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業界人のためのYouTube論No.1

YouTuberだけが知っているWeb動画のルール

2015/07/29

世界最大の動画プラットフォームYouTube。そこでは動画を作る・見る、というあらゆる場面において、個人も、企業も、YouTuberも、みな平等な立場でこのプラットフォームを利用しています。そんなYouTubeを、広告の出稿先として、さらにはコミュニケーションの場として、企業のマーケティング活動ではどのように活用していくべきなのでしょうか。

7月、都内にあるYouTube Space Tokyoで様々な立場からYouTubeと向き合う面々が集いディスカッションをしました。メンバーは、YouTubeのキャンペーン「好きなことで、生きていく」にも起用されたYouTuber・はじめしゃちょー、日本エレキテル連合の2組と、YouTubeのプロダクトマーケティングマネージャーを務めるGoogle・長谷川泰氏、電通のクリエーティブ・ディレクターの東畑幸多氏、そして電通でGoogle/YouTubeとのアライアンス業務を担当する池上直人氏。

この6人が、なぜいまマーケティングの視点でYouTubeが注目されているのかを、あらためて考えていきます。

こうしてYouTuberになった

池上:今回は、いまYouTubeで何が起きているのか、皆さんとのやりとりの中から浮き彫りにしていきたいと思っています。最初に、はじめしゃちょーさんと日本エレキテル連合の2組がYouTubeに動画を投稿するようになった経緯を教えてください。

はじめしゃちょー(以下はじめ):私は現在大学生4年生なんですが、入学したての頃はサークルの仲間と身内でワイワイとバカなことをして楽しんでいました。ですがある時からその内輪ウケな感じが物足りなくなって、どうせなら何かもっとデカいことやってみたいと漠然と思ったのがきっかけです。

YouTubeなら世界中の誰もがログインの必要もなく軽い気持ちですぐ見られるのが良いなと思いました。あと自分自身もYouTubeでよく動画を見ていたので、視聴者の目線で動画を作って親近感を持ってもらえるようなものを作れると思いました。

池上:最初はどんなネタを?

はじめ:鉄板ネタですが、炭酸飲料にラムネ菓子を入れたらどうなるか、という動画です。ただ、最初は13回しか再生されず、ほとんど自分で見ているような感じでした(笑)。

池上:その後たくさんの人に見てもらうために、どのような工夫をしていきましたか?

はじめ:やはり見られないとつまらないので、もっと視聴者が驚くようなことをやろうと思いました。例えば当時バイトをしていたコンビニのパンを全部買い占めてみるなど、人がしないだろうけれど、見たいだろうと思うことをやっていましたね。自分がやってみたいことは、視聴者も見てくれるだろうと思ったので。最近では、一輪車を100台つなげて乗ってみたり…(笑)。

池上:日本エレキテル連合さんの場合は、お笑い芸人として活躍されている中で、YouTubeの動画を投稿し始めたわけですよね。今年でもう3年目ですが、きっかけや、テレビや舞台など、他の表現の場との違いについて教えてください。

日本エレキテル連合(以下エレキテル):私たちはコントをたくさん作っているのですが、テレビや舞台だけでは発表の場が限られます。舞台だと席数によって見られるお客さんが限られてしまいますし、来られる方にしか見てもらえない。東京で公演をやるときには遠方にお住まいの人、お仕事などで都合がつかない人には見てもらえませんが、YouTubeだと自分の好きな時間に見てもらうことができる。あと舞台とは違って、例えば指先にキズがあるとか、ほくろがあるなど、編集やカメラワークによってディテールを強調したネタ作りも成立します。

一方テレビでは、これは大事なことだと私たちも考えてはいますが、番組のプロデューサーさんなど“他者の手”が加わるんです。もう少し具体的に言うと、私たちのネタはオチを重視しません。ただ、テレビでは視聴者に安心して番組を見ていただくための「型」のようなものがあるので、きちんと起承転結やオチがあることが重要です。自分たちもテレビで他の芸人さんのネタを見ている時にオチがないと、アレって思うのでよくわかるんですが。

その他には、視聴者に伝わらないから説明してほしい、と言われることもよくあります。でも私たちは、いかに言語化せずに内容を伝えられるかに力点を置いているので、言葉による説明が一番嫌いなんです。私たちがディテールにこだわった格好や、極端なメークをするのは、そうすることで状況説明などの言葉を削れるからなんです。

私たちのコントは、その内容や中身で見せたいことを表現できれば、オチを作らずフェードアウトでもいいんです。それをやってもYouTubeなら何も言われないし、チャンネルは私たちが管理しているので誰にも迷惑をかけない。その意味で作品をお客さんに届けるための最適な方法だったんです。

あと知名度が低かったときには、私たちはこんなネタをやっていると、名刺代わりにYouTubeへ動画を投稿したことを覚えていますね。

 

ソーシャルメディア時代の作品づくり

池上:YouTubeでは様々なコメントがダイレクトに寄せられると思いますが、そうしたものは、自分たちの作品にどんなふうに取り入れているんですか。

エレキテル:コメントに対してはあえて裏切ることで、期待にこたえています。こう来たかとか、良い意味で裏切られた、ということが見ている人にとって驚きを与えられると思うので。

私たちのYouTubeチャンネル「感電パラレル」では芸能事務所にたくさんタレントが所属しているようなイメージで、100種類以上のキャラクターのネタを用意していて、その中で「みのりおばあさん」というのがあります。このおばあさんはネタの回を追うごとに元気がなくなっていって、視聴者から「みのりおばあさん、体調悪そう、大丈夫ですか? 絶対に死なないでください」というコメントがたくさん来たんですね。なので、ある日突然いなくなるという設定にして、死を連想させる展開にしました。

池上:なるほど、そのような応え方をするのですね。視聴者の期待通りにするのであればおばあさんが元気になるというパターンがありそうですが、あえて逆の方向に展開させたんですね。確かにそれも視聴者に対するリアクションですね。はじめしゃちょーさんは?

