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Experience Driven ShowcaseNo.15

ラコステがトライする、新しいエンゲージメントのかたち

2015/07/22

今年の5月下旬から6月上旬にかけて、渋谷、青山エリアをラコステのワニモデルが自らがショップになって闊歩し注目を集めました。このキャンペーンの内容について、ラコステ ジャパンの竹内早穂子さんに、このプランニングやイベント・プロデュースを担当した、電通の小野総一と藤田卓也がインタビューしました。

取材・編集構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局

 

ラコステ流「プレイフルネス=遊び心」のつくりかた

小野:最初はメディアのエージェンシーを選抜するという競合でしたが、ラコステにとって最適な戦略は何で、そのときにどういった表現が適切で、だからメディアプランはこういったものがいいよねというトータルのプレゼンテーションをさせていただきました。

「若者を中心としたブランディングをする」「シンプル・コンサバ・スポーツから脱却し、遊び心あふれる着こなしを世の中に提案していく」というものですが、なぜ我々のプランニングをお選びいただいたのでしょうか?

竹内:理由は、3つあります。ひとつは、メディアプランを出してくださいというブリーフに対して、お題どおりにメディアプランだけを持ってきていないというところが面白かった。2番目はメディアバイイングだけしているのではいけませんよという、ちゃんとしたロジカルな理由、コンシューマーインサイトの裏付けがあってご提案をいただいているというところです。

3番目としては、我々のブランドは知名度はあるけれども、認知されている割には「ラコステって何?」という明確なブランドイメージをお持ちの方が少ない。 お客さまとのエンゲージメントを高めていくことがすごく大事だと思っていたので、コンシューマーインサイトのキーワード「プレイフルネス=遊び心」が明確 に企画に落ちていたところがいいなと思いました。

小野:グローバルで掲げていらっしゃるDNA、その中でもプレイフルネスに近いような概念がありますね。インベンティブ、クリエーティブということですが。今回、ワニモデルたちが自らのコーディネートをショップとなって街に出て販売する「I’m SHOP」は、ポロシャツに何かを組み合わせるとか、お客さまに自分自身の遊び心を発揮してもらいたいという提案をこめたんですね。

20のコーディネイトに身を包んだワニモデルが表参道に出現。

竹内:着こなしを伝えるというときに、今まで雑誌の編集タイアップのような形で伝えても、なかなかそれでは浸透しないところがあるんです。

小野:ニュース性があるとか、そういう一つのフックがあって初めて伝わっていくんだろうなと。ファッションの文脈をいかにずらしていくか。ワニのマスクづくりも、すごくお金をかけてリアルなクオリティー感でつくりましたね。

ワニマスクの制作風景

藤田:僕は、ラコステさんが築かれてきたブランドの中に、既に受け入れられる素地というか、ラコステさんだからこそ、このような遊び心が伝わるという感触があったのではないかと思います。

竹内:そうですね。スポーツから始まったブランドなので、動きがあるとか、前向き、楽観的、フランス語でJoie de vivre=楽しく前向きに人生を謳歌する、みたいなアティチュードというか、概念的なので難しいと思うんですけれど、そういうブランドのアティチュードがありますね。

小野:ワニのモデルが物を売っているサイトをつくったのは、広告というよりは売りに近いところの、まさにボタンを押せば買えるというところ、そこまで遊び心で攻めていこうよということで、僕たちと一緒にEコマースサイト自体も遊びがあるものに変えてくださった。どうしてもマーチャンダイジングと広告では縦割りだったりするので全体を統合したものになりにくいですが、今回は実現できました。

Eコマースサイトでの展開
 

 

ラコステが既に持っているDNAを、どう発展させていくか

小野:何を資産として得られたかとか、ラーニングできたなと思われることはありますか。例えば、ファッションスナップの記事が1000とか2000とかリツイートされて、情報が広がっていく。それは、単にラコステからこういう商品が出ましたとか、こんなイベントをやっていますという情報を拡散していくよりも広がりが出たなと思うのですが。

竹内:今回、いきなり消費者のブランドに対する目が変わることはないとは思いますが、どのぐらい親近感やブランドへの興味が高まったか、ラコステの名前は知っていたけれど自分のものじゃないと思っていたような方が意外に身近と感じてくれたかは、毎年ブランドヘルスチェックみたいなことを行っているので、そこで評価したいと思っています。

小野:伝統と進化のバランスが、ラコステのブランドにとってすごく重要なことなのかなと思っています。フランスで生まれたルーツだったり、常にあった革新性だったりを、現代においてどういうバランスで世の中に伝えていくのがベストなのか。

