現地レポート カンヌライオンズ2015 #06

広告の存在意義の模索と、
変わらないアイデアの力

  • Take 02 6559 hirota
    廣田 周作
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター

カンヌライオンズ2015が終わり、すでに1週間がたちました。各所で様々なレポートや考察が発表されていますが、今回、僕も現場担当者の一人として感じたことを書いてみようと思います。

カンヌの会場ではひたすらショートリストを見ていました。膨大な数のエントリーを見たので、なかなかまだ完璧に消化しきれてはいないのですが、 個々に好きなもの、苦手なもの、学べるもの、アイデアに心から感動するもの、文化の違いから正直アイデアの狙いがよく分からないものまで、多種多様なものがありました。

その中で、ゴールド以上を受賞する作品には、やはりある種の傾向があったかと思います。評論家でもないので、あくまで僕の主観にはなりますが、受賞作の方向性で気づいた傾向について書きたいと思います。

1. 社会的意義があり、かつ、有無を言わせぬ「結果」を出しているもの

ここ数年、社会的に意義のあることを行う、いわゆるソーシャルグッド系のエントリーが数多く受賞してきていますが、今年もその傾向は引き続きあったと思います。むしろ強まっているという印象でした。ある審査員に聞いた話では、ソーシャルグッドであることは、「審査をする上で、暗黙の前提にすらなっていた」とのことです。これは、ソーシャルグッドは、企業のブランディングにとって、一過性の流行りではない、永続的な大きな命題になった、ということかもしれません。特に今年は(僕の主観ではありますが)実際に数値的な結果が出ているものが強かったように思います。

アイスバケツチャレンジがfor Goodでグランプリを受賞したことが象徴的ですが、良いことをメッセージとして伝えようというだけではなく、実際に伝えて、結果につなげた、というところまでがあっての受賞だと思われます。これは、「建前として、良いことをやる」ということではなく、「本当に良いことをやって影響を持つ」ことにチャレンジのレベルが上がったのだと思います。こういった傾向が、今年のグラスライオンの設立にもつながってきているのだと僕は解釈しました。

2. エージェンシー自らが、メーカーや投資会社に限りなく近くなる方向

今年は米国のR/GA社に代表されるIoT系のプロダクトやデジタル系のデザインを行うブティックが数多く選ばれました。「Alvio」や「Owlet」、そして「Hammerhead」など、もはやプロダクトデザインも内包したサービスのアイデアが多くのカテゴリーを横断して受賞しています。ただ、これらの受賞は、プロダクトやサービスの品質が高いだけでなく、ビジネスモデルも画期的です。

実際、R/GA社のセッションは非常にインパクトが強く、参加者は口をそろえて刺激を受けたと言っていたわけですが、もはや、彼らは、クライアントからお金をもらって、サービスを作っているわけではなく、自らをスタートアップと位置づけている。テック系のベンチャーに3ヵ月で1000万円を投資し、自らもコミットしてデザインやストーリーによるブランディングを行い、事業がうまくいきそうであれば対価をもらうというビジネスを行っています。そのベンチャーが成長すれば、自らのクライアントにもなる、ということです。こういった手法は、大手広告会社のビジネスモデルとは大きく違うことがわかります。

3. 手段の技を競うことから、目的の発見と解決を競うものへ

1、2の話と関連することかもしれませんが、カンヌライオンズでは、本編とは別に、ライオンズイノベーション、ライオンズヘルスが新設され、今年は、カテゴリーの中に、新たにグラスライオンズが追加されました。その理由は、それぞれに考えてみる必要があると思います。従来のカンヌでは、フィルムやサイバーといった、「各メディア=手段」の枠内でどのような表現ができるか、その技やアイデアの洗練度、魅力を競うものだったと思うのですが、直近の傾向では、同じエントリー作が、数々のカテゴリーで同時にゴールドを受賞することが珍しくありません。あるアイデアを実現するためには、手段として様々なメディアを横断して使うのが当然なので、それぞれのカテゴリー内でも高く評価されるということです。それは何を意味するかというと、 カンヌは「各メディア上の表現やアイデア」のみならず 「課題の大きさとその解決の鮮やかさ」こそが競われるように根本的に変わりつつあるのだと思います。メディアの特性を上手に捉えていることは大前提ですが、その上で、何を変えたか? そこが追求されています。

実際、グラスライオンやライオンズヘルスの新設は、その傾向を如実に示したものではないでしょうか? メディアごとの縦割りで評価するだけでなく、大きな目的 (健康、ジェンダー、イノベーション)を設定し、その課題にどれだけ果敢に挑んでいるのか、 結果を出せているのかを(メディアを問わずに)評価しています。もし、この傾向が続くとするならば、もしかすると、将来は、スポーツライオンや、リベラルライオン(!)といったものすら出てくる可能性があります。

以上が、僕が感じたことです。ある意味では、カンヌという場所は、広告業界の人たちが自らが、自己言及的に、広告の居場所を再定義し続ける場所、と言っていいのかもしれません。

2011年、カンヌは広告祭という文字を消し、クリエイティビティ・フェスティバルと名乗り始めましたが、広告と自ら名乗らなくなったことで、広告は、必死で社会のどこに存在意義があるかを模索している、そんなふうにも受け取れると思いました。

もちろん、いいアイデア、いいデザインの価値が変わるわけではありません。人が感動する何かは普遍的だし、同時に、まだまだブラックボックスの中にあります。クライアントさんの課題、社会の課題がある限り、アイデアは求められ続けます。そこは変わらないのですが、大きな使命も同時に背負い始めている…。

カンヌに行くと、一広告マンとして、「君はどれだけ深く考えられているかい? どれだけ鮮やかに課題解決できているかい?」と、いやでも深く問われるということを、改めて感じました。あの土地で学んだことを自分への問いに変換し、目の前の仕事を少しでも価値のあるものに、いいものにしていければと思います。

cannes

プロフィール

  • Take 02 6559 hirota
    廣田 周作
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター

    2009年に電通入社。企業のソーシャルメディアの戦略的活用コンサルティングから、デジタル領域における戦略策定、キャンペーン実施、デジタルプロモーション企画、効果検証を担当。社内横断組織「電通ソーシャルメディアラボ」「電通モダン・コミュニケーション・ラボ」などに所属。著書に『SHARED VISION』(宣伝会議)。

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