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自らを語り事業を広げる
BtoB企業 攻めのコミュニケーション

2015/07/30

リーマンショック後、広告出稿が激減したBtoB企業だが、その後、徐々に収益が回復し、出稿も増加。アベノミクス効果もあってか、2014年度は過去最高の出稿額となった。なぜ、BtoB企業のコミュニケーションが活発化しているのか。その「今」を探ってみた。

[ Part 1 ]マーケティングの現場から

自社の持つ社会的な価値をいかに伝えるか

岸本:最近増えてきたBtoB企業の広告の狙いは大きく四つに分類できそうです。一つが、業界や自社の先進性や成長性を訴えるため。二つ目が、自社の技術による新領域進出を狙うケース。三つ目は、自社の主要技術がいかに社会に役立つか、本業でのCSR的側面を訴えるため。四つ目が、人材確保が課題となっている場合。このようなコミュニケーションが増えている背景について、どのようにお考えでしょうか。

南:日本の成長戦略としてイノベーションが求められている現在、BtoB企業の技術を成長領域にどんどん適用していけばビジネスチャンスも広がると、積極的な投資の機運が生まれています。既存顧客には展示会や営業によるアプローチでよいのですが、潜在顧客にリーチするには別の手段が必要です。BtoB企業には本来、製品というより技術力というか、潜在力を売っているところがあります。全くの新領域だったり、技術の適用領域が変化していく状況においては、自社で新規顧客を開拓するだけでなく、新しいパートナーとして自社を「探し出してもらう」必要がある。そこに、広告を打つ大きな意味があると思います。

岸本 航 氏 電通関西支社
マーケティング・クリエーティブセンター チーフ・マーケティング・プランナー 1999年電通入社。マーケティング・プランニング部門で、新製品開発、事業コンサルティング、コミュニケーション戦略の立案を行う。
BtoB企業のコミュニケーション診断をするBC-MAPの開発にも従事。

岸本:BtoB企業の技術力・潜在力を表出させるためには、その技術が一体何のために使われるのか、どう役立つのかを未来のパートナーに対して示す必要があるということですね。

南:また、ステークホルダーが社会との関わりを重視するようになり、社会に対するプレゼンスをもっと積極的に伝えたい、という思いも増してきています。企業が誇る技術がどれほど先進的か、さらに、それがどれほどの社会的価値を生むのか。これを広く社会に伝えることが、ビジネスチャンス拡大のきっかけになるのです。伝えるべき相手が広がっていることを考えると、しっかりと分かりやすく、ということが求められますね。

「ヒト・モノ・カネ」を呼び込むコミュニケーション

岸本:リクルートも、BtoB企業にとって大きな課題です。一般的にBtoB企業は学生からすると、詳しく調べないと何をしているのかよく分からない。 

南:今、学生が気にしているのは、自分の将来の姿がイメージできることと、いわゆる「ブラック企業」でないこと。学生との接点をしっかりつくってコミュニケーションを図っておくことは重要です。また、あらゆるものがインターネットにつながる「モノのインターネット」(IoT)が進み、モノづくりの方法そのものも大きく変わる中で、必要な人材も変化していくはずです。その意味でも、企業が目指す方向性について社会的理解を得ることは、重要だと思います。

岸本:イノベーションには当然、資金も必要です。BtoB企業の広告には、投資家に好印象を与えたいという期待もあると思うのですが。

南 知惠子 氏
神戸大大学院経営学研究科教授 1984年神戸大卒業後、ミシガン州立大コミュニケーション学科で修士号、神戸 大大学院経営学研究科で博士号を取得。横浜市立大商学部助教授を経て、2004年から現職。専門はマーケティング。主著に
『生産財マーケティング』(共著、有斐閣)、『サービス・イノベーション ―価値共創と新技術導入―』(共著、有斐閣)。

南:例えば人工知能やロボット、センサーといった、技術的にイノベーションが起きている領域であっても、投資家は、投資対象の企業が本当に成長戦略を実現できるのか、厳しい目を向けます。そこはやはり、コミュニケーションでうまく伝えないといけません。

岸本:お話をまとめると、先進性・社会性・成長性といった企業の社会的存在価値をコミュニケーションによって伝えていくことで、潜在的な顧客との接点をつくり、ビジネスマッチングなどのための情報を得る。そして、リクルート支援や投資家からの資金集めにも資する。BtoB企業の広告は、経営資源である「ヒト・モノ・カネ」を呼び込む役割が大きいということですね。日本は少子高齢化社会で、エネルギー問題も抱えている。世界的に見ても課題先進国です。コミュニケーションの力を活用しながら、こうした課題を解決することによって、その成果をどんどん海外に持っていけるチャンスが生まれるのですね。

南:その通りです。単に物をつくって売るのではなく、どういうビジネスを展開すれば世の中に「価値」を提供できるかを、いろいろなリソースの組み替えもしながら追求していかなくてはなりません。

BtoB企業の広告は、「経営」と非常に近い意味を持つ

岸本:従来の日本のBtoB企業は、限られた顧客と取引をすれば、ある程度の成長が見込めた。しかしリーマンショック以降、それが崩れ去り、新しいお客さんを見つけなければならなくなった。あるいは、新しいビジネスシステムをつくり出さないと、生き残れなくなった。そういう中で、やっと景気も少しずつ上向いてきた。だから、BtoB企業のコミュニケーションが増えてきたのですね。

