ママのポテンシャルバリュー #06

並河進×田中理絵 対談(後編)

ポテンシャルバリューの定義とは?

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    並河 進
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター ソーシャルデザイナー/クリエーティブ・ディレクター/コピーライター
  • 9
    田中 理絵
    株式会社電通デジタル シニア・コミュニケーション・デザイン・マネージャー

今回の「ママのポテンシャルバリュー」は、前回に続き、電通ソーシャル・デザイン・エンジン所属のコピーライター・並河進とママラボ代表・田中理絵の対談(後編)をお送りします。

 

 

「今日は足が痛くない」ことの方が自分の人生においてプラス

 

田中:私は左右の足のサイズが5ミリ以上違うんですけど、片方ずつサイズ違いで売ってほしいというニーズにはどこも応えてくれない。どっちかが痛いか、どっちかがカポカポのまま過ごしていて。私に必要なのは、シューフィッターでも、それを調整するグッズでもなく、別々に売ってくれることなのに。

並河:そこなんだよね。モチベーションのつくり方として、男の目線は「社会における自己実現」なんだけど、ママの場合はクオリティ・オブ・ライフが上がっていくことだから。

田中:そうなんですよ。誰かのクオリティ・オブ・ライフを上げるとか、自分のクオリティ・オブ・ライフが上がるということに対価をもらえると、すごく満足度が高いような気がします。

並河:僕の妻は専業主婦なんだけど、「今回のプロジェクトがドーンと大きくなって話題になるといいな」とか言うと、「そんなに話題になることが大事?」って、そういうことに対して全然興味がなくて。

田中:どんだけ忙しくすれば気が済むの、みたいな。

並河:そうそう。だから、さっき言っていた「靴のサイズが自分に合っていること」の方が人生における優先順位が高いというかね。

田中:もちろん男女差だけではないけれど、それはかなりありますよね。

並河:確かにドーンと話題になることって気持ちいいだけで、それよりは「今日は足が痛くない」ことの方が、自分の人生においてプラスかもしれないよね。

田中:そう思いますよ。でも、こういう話はママ同士では出てこないんですよ。違うドメインで話さないと出てこない。

並河:そうなんだよね。

田中:きっと地方都市の問題とかも同じで、そのエリアとは全く関係ないところからしか、発想はやってこないんじゃないかとも思います。

並河:そうだよね。

田中:1980年代は、未来に向かって夢が描けたじゃないですか。「車がチューブの中を通るような未来がくるんだ」と思っていました。でもそのときに描かれたビジョンの多くが、技術的に実現可能でも商用はちょっと…みたいになってきて。それからは、「どこかで見たことがある未来」になってしまって、ワクワクしにくい。今未来の姿に求められているものは、技術の進化ではなくて、さっきのレンジャーみたいな「日常の中にそういう職業や仕組みがあるといいのに」という、その地の生活に根ざした、人の生き方が見える未来だと思います。

並河:ママの生活の未来を描いた展示会とか面白いかもね。左右違うサイズの靴が手に入るようになるとか、そういうのがたくさん展示されて、未来はこうなるといい、みたいな。

田中:「デザインあ展」の観客動員がすごかったじゃないですか。生活におけるクリエーティビティみたいなところにこんなにも関心が高いんだなと思いました。

並河:ママ・クリエーティブ展。絶対おもしろい気がする。たいていの未来像は、プロダクトをつくる人が思い描いた未来だけど、そうじゃない未来を描き出すというのは絶対いいな。

田中:それこそポテンシャルバリューですね。アウトプットがとても分かりやすくて、でも裏にロジックがあるというのがすごくいいと思います。クオリティ・オブ・ライフをママの視点で考えると、こんなサービスや商品ができるという「理想の暮らし」が見えると楽しい。意外と、生活者目線の未来展ってなかったですよね。

 

ポテンシャルバリューの定義とは?

 

並河:ポテンシャルバリューって、いま現在の価値ではなくて未来の価値で、直訳すると「潜在的価値」。未来の価値が実現するかどうかは、今の自分がどう行動するかに関わっている。

田中:並河さんの定義は独特で、多くの人は「本来あるはずなのに失われている価値」と捉えています。

並河:そうなの?

田中:働く女性が増えたら、みたいな話だとそうなるんです。

並河:そうかそうか、失われている価値ね。

田中:だから、ママのポテンシャルバリューはおもしろいねという人の中には、ネタになりそうだと考えるメディアの人や、ビジネスになりそうだという企業目線の人が多い。でもその文脈だと、ママにとっては関係ない言葉じゃないの、という指摘もあるのです。

並河:そう捉える人もいるかも。

田中:未来の価値を考えたときの行動と、現在の優先順位が違うことってありますよね。例えば就業ブランクができても育児をすると決めた時、子どもが手離れたしたときの「私」まで本当にイメージできていたのかとか。一生を踏まえて考えると、もう少し早く職業に復帰を考える人もいるかもしれないですし。

並河:「今は見えていない選択肢によって、生まれるかもしれない価値を可視化する」ということだよね。可視化することで、そういう選択肢もあるということを感じてもらうというか。

田中:将来の自分を考えて今の選択肢が変わるということは、日々行われていますよね。具体的にいえばダイエットとか。でも、「仕事と育児をどうしていくか」という人生における優先度の高い問題については、目の前の状況だけで判断されて、あまり深く選択肢が検討されないまま、後回しになってしまってしまいがちでなんですよ。

並河:そうだね。選択肢を可視化して、揺さぶりをかけることができるといい。

田中:ママ視点で言うとそういうことだし、企業やビジネス視点で言うと、現状のニーズとか近未来の業界や技術論ではない、別の発想の仕方で考えようということになる。

並河:おもしろいね。多分、企業のビジョンのあり方も変わっていく気がするね。

田中:ママのポテンシャルバリューも、ママへの直接の課題解決というより、ポテンシャルバリューをビジネスにしていくことで、ママも企業もみんなを巻き込んでおもしろくなる。ママのポテンシャルバリューの定義は「おもしろい」に近いところにあるといいなと思っています。並河さん、引き続きよろしくお願いします。今日はありがとうございました。

プロフィール

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    並河 進
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター ソーシャルデザイナー/クリエーティブ・ディレクター/コピーライター

    1973年生まれ。
    電通ソーシャル・デザイン・エンジン代表。
    社会貢献と企業をつなぐソーシャル・プロジェクトを数多く手掛ける。「電通ギャルラボ」代表。ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン・クリエーティブディレクター。上智大学大学院、東京工芸大学非常勤講師。受賞歴に、ACCシルバー、TCC新人賞、読売広告大賞など。著書に『下駄箱のラブレター』(ポプラ社)、『しろくまくんどうして?』(朝日新聞出版)、『ハッピーバースデイ 3.11』(飛鳥新社)、『Social Design 社会をちょっとよくするプロジェクトのつくりかた』(木楽舎)他。

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    田中 理絵
    株式会社電通デジタル シニア・コミュニケーション・デザイン・マネージャー

    2006年電通入社。生活者・市場研究を専門領域とし、コンサルティング、コミュニケーション戦略立案を行う。 2012年までラグジュアリーブランド市場研究(BLUX)、「電通ワカモン」、「電通ギャルラボ」など複数のチームで研究リーダーを担当。 2013年に育児休業より復帰し、「ママラボ」代表に。

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