間的な制約は一番厳しかった。
しかしその中で、北は秋田・大館曲げわっぱから、南は鹿児島の薩摩焼まで、まさに日本を縦断する形になりました。そんな点在する各産地で佐藤さんの求めている微妙なデザインのイメージを実現するため、たとえば技術的にここまではできるけれども、これはどうしても何かアドバイスいただかないと、といった細かな部分のやりとりは、行き違いが発生しないようにこれまで以上に気を砕いてやりました。

浦橋:一番、完成までに苦労した作品はどれですか。

芦澤:どれもすんなりとはいかなかったのですが、強いて挙げれば江戸切子ですね。黒一色で展開するテーマの中で、黒い素地でこの形状でというのは比較的できやすかったのですが、カットのほうの職人さんが「これはできません」と、最初お断りされてしまった。
カットの職人さんは、通常の瑠璃色、赤、透明であれば、反対側も見通しながらカットが最終的にこういうふうに仕上がるという予測を立てながら作業をする。それが黒になると、裏側が全く見えない。なおかつ一直線で最終的にその線を帰結させなくちゃいけない。ぐるっと回してカットしていったときに、最終作業がずれるとつじつまが合わなくなる。簡単なように見えるだろうけど、すごく厄介なんだよという説明を受けて。
でも、いざやると決めたら、職人さんは意地でも良いものをつくるというマインドが高い。我々も本当に感服する素晴らしい仕上がりにしていただいたと思います。

江戸切子職人の「切る」技
黒1色、「切り」が1本しか入らない江戸切子

浦橋:まさに佐藤さんの狙いどおりというか、職人の技を際立たせるデザインですね。

芦澤:そうですね。佐藤さんのデザインは全て、職人さんが「あ、できますよ。はいはい、やりますよ」というレベルのものは、基本的に出てこないです。新しい工夫、技術を使えば何とかできるかもしれないというところの、微妙な難易度のあるものを投げかけてくる。

 

浦橋:大館の曲げわっぱも、大変そうですね。

芦澤:秋田の大館工芸社さんにご依頼をしたわけですけれど、皆さんよくご存じのお弁当箱なんかに使われている杉板を曲げています。最初このデザイン画を職人さんに見ていただいたとき、「えっ、これはナシです」的な反応でした。
なぜかというと、曲げわっぱというのは、曲げていった板材が最終的に接合されて、それで円を形成する。とめて初めて「曲げわっぱ」なんです。ところが、とまらずに渦だけ描くというのは、これは曲げわっぱという物の概念の中に今まで全くなかった。

なおかつ、渦と渦の間の隙間・空間をあけるというようなことも、今まで手がけたことがない。元はシンプルな円を描く構造ですから。じゃあ、その隙間をどういうふうに形成するか。いろいろ繊維系の素材を、厚みも計算し尽くして、一緒に曲げ込んでいって、隣り合わせになる板同士の間に空間ができるように、極力均等になるようにする。その一緒に曲げこむ素材も熱に強い繊維系のものがいいだろうというので、それをつくるための機械も新規につくっていただいた。まさに職人さん泣かせのアイテムでした。

大館曲げわっぱ
職人の「曲げる」技

浦橋:先ほどもお話に出ましたが、そごう・西武さんはずっと佐藤オオキさんと伝統技術を結ぶプロジェクトをやられていますよね。

指田:万博はまさに日本の伝統技術を後世につなげていくための大きなリスタートのチャンスと捉えています。ならば、これをお買い上げいただき、きちっと使っていただく、その努力をするのも私たち百貨店の仕事なんだろうなと。したがって、必ず商品化していきたいと考えていました。

 

そごう・西武が考える、未来のものづくりと流通だからできること

浦橋:海外も含めた市場を見据えたとき、伝統技術を広めていく新しいチャネル、方法のイメージというのはありますか。

 

指田:セブン&アイグループの一員として、オムニチャネル時代の新しい百貨店づくりに挑戦していきます。ネットとリアルの両方を持っていることがグループの大きな強みです。グループ各社と連携して、業態の垣根を越えたお買い物や商品の受け取り、各種サービスなど、ネットとリアルの融合に貢献し、時代の変化に対応していきます。
その際に、質感だとか、ものづくりの実際の苦労は、リアルなものを見て確かめる以外にない。リアル店舗を使ったお客さまへの訴求は非常に重要と考えています。

ここ近年の購買動向を見ていますと、私たち百貨店においては、長く使える本物、というキーワードが確実に上がってくる。これは震災の経験を経たことがおそらく大きいと感じています。いま生きている自分がどれだけ満足して生活をしていくか。それはふだん使っているもののクオリティーだったりセンスだったりというものが自分の感性に響いて生活を豊かにするこういうあり方が、本当に顕著に表れていると思うのです。
そういう意味では、日本の伝統工芸技術というのは、長く受け継がれてきた確かな本物。後世までもその技術やクオリティーが理解していただけると思っています。

物をつくっている方々からすると、どうすればものづくりに没頭できるのか。逆に言うと、何がないからものづくりにのめり込めないのだろうかと考えたときに、自分たちの汗の結晶が形になって皆さんのお手元に届けられる場があるなしで、全くつくる意欲が違ってくる。経済的な部分でも重要なことです。継承していくには、経済的に満たされていないと。ですから私たちは、ネットでも店舗でも、そういったものづくりをした方々の意をくんで、きちっとお客さまに提案する場を持ち続けることがとても大切です。これからもこのような取り組みを進めていきたいと考えています。

浦橋:素晴らしいビジョンを聞かせていただき、どうもありがとうございました。

<了>