雑誌編集者に聞く、「編集力」とは何か? #02

読者の顔を思い浮かべて作る(後編)

  • Profile 2
    笹沼 彩子
    主婦と生活社 ar編集長
  • Eguchi kao
    えぐち りか
    株式会社電通 CDC アートディレクター

前回に引き続き、雑誌『ar』の編集長・笹沼彩子さんと、電通アートディレクターのえぐちりかさんが、互いの考える編集力について語り合いました。

 

蓄積された情報を、どう雑誌の「手応え」にするか

えぐち:私がぜひ聞いてみたいのは、時代の空気感をどうインプットしているのかということ。というのも、前に「今の若い子は、みんなに愛されるより、一人から深く愛されたい」という「ひとりモテ」がarで特集されていました。私もその考えに共感したのですが、とはいえこういう考え方は、あらためて言われないと気付かないこと。そういったものを、どう感じ取ってまとめているのでしょうか?

笹沼:情報を感じ取るというよりは、編集部の中でやりたいことを形にしていますね。リサーチよりも、内側の感覚を優先するというか。「ひとりモテ」の特集を組んだときも、合コンはもう出尽くしているし、それよりはこちらの方がいいよねと。そうやって企画ができてきます。

えぐち:私は、何か企画する前には、そのターゲットが読んでいそうな雑誌をざっと見たりします。もともと小さいころから雑誌が好きで、小学生くらいからジャンルを問わず割といろいろな雑誌を立ち読みしていました。こんなのが流行ってるんだとか、時代の空気感みたいなものは雑誌から得ることも多いです。

笹沼:もちろん、私たちも日々のリサーチはして います。例えばファッションやビューティーなら展示会があったり、モデルの人たちに秘訣を聞いたり。ただ、それをそのまま雑誌に載せても、読者がまねする のは簡単ではないので、そこからいかに実用的なレベルまで持っていくかを心掛けてますね。

えぐち:それも大切な「編集力」ですよね。確かに、「男性はココを見ているからこうした方がいい」とか、「肌の質感を変えればこういう効果がある」というように、モテるための秘訣が具体的に書かれているので、実践しやすいと思います。

笹沼:ウェブなどの情報発信も増えてきた中で、雑誌は買って手元にある“手応え”が魅力。読者には、お金を出して買っただけの手応えを与えたいんですよね。情報のインプットだけで終わらず、雑誌を所有してもらえるように。そのためには、例えばビジュアルについても、スクラップしてもらうことを考えて作っています。

 

「正解がない」ということを認める大切さ

えぐち:日々のリサーチや蓄積がありつつも、その上で自分たちの直感を信じて自分たち自身も楽しむことを優先していく。それが雑誌作りにおける編集力につながっているんですね。ちなみに、そういった編集力は、雑誌作り以外の部分でも生かされていくと思いますか?

笹沼:楽しむことやそこから生まれるサービス精神って、どんな分野にも必要ですよね。何かをまとめるというだけじゃなく、関わる人たちの気持ちも考えながらやっていくという意味で。

えぐち:子育てをしていてもそれは感じますね。子どもの成長はすさまじくて日々アップデートされていきます。でもその状況を自分自身がいかに楽しむかが重要。大変な部分にフォーカスするのではなく、前向きに受け流す。情報も取捨選択しなければいけませんよね。

笹沼:正解がないことを認めるのも大切かなと思うんです。正解を求めようとすると失敗が怖くなって、編集も子育てもうまくいかなくなりがちなので。私は、野心を持たないから失敗するのが怖くないのかもしれないですけど。

えぐち:すごくすてきな言葉ですね! なかなか野心が捨てきれない今の私にとても響きました(笑)。そういう思い切りの良さも編集力なのかもしれませんね。

<完>

プロフィール

  • Profile 2
    笹沼 彩子
    主婦と生活社 ar編集長

    雑誌『ar』編集長。1997年に主婦と生活社に入社後、ar編集部に所属。2012年から編集長を務める。同時期にはarのリニューアルが行われ、以降、「おフェロ」や「雌ガール」など、20代女子の新たな流行を生み出している。

  • Eguchi kao
    えぐち りか
    株式会社電通 CDC アートディレクター

    電通でアートディレクターとして働く傍らアーティストとして国内外で作品を発表。
    2014年絵本「パンのおうさま」が発売。
    12年フィギュアスケート髙橋大輔選手の衣装を担当するなど、広告、アート、プロダクト、衣装などさまざまな分野で活動を展開。

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