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夫の家事育児時間 が第2子以降の出生割合に影響
~「さんきゅうパパプロジェクト」キックオフシンポジウム

2015/07/10

    内閣府は6月29日、東京・千代田区の中央合同庁舎で男性の配偶者の出産直後の休暇取得を推進する「さんきゅうパパプロジェクト」のスタートを記念し、キックオフシンポジウムを開催した。各企業の人事・CSR担当者や地方公共団体の少子化対策・男女共同参画担当者ら、約200人が参加した。

    前半は、有村治子内閣府特命担当大臣(少子化対策)がシンボルマークを発表。日本経済団体連合会(経団連)副会長・人口問題委員長で日本生命保険会長の岡本圀衞氏や、全国知事会次世代育成支援対策PTメンバーで福島県知事の内堀雅雄氏があいさつに立った。後半は、有識者らによるパネルディスカッション「男性の配偶者の出産直後の休暇取得促進に向けて~事例紹介とリアルなパパ・ママの視点から~」が行われた。

    シンボルマークを囲む有村大臣(中央)、岡本経団連副会長(左)と内堀福島県知事(右)。
    シンボルマークを囲む有村大臣(中央)、岡本経団連副会長(左)と内堀福島県知事(右)。
    ロゴマーク

    内閣府はこの5年間を少子化対策の集中取り組み期間と位置づけ、今年3月20日には少子化社会対策大綱を閣議決定した。この中で男性が配偶者の出産直後に休暇を取得する割合を2020年までに80%(※)にする数値目標を掲げ、「さんきゅうパパプロジェクト」を立ち上げた。

    ※配偶者の出産後2か月以内に半日又は1日以上の休み(年次有給休暇、配偶者出産時等に係る特別休暇、育児休業等)を取得した男性の割合。
     

    同プロジェクトは、父親が新たな命の誕生の時を家族と共に過ごすことで親であることを実感し、配偶者との絆を深め、家事・育児を行うきっかけとし、仕事と生活の調和「ワークライフバランス」へとつなげることを目標にしている。また、夫の家事・育児時間が長いほど、第2子以降の出生割合が高くなるというデータがあり(下図)、少子化対策の一環としても重要視される。

    夫の休日の家事・育児時間別にみた、この8年間の第2子以降の出生状況

    シンポジウムではまず、有村大臣が登壇。2014年の日本の合計特殊出生率が9年ぶりに低下して1.42となった危機的状況を解説し、「尋常ならざる努力が必要だ」と強調した。「日本の男性の家事・育児時間は欧米諸国に比べて極めて短い。また、男性の出産直後の休暇取得に至っては現在まで統計すらとっていなかった。出産直後の休暇取得率80%という目標を掲げたこと自体が新たな取り組みであり、これを何とか実現したい」と述べた。

    続いて同プロジェクトの旗印となるキャッチコピー「パパが産休 家族にサンキュウ」と、シンボルマークを発表。「社会全体で子育てを応援する機運が高まっていくことを念じ、シンボルマークを活用していく。社会のスタンダードにしていくために、力を貸してほしい」と積極的参加を呼び掛けた。

    壇上では実際に休暇を取った内閣府職員4人がシンボルマークを紹介した。
    壇上では実際に休暇を取った内閣府職員4人がシンボルマークを紹介した。

    日本経団連の岡本副会長は、経団連でも軌を一にして人口減少への提言や、人口問題委員会が設置されたことを紹介。また自身が会長を務める日本生命での成果も発表した。同社は平成25年度に男性職員の育休取得率100%の目標を宣言し、同年度、翌年度と実現させた。実行・実現のポイントとして、数値目標を経営計画に織り込むことなどを挙げ、現場が心配していた休暇取得による業績への悪影響はなかったと強調。今年も100%を目指すことを宣言した。

    内堀福島県知事は全国知事会の立場からあいさつに立ち、少子化問題への宣言・提言や、地域の実情に応じたさまざまな施策に取り組んでいることを紹介した。

    後半のパネルディスカッションでは東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長の渥美由喜氏をモデレーターに迎え、パネリストとして、父親支援事業に取り組むファザーリング・ジャパンの安藤哲也氏、『たまごクラブ』『ひよこクラブ』編集統括の仲村教子氏、アイナロハ代表取締役で札幌市立大学助産学専攻科講師の渡辺大地氏が登壇。昭和電工の総務・人事部の萩原真実氏と三重県健康福祉部 子ども・家庭局次長の栗原正明氏も、同社内や三重県での取り組みを発表した。

    パネルディスカッションの様子。企業や自治体の問題から、父親・母親視点からの意見まで活発に議論された。
    パネルディスカッションの様子。企業や自治体の問題から、父親・母親視点からの意見まで活発に議論された。

    渥美氏は“さんきゅうパパ”推進のために、企業文化、日本の風土として育児を目的にした休暇取得を慣習化することが必要だと訴える。組織の中で文書やイントラネット、社内広報等でマジョリティーであることを明確化しアピールすることが有効だと語った。また、安藤氏は「ダイバーシティがしっかりとしている会社には新卒採用にも有効で業績にもつながる」という。

    「“さんきゅうパパ”を増やすことは家族政策であり、虐待などの予防政策にもつながる。男性の育児参加はもはや情で訴えるものではなく、合理性を持つプロジェクトだ」と安藤氏は語る。産後の離婚の予防など、社会コストを減らすことにもなるという。仲村氏も、産後の夫婦仲が悪くなるいわゆる「産後クライシス」の予防になると強調し、産後サポート事業を手掛ける渡辺氏は「夫婦で産後の慌ただしさを一緒に経験・共感すること」が女性側のニーズであると紹介。渥美氏も「子育ては中・長期的なプロジェクトだ。幼いころに親子の基本的信頼感を培えば、思春期の問題の軽減もつながる」と語った。

    最後に渥美氏は、「産休さえ取れないという人は、これから必ずマネジメントで失敗する。部下一人一人の状況に合わせたマネジメントがこの時代、必須スキルとなる。また家族を大切にできる夫は、虐待やDVとも無縁だろう。共に過ごすことで子どもの異変に気付くことができれば病気の早期発見にもなる。『ありがとう』の輪を広げ命を守るプロジェクトとして、“さんきゅうパパ”の共感を広げていきたい」とまとめた。