はじめ:コメントは結構返すんですね。「面白かったです」といったら「ありがとう」とか、「つまらん」という内容には「すいません。ぜひ、他の動画を見てください」という感じで、コメントでコミュニケーションをしています。ただ、ネタ作りに関しては要望にすべて応じるわけではなく、自分の表現したいことと照らし合わせて判断しています。まさに「好きなことで、生きていく」という言葉通りで、YouTubeでは自分が楽しむことも大事にしているので、リクエストにはないけれど自分がやりたいネタを投稿することもしています。

池上:視聴者とのダイレクトなやりとりのほかに、YouTubeのプラットフォームとしての魅力について、長谷川さんから教えていただけませんか。

長谷川:まず、YouTubeに限らずオンライン動画には時間と場所の制約がないことが最もわかりやすい魅力です。

また表現の部分でも、枠の制限がないためクリエーターの方に色々なことを試していただけます。たとえば日本エレキテル連合さんがおっしゃった通り、それこそ100種類以上ものネタやキャラクターを試行錯誤しながら、視聴者の反応を見ながら育てていける。このようなオンライン動画ならではの魅力をこの2組は非常によく研究してコンテンツ作りをしている。このあたりも人気の秘訣なのかもしれません。

さらにYouTubeとしては、クリエーターが常に新しい映像表現をできるように、新しい技術を開発し続けています。例えば今年の6月から「8K」という超高精細画質の動画のアップロードと共有に対応しました。地上デジタル放送の約16倍の高画質で動画を共有することができるようになっています。また、はじめしゃちょーさんは既にご活用いただいていますが、360度全方位動画の投稿・視聴も可能です。もちろんテクノロジーそのものに加え、世界中にそれらを活用して日々チャレンジしているクリエーターが多くいることもYouTubeの魅力だと思います。

 

ウェブ動画はどうすればバズる?

池上:プラットフォームとして、クリエーティブが生まれやすい土壌を作る努力をし続けているんですね。そんなYouTubeにおいて、クリエーターさんたちは、どんなコンテンツを提供して、どのようなものが受け入れられているんでしょう。日本エレキテル連合さんはどうでしょうか。

エレキテル:「セミちゃん」というキャラクターがいるんですが、これはYouTuberをちょっとディスっているんです。商品紹介をして、グタグタで、いわゆる“中二病”という設定で(笑)。私たち自身もYouTuberなので愛すべき存在として楽しんで演じているんですが、テレビでは視聴者に伝わらないだろうと却下された経緯があります。ところが「感電パラレル」で実際にやってみると、キャラクターの人気ランキングでトップクラスになっています。こういったネタはYouTubeでないと世に出ないネタだなと思います。

東畑:テレビとYouTubeは、前提となるルールが違いますよね。テレビは広い視聴者層に受け入れられることを求められるんですが、YouTubeではいかに個人のツボに深くハマるコンテンツを作れるかが重要なんだと思います。そして、それが結果的に広まっていく、ということなんでしょうね。

長谷川:そうですね。視聴者の多様なツボをおさえるという意味ではとにかく多くの動画をアップすることが、成功しているクリエーターに共通して見られる特徴ですね。この二組はほとんど毎日動画を投稿しています。毎日動画を見ていると、まるで毎日会っているかのような親近感が湧いてくる。こういう親近感や距離感の近さが、多くの視聴者がYouTuberの動画にハマる理由の一つになっているのだと思います。

池上:毎日更新することは心がけているんですか?

はじめ:そうですね、大学の都合で忙しいなどの時以外は、毎日更新しています。

エレキテル:毎日投稿することは大事なことですが、当然毎日やっているとネタが詰まってしまう。でも詰まった中で出すものが自分たちの本質だったり、やりたかったことだったりする。だから苦悩の末に出たネタは意外と反応が良いことが多いですね。例えば高須クリニックの高須克弥先生を題材にした「高須クリ子」というキャラクターは、不自然すぎるほど整った顔をメークで表現していて「Yes」しか言わない。これもネタが詰まったときに出てきたものですが、Twitterを通じてネタ元になった高須先生が反応してくれ、現在ではコラボ映像を作るところまで発展しました(笑)。

池上:配信頻度などが自由なプラットフォームでも、あえてご自身に制約を加えることで逆にアウトプットの質が高まるということですね。


ここまではクリエーターの視点を中心に、YouTubeに代表されるオンライン動画ならではの作品作りや視聴者とのコミュニケーションについて、はじめしゃちょー、日本エレキテル連合の2組にうかがいました。次回はマーケティング活動におけるYouTubeについて、企業の視点を加えながらひもといていきます。

※第2回:「広告業界人が語る、バズるWeb動画とは」
※第3回:「YouTuberが明かすファンからの“愛され方”」