雑誌編集者に聞く、「編集力」とは何か? #06

ネットで検索できない、埋もれているモノを探す

  • 江部 拓弥
    株式会社プレジデント社 『dancyu』編集長
  • Naga1 profile
    永松 繁隆
    株式会社電通 CDC 主任研究員

コミュニケーション手法が多様化するにしたがって、情報を独自の視点で加工し発信する「編集力」の重要性が高まっています。その「編集力」の秘訣について、出版社の編集者と電通のクリエーターが対談。それぞれの考える「編集力」を明らかにしていきます。

今回は、雑誌『dancyu』の編集長を務める江部拓弥さんと、ウェブサイト「うまいもんプロデューサー」の運営に携わる電通CDC主任研究員の永松繁隆さんが、「編集力」について対談しました。

 

「おいしい」は絶対値ではない。だからこそ物語にこだわる

永松:私は今、「うまいもんプロデューサー」というコミュニティーサイトを手掛けています。地方の“うまいもん”を作っている事業主をサイトでご紹介して、そこに全国6万5000人の「うまいもんプロデューサー」がサイト上で直接アドバイスします。外からの目線が入ることで、商品をもっと魅力的にする、そして商品を買って応援してくれる仲間を作る、そういう循環を作ることを目指しています。最近は地方を回って、とにかくうまいもんを探しているような生活で。dancyuさんは、四半世紀も前からそれに取り組んでいる大先輩だと感じています。
世の中にたくさんのお店や食べ物がある中で、dancyuさんならではの見立ての基準とか選び方はあるのでしょうか。

江部:私たちも夜な夜な飲むわ食うわの生活で、よく周りからうらやましがられます。「うまいものばかり食ってるから太るんだ」と言われたり(笑)。でも、こちらもあくまで仕事なので、「好きで太ってるわけじゃない!」というのが本音なんですけどね。

それはいいとして、お店や商品を選ぶときの基準ですが、実はそこまで「おいしさ」に重きを置いていないんです。極端に言うと“まずくなければいい”くらいの意識で。というのも、たとえみんながおいしいと言うお店でも、体調が悪かったり、嫌いな人と行ったりするとまずく感じるかもしれません。そう考えると、おいしさって実は絶対値じゃないんですよね。なので、おいしさだけを基準に載せることはしません。こちらが重視するのは、お店のストーリーや作る人のこだわり、思い。それらは揺るがないものなので、この要素を伝えたいと考えています。

永松:私も、「おいしい」ってもう当たり前なのかなとすら思うんです。それよりも、「おいしい」の後ろにどれだけの物語が乗っているかが重要かなと。

ただ、作り手の人は、得てして作り手としての真面目さや努力の方を「当たり前のこと」だと思っていて、ことさらに言わない。その結果、みんなが興味を持ち得るストーリーに光が当たらず埋もれている。本当に面白いのは商品のスペックではなくて、人の動機とか思いとかなんですよね。だからこそ、それを見つけていきたい。

江部:私たちも、雑誌を作る上で強く意識しているのは、「ネットとは別のものを作ろう」ということ。ネットで検索できない情報を紙に入れることで、価値を生み出そうと思っています。そういう意味では、編集部の人間がお店や作り手との付き合いを持っているので、そこから入る情報をもとに足を運んで、検索しても出ないような“埋もれている”こだわり・物語を引き出そうとしています。

永松:「検索できないものを見つける」というのは、すごく面白いですね。雑誌編集者だからこその視点だと感じます。地方に入り込んで見ると、食材とか調理法とか、天候とか地理的な条件とか歴史も含めて、似たような背景でも全然違うものが地域ごとに立ち現れたりする。ある種の文化に類するものは、やはり検索では出てきませんよね。それらを見つける力が、ひとつの編集力なんでしょうね。

 

手に取りやすくするための、デザインとユーモア

永松:情報のセレクト以外で、誌面を作る際に意識していることはありますか。例えば、dancyuは2013年1月にバージョンアップされたそうですが、そのときに心掛けたことなども伺えれば。

江部:バージョンアップのときはとにかく必死でしたが、その中で思っていたのは、どれだけ良い写真とデザイン・絵を見せられるか。なかなか文字は読んでもらえなくなっているので、ビジュアルを重視しましたね。

ただ、ビジュアル重視といっても、あくまで“オシャレ過ぎない”ように。食を扱う雑誌なので、オシャレ過ぎると読者にとって少し遠くなるんです。なので、ちょっとあか抜けない感じを保つように気を配ってやりました。そのこだわりは今も続いています。