竹内:これからは確実に10~20代の若い世代を狙っていかなきゃいけない。彼らの中で話題になっていくブランドにしていかなければいけないのは確実なので、そういう意味では今回やった施策は答えになっていると思います。

藤田:ファッションブランドが、ファッションブランド然としてやることって、10~20代にネットでバズっているようなコンテンツと、一番遠いところにあったりします。結構きつい表現とかが入っているものを楽しむとか、その辺の味つけが結構肝ですよね。

竹内:確固としたDNAがある人が、何か面白いことを 毎年やっているというような、わくわくした期待感をお客さまに与えようとすると、多分メディアミックスでも補っていかなきゃいけないのかなと。遊んでいる ところだけが目立ってしまうと、意外性が見えないじゃないですか。他のメディアとの明確なすみ分けを今後はもうちょっとやっていったほうがいいのかなと思 いました。

小野:そう思います。ブランドのパーソナリティーを一本化して、ちゃんと統一し続けようみたいな議論は、ここ10年ずっとあると思うんですけれど、一方で、人にも二面性があるように、ブランドだって実は二面性があって、すごく格式が高いブランドでも、その格を守りつつも楽しんで遊んでいるという、両方が見えてきて初めて面白みを感じるのではないでしょうか。

藤田:自動車メーカーなどがこのごろローカルアダプテーションに舵を切り始めたりしていますが、そこで二面性だったり多面性を見せるのがブランドの幅になっている。グローバル化で世界が近くなっているからかもしれないですが、本国で品格訴求し、それも知ることができる日本ではちょっと遊んでみようとか、そういう二面張り、多面張りができるようになってきたように思います。

竹内:ラコステはもともとの発祥が、すごくエレガントなテニスプレーヤーが、自分が球を追う姿がまるでワニのようだと評されたのを面白がって、友人のデザイナーにワニのマークをつくってもらって自らのトレードマークにしてしまった。そのこと自体がチャーミングな遊びですよね。そういうDNAはもともとあるのかなと。あと、スポーツって勝利を目指すわけだけど、でもそこに「エレガンスがないと勝ったことにならない」みたいな、そういうDNAがあります。

小野:まだ日本の市場においては、そこが伝わっていないように思います。若い子たちにちゃんと伝えていって、長い生涯のファンになっていってほしいです。

竹内:若い人は多面的なものを求める傾向があるのかなと。例えば、一つだけの仕事をしているというよりは、ボランティアをやっていたり、彼らの人生そのものが結構多面的になってきたじゃないですか。あまり画一的なものに興味を持たなくなっている。

 

ファッションだからこその、体験価値を追求していく

小野:ここから3年間とか5年間、今後の展望はどうお考えですか。

竹内:今までのラコステの世界観があって、果たしてこれからつくっていこうというブランドが、本当にその延長線上にあるのか、もう少し形を変えていったほうがいいのか。もう80年以上も続いたブランドで、日本に来てからも50年以上たっていますから。

製品にしても、ポロシャツというアイコンをもっと追求していくのか、それともトータルライフスタイルブランドとしてのポジションを確立していくのか、方向性としてはいろいろあり得ます。日本の消費者にとって、どういうブランドのあり方が一番フィットするのか考えていかなきゃいけないですね。

藤田:リアルな店舗の体験価値を今後、どのように捉えられているのかも伺いたいです。

竹内:洋服というのは、着たときにそれがどうフィットするかは、やはり着てみないとわからない。手触り、手にとってみてその素材感を楽しむとか、そういう生ものでもあるので、お店はそういう意味ではすごく重要です。

我々の調査の結果でも、ファッションアイテムについてどこから情報を得ていて、どういうふうに選んでいらっしゃるのかというのを聞いたときに、もちろん雑誌は高いスコアで上がってくるのですが、「気になった製品があった」「ウインドーディスプレーが気に入った」というのも多い。あとは、街にいる人。人を見て「ああ、こういう着こなしがいいな、どこのブランドだろう」とか、「私が持っているこのアイテムにあれを合わせたらこうなるのかしら」と感じられるんですね。

ですから、店頭のウインドーはどうあらなければいけないのか、そこにいるショップスタッフが着ているもの自体が参考にされるんだったらスタッフはどうあるべきかというすべての観点で考えなければいけない。

藤田:特に若者はリテラシーが上がっていますからね。広告に懐疑的な人たちにとっては、暮らしがメディアというか、街を歩いている人がメディアであったりします。ウインドーディスプレーも脚色がかかっていない状況と捉えられて参考にされているのかなと思います。

小野:ここだけ頑張れば正解だというゴールデンポイントはなくなってきていますね。
全体をちゃんと、襟を正してつくるということがすごく重要な気がします。

<了>