南:打って出たいところが違ってくると、企業イメージやビジネス自体も変えないといけない。だからこそ、「ヒト・モノ・カネ」を集めるために、自社の技術やその社会的価値の理解を得るコミュニケーションが重要になる。株価も敏感に反応するでしょう。

岸本:BtoB企業の広告は、企業経営そのものと非常に近いという点が特徴だと思いました。どうもありがとうございました。

 


[ Part 2 ]経済ニュース番組の制作現場から

 


今こそ新たなブランド戦略のチャンス

「ワールドビジネスサテライト」という番組は「自分につながる経済ニュース」がコンセプト。だからこれまでは、視聴者に身近なBtoC企業を取り上げることが多かったのが実情です。とはいえ上向いてきた景況感を背景に、BtoB企業でも、例えば、今のうちにより良い人材を確保しようとするなど、さまざまな目的を持って積極的に情報発信する企業が多くなってきています。また一般にBtoCのイメージのある企業でも、BtoB分野の事業を強化しようとする動きを強く感じますし、産業界全体を俯瞰(ふかん)したときに、BtoB領域での情報発信が強化されている印象を受けますね。

ワールドビジネスサテライトでも、「ニッポンの素材力」という新コーナーを設けるなど、BtoB分野を強化しようとしています。イノベーティブな素材技術や高い競争力のある技術がどう世の中に役立っているかを取り上げると、やはり視聴率にも好反応が表れます。日本のBtoB企業には、世界の最先端で戦う製品や技術がたくさんあり、私たちも取材に行って驚かされます。映像的にも非常に興味が湧くコンテンツではないかと思います。

テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」
名倉 幸治 氏
テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」プロデューサー
1989年日本経済新聞社入社。名古屋支社、本社消費産業部(現企業報道部)で、日本を代表する大手企業の海外進出や経営破綻などを取材。2008年にテレビ東京に出向。14年4月から現職。

BtoB企業は広報が手薄と見られてきましたが、最近は、自社の技術力を開示することに各社とも非常に積極的になっています。また取材を通じて、広報の方と現場とのコミュニケーションが生まれ、それによって再び露出の機会が増えているのではないかと感じています。今後、さらにコミュニケーション分野で存在感を示していくには、業容に加えてBtoBビジネスの魅力や、高収益企業であることをアピールするなど、情報発信力をもっと強めていく必要があるでしょう。経営トップがメディアに出て、企業ブランディングにつなげるという戦略もアリだと思います。世間での認知度がまだ高くないということは、その分、新たなブランド戦略のチャンスがあると考えるべきではないでしょうか。

BtoB企業は日本経済の中で大きな存在感を持っていることは言うまでもありません。経済ニュース番組の制作者としては、BtoC企業とのバランスにも配慮しながら、さまざまな知恵を絞り取り上げていく機会を増やしていけたらと思います。

 


[ Part 3 ]クリエーティブの制作現場から

 


「あの成功事例」にはワケがある、
押さえておきたい三つのポイント

さまざまなBtoB企業のクリエーティブを担当する中で、企業コミュニケーションに大切なことは、およそ三つのポイントに集約されるのではないかと考えています。今回は具体的な事例と共に、ぜひ押さえておきたい点を紹介します。

一つ目は業容や事業ドメインの告知です。例えば、イシダは「異物検出装置」という自社の特徴的な製品技術をユニークなCM(写真①)で表現。世の中における必要性や技術力の高さをメッセージしました。またカネカは、「カガクでネガイをカナエル会社」というキャッチコピーに社名を織り込みつつ、カガクという事業ドメインや企業理念を訴求しています(写真②)。このように、知名度が高いとはいえないBtoB企業にとっては、視聴者の理解や納得を得るためにも、名前だけではなく“何をやっている会社なのか”を併せて伝える必要があります。

辻本 卓 氏
電通関西支社 関西プロモーション・デザイン局 コピーライター
1999年電通入社。コミュニケーション戦略の立案から、映像・グラフィック・ウェブ・プロモーションの表現開発、制作までを統合的に行う。幅広い作業経験を持ちBtoB領域にも精通。

二つ目は幅や奥行きのあるフレームづくり。村田製作所は「村田製作所チアリーディング部」など、自社技術を見える化、キャラクター化したものを企業コミュニケーションの核として展開。CM(写真③)での技術力の訴求にとどまらず、展示会などではそれを見たさに来場者がどんどん集まるなどの集客効果も生み出しています。また、大阪国際女子マラソンを協賛するNittoは、大会ゼッケンでの社名露出や中継でオンエアされるCMだけでなく、インターナルブランディングとしての活動(社員のマラソン参加、大会ボランティア、家族も参加する社内イベントなど)を連動させて行っています。このように、CMなどを核としつつも、各施策を有機的に連携させることで、効果や影響を最大化させることができるのです。

三つ目は継続性。さまざまな社会的問題に対して自社の製品や技術での解決を提示する、旭化成の「昨日まで世界になかったものを。」シリーズは、CMだけでもすでに14本を数えます(写真④)。ひとつのメッセージを、一つ一つの“事実”を積み重ねて伝えることで、世界中の人々の命や暮らしに貢献する企業姿勢を印象的に残しています。はっきり言って、BtoB企業の真の姿を一足飛びで伝えるのは難しい。それゆえに、こういった継続性は、コミュニケーションの重要な鍵になっているといえるでしょう。