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生体信号が拓くコミュニケーションの未来No.3

音楽のほうから自分たちを見つけてくる新しい体験

2013/11/11

第3回目となりました「生体信号が拓くコミュニケーションの未来」、今回は音楽プロジェクトについてneurowearの土屋泰洋さんと、なかのかなさんに語っていただきました。

 

音楽に対する集中力が落ちているような気がする

──土屋さんは、いつ頃neurowearに参加したのですか?

土屋: 僕は2012年の4月にneurowearに参加しました。もともと音楽が好きで、音楽と脳波って相性が良さそうだというところから考え始めたのが音楽プロジェクトです。neurowearには、なかのラインと土屋ラインの2つのプロダクト系ラインがあって、僕が音楽系のアプローチを担当しています。

──音楽プロジェクトでは、土屋さんが中心になっているんですか?

土屋: 推進役という感じですね。ブレストなんかはみんなでやるので、アイデアはチーム全体から出てきます。最初に作ったのがNEURO TURNTABLEなんですが、これはQosmoさんというパートナーと一緒に作りました。

──使っている脳波センサーは、necomimiと同じものですか?

なかの: はい、集中とリラックスを計測する同じものです。

土屋: 集中とリラックスを何に置き換えるかというところで、ロボットの動きに変えたのがnecomimiで、それ以外にどうしたらインタラクションとして面白いものができるか考えて、音楽の再生スピードを変えたものがNEURO TURNTABLEです。音楽に集中していないと、再生が止まってしまう音楽プレイヤー。

──その発想って、どこから出てきたんですか?

土屋: 僕はiPodやiPhoneにたくさんMP3入れて持ち歩いていますが、スキップしながら聴くことが多くて、アルバムを最初から最後まで聴くことが無い。もっと言うと1曲を通して聴くことがあまり無くて。曲をたくさん持ち歩けるようになった分、音楽に対する集中力が落ちているような気がするんです。

──確かに、そういう傾向はありますね。

土屋: MP3が出てくる前は、レコードやCDをプレイヤーに乗せて再生ボタンを押して、だいたい12曲ぐらい入っているアルバムを最初から最後まで聴いたじゃないですか。でも、そういうのが全く無くなってしまった。集中して音楽を聴くという行為を取り戻すにはどうしたらいいだろうかと考えたとき、構造的に集中しないと聴けない音楽プレイヤーがあったら、それこそ集中せざるを得ないだろうと(笑)。NEURO TURNTABLEは、「音楽を聴くということは、そもそも音楽に集中する行為である」というように、意味を更新できるかなと思って作りました。最初はアプリケーションの形で作っていましたが、せっかくなんで実際のレコードプレイヤーと連係させてみて、脳波と連動してピッチが上がったり下がったりするというものを作りました。

(“NEURO TURNTABLE” demo movie  http://www.youtube.com/watch?v=Z0fOJCCiglQ

──パートナーのQosmoさんとは、どのように作業を進めたんですか?

土屋: Qosmoさんは音楽とテクノロジーを組み合わせた仕事を多数手がけられている会社で、脳波センサーでこういうデータが取れると説明すれば、じゃあこういうことができますね、例えばiOSに実装できますね、というやりとりができるんです。NEURO TURNTABLEも、最初にいきなりプロトタイプを作ってくれました。

──他の音楽プロジェクトでも関わっているんですか?

土屋: Qosmoの徳井さんは、『iPhone × Music iPhoneが予言する「いつか音楽と呼ばれるもの」』という本も執筆されていることもあって、neurowearの取り組みに興味を持ってくれました。実は、NEURO TURNTABLE以外にも、Brain Disco、ZEN TUNES、micoといったプロジェクトもQosmoさんと一緒にやらせていただいています。

──Brain Discoはクラブイベントですよね?

土屋: これはQosmoさんが開催しているイベントで、お客さんの脳波を測定したDJコンテストをやったら面白いんじゃないかという雑談からはじまりました。

──どのような結果になりましたか?

土屋: 皮肉だったのが、音楽をかけてないときが一番集中していたこと。急に音楽が止まると、みんな集中力が上がるんですよ(笑)。なので結構一筋縄ではいかない感じがありました。DJは、どうしたら集中力が上がるのか考えて、急に曲を止めて別の曲をカットインしたり、普通のフロアーとは違うコール&レスポンスになっていました。

──DJがコツを掴んで、お客さんの集中力を上げるようになったり?

土屋: そうですね。コツというか、みんなをびっくりさせるようなことをすると集中が上がるので、そういう小ネタをちょこちょこ挟んできたりとか、リアルビートマニアみたいな感じになりました。

 

非言語な感覚的なことをそのまま検索できる方法があればいい

──ZEN TUNESというのは?

土屋: 音楽のプレイリストを脳波から作るというアプリケーションです。

(“ZEN TUNES” demo movie http://www.youtube.com/watch?v=fIrRhd2mRZY

なかの: ZENTUNESは、ひとつのテストケースとしてのプロジェクトで、micoの前哨戦と言ってもいいかもしれない。

土屋: その後、「集中とリラックス」に、ちょっとネタ切れ感が出てきた時に、慶応大学の満倉先生との出会いがありました。満倉先生の新しいロジックでZEN TUNESの考え方を進めたのが、脳の状態に合った音楽を生成してくれるヘッドフォンのmicoなんです。

なかの: 前回お話ししたアルゴリズムとは別に、満倉研究室では音楽の研究もしていて、それならZEN TUNESをより面白い形で実現できるかもしれないね、ということでスタートしました。

──音楽の研究とは、どのような内容なんでしょうか?

土屋: ざっくりいうと、どういうジャンルの音楽を聴いたら、脳波にどういう特性が出るのかという研究です。その研究をベースに、何も聴いてない時の脳波パターンを解析して、音楽のパターンに類似性があれば、その人にフィットする音楽が分かるんじゃないかと思ったんです。

──人によって合う音楽が分かるということですか。

なかの: 人というか、その人のその時の状態に合う音楽が分かるということですね。

──脳の状態に合った音楽を再生するということですが、その音楽は、自分の持っている曲のなかから選んでくれるんですか?

土屋: micoは今年の3月に、アメリカ・テキサス州オースティンで行われる音楽コンベンションSXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト)のトレードショーで発表したのですが、その時はこちらで用意した100曲分のサンプルから選びました。今作っている最新版は、自分が持っているライブラリーを解析すれば使えるようになる予定です。

なかの: 最終的にはサブスクリプションモデル(定額制コンテンツ配信サービス)の音楽配信サービスなどにアドオンされるような形を考えています。日本でいうと音楽聴き放題サービス。

土屋: 音楽聴き放題サービスって、音楽に詳しい人にとってはすごく嬉しいけど、あまり詳しくない人にとっては、何を聴いたらいいのか分からないという課題がある。だから、音楽を聴きたいときに、その人の気分に合ったものを選んでくれたら良いと思うんですよ。音楽を探すのに、言語化できるものしか検索できない今のWeb検索は限界があって、「あのふわふわしたカチカチした曲って何だっけ?」というときに、非言語な感覚的なことをそのまま検索できる方法があればいいと思う。micoはそこまでいってないですけど、いずれは生体情報から、非言語な感覚をそのまま検索できるようになるんじゃないかと思う。

なかの: 音楽をただ聴きたいだけなのに、検索するためにジャンルの勉強からはじめないといけないのって、なんだかヘンですよね。「ペコペコしててズンズンしてるのが聴きたいんだよ」っていう気分の時に、感覚をそのまま検索できたらいい。

土屋: そうそう。例えばメタルっていう言葉を知らないけどメタルを聴きたい人が、「暗くて重くてゴリラが走ってて、ときどき馬も走ってて、みたいな音楽ってなんだろ」と思っても、聴きたい曲にたどり着くには時間がかかる。音楽って、言葉を知らないと縛られるところがあるけど、言葉を知らない人の方がジャンルにとらわれずに自由に音楽を聴いている可能性もある。たったら、ジャンルを知らなくても新しい音楽に出会えるチャンスが作れたら面白い。micoの基本思想はそういうところにあります。

──micoは、これからどうなっていくんですか?

土屋: まず100曲しかなかったサンプルを増やして、将来的には簡単に解析できるようにしていく。あとはレコメンドの精度を、より納得度が高いものにしていきたいですね。

なかの: micoには、音楽との新しい出会いの提供というコンセプトがあります。micoという名前自体もMusic Inspiration from your subCOnsciousnessで、「音楽が降ってくるといいよね」という意味がこめられています。

土屋: ご神託みたいな。

なかの: ご神託来るといいよねって、じゃあ巫女さんだね、というところから始まってるんです。シャーマンとかそういう感じのイメージ。

土屋: ミュージック・セレンディピティという言葉を掲げているんですけど、能動的な検索ではなく、機械が察して音楽のほうから自分たちを見つけてくるっていう、新しい体験を作りたいと思っています。

(“mico” instruction movie http://www.youtube.com/watch?v=JyiXQgj_Nfk

 

僕がやりたいことって音楽でいうとスクラッチ

なかの: それと、micoには気持ち漏れ機能も付いているんです。

──なんですかそれ(笑)。

なかの: 音漏れじゃなくて、気持ち漏れっていうのがあると、未来のヘッドフォンっぽいんじゃないかという。

土屋: 耳のところにスクリーンが付いているんですけど、脳波を解析して、ストレスを感じると怒りマークが出たり、集中力が上がるとビックリマークが出たりするという、なかのさん肝入りの機能です。

(“mico” first demo with Julie Watai http://www.youtube.com/watch?v=TGlUNL7z990

なかの: 実はヘッドフォンの大きさの半分くらいはその機能が占めていて…(笑)。

土屋: SXSWで目立つことを考えて、脳波を計測していることを分かりやすく表現しようということでスクリーンを付けました。micoは「脳波センサー付きヘッドフォンがあったらこんなに面白いんだよ」という一つのショーケースとして作っているのでサイズが大きいのですが、もっと普通のヘッドフォンサイズにもできます。最終的なハードウェアは、パートナーのtsugさんが素敵な形にまとめてくれました。

Photograph by Michinori Aoki
Photograph by Michinori Aoki
 

──気持ちを漏らす方向に進めるのは、やはり…。

土屋: なかのさんですね(笑)。

なかの: なんだか楽しいですよね、人の頭の中がはみ出ちゃうのって。電車の中でヘッドフォンをつけている人は排他的に見えるけれども、例えばmicoを付けた女の子がメールを見ていて、いきなりムカッてマーク出たらすごくカワイイ。カレシからムカつくメールがきたのかなとかいろいろ想像しちゃう(笑)。そうすると、場に連帯感ができる気がします。

土屋: ダダ漏れの方向ですね。

──これから音楽プロジェクトはどういう展開をしていくんですか?

土屋: micoの反応で、今の自分の気分にあった音楽が流れるのは最高だけど、悲しいときに慰めてくれたり、怒っているときになだめてくれるような、気持ちをコントロールするために音楽を使うような方向もいいよねっていう声が多かったんです。脳波を解析することによって音楽の効能を定義できて、この音楽を聴くとあなたは落ち着く傾向があるっていうのが分かったらミュージックサプリメントみたいな考え方ができて面白いなと思っています。

なかの: 効能別のカラフルなmicoヘッドフォンが作れたら嬉しいです。

──新しい技術や解析方法に合ったアイデアがあれば作っていくというか、考えていくというか。

土屋: 脳波だけじゃなくて、例えば心拍数や発汗量から、何かしら感情みたいなものを類推して、それをベースに音楽をレコメンドするっていうことも考えられる。例えばベタな例ですけどランナー向けに、心拍数に合わせてビートを生成するようなアプリケーションを作ったら、音楽のペースに合わせることでベストな走り方ができるとか。

──新しい提案をしていくと。

土屋: 僕がやりたいことって音楽でいうとスクラッチに似ていて、レコードってそもそも擦るものじゃないけど擦ったら格好よかった、みたいなところで新しい流れを作っていきたい。技術として想定していない使い方をすると、こんな面白いことができるということを考えていきたいですね。音楽プロジェクトに限らず、もし技術シードを持っている企業があったら、「こんな技術あるんだけど」って相談してもらえれば、新しいアングルでの提案ができるんじゃないかなと思っています。