永松:オシャレ過ぎない、っていうのはすごいですね。カレー特集(2015年8月号)の表紙なんて、まさに。「飲むカレー」と書かれた紙パックのイラスト(笑)。ディテールが詰まっているから、本当にありそうな気すらします。中を見ても、ちょっとした写真やイラストがすごくかわいいです。ユーモアも効いてますよね。

江部:自分の考えとして、ユーモアは絶対入れたいんですよね。先ほど言ったように、なかなか文字を読んでもらえない時代で、しかもdancyuは値段の高い雑誌。高級店ばかりが載っている印象を持たれることもあります。だからこそ、「できるだけ手に取りやすくしたい」と。その手段として、特に表紙のビジュアルとユーモアにはこだわっています。デザイナーの方にもだいぶ苦労をかけていますね。カレー特集号の表紙も、50通りほど出してもらって…。

永松:50通りですか! すごい! デザイナーさん大変ですね…。検索で出てこないストーリーやこだわりといった重厚なコンセプトがベースにしっかりあって、一方でビジュアルやユーモアにもしっかりこだわり、読者が手に取りやすい工夫もする。編集という「ものづくり」の熱気が、dancyu一冊に詰まっているんですね。

 

企画を考えるときは、たった1人にウケるかで判断する

永松:dancyuは創刊25年で、これだけ長く続くと、作る上では逆に相当な苦労があるのではないでしょうか。今までの歴史を受け継ぎつつ、でも新しさも生み出さなければならない。「ゼロから新しいものを作る方が、かえって簡単なのでは」とさえ思ってしまいます。

江部:そうですね。歴史が長い分、初期からの読者もいれば、途中からの人、さらに新しい読者もいて、読者の構造はすごく複雑になっています。世代もいろいろですし、よく聞くような「昔は良かった」と言われることもあるかもしれません。

永松:その中で、読者との接点というか、どのように読者のニーズや興味を知ろうとされているんでしょうか。

江部:はがきやアンケートを見ることもあるんですが、正直なところ、読者のことはそんなに意識していないんです。こんなふうに言うと、社長に怒られるかもしれませんが(笑)。確かに、読者ターゲットを聞かれれば「40代男性」と答えることもあります。でも、40代男性といっても、住んでるところや育った環境、今の環境などで違うので、ひとくくりにできないですよね。むしろ、余計にぼやけてしまうんです。

永松:なるほど。そうすると、編集長として企画にゴーサインを出す判断基準というか、「今回はカレー特集でいこう」と判断するポイントはどの辺に置くのですか。

江部:企画の判断基準は、まず1人の読者をイメージして決めます。読者というか、私が知っている1人をイメージして、「この企画ならあいつは面白がってくれるかな」と。カレー特集号(2015年8月号)でいうと、「そういえば、あのカメラマンはカレー好きだったよな。じゃあ、こんなカレー企画やったら面白がってくれるかな」というのが出発点でしたね。そして、その周辺記事については「あいつはスリランカカレー好きだったけど、他にどんなカレーを喜ぶかな」と考えて広げていきます。ですから、最初の判断基準は1人。その人が喜ぶかどうかが、企画の出発点なんです。

永松:私も入社した頃、仕事を教えていただいていたフリーのコピーライターの児島令子さんに、「女子高生のコピーを書くときに、『女子高生ならこういうのがウケるんじゃないか』と、女子高生という“マス”で考えてはいけないのよ、あなたの中の女子高生を呼び覚ますのよ!」と言われました。江部さんがおっしゃっている「出発点が1人」というのは、まさしく「マスで考えてはいけない」ということに通じる気がします。

江部:そう言っていただけるとうれしいです。それと、dancyuは100ページ以上ある雑誌なので、出発点は1人の企画でも、そこから広げていって1冊ができたとき、1冊のどこかに読者一人一人の引っかかるところがあればと。いろいろな世代の読者が、それぞれ1カ所でも興味を持ってもらえればと思っていますね。

 

言葉にしないことが、イメージや感覚の共有につながった

永松:そういった企画の考え方やデザインの良し悪しなど、“江部さんならでは”の感覚をどうやって編集部全体で共有していくか。チームとして何か工夫をされているんでしょうか。

江部:それについてはすごく下手なんです…。自分はあまり言葉を持っていなくて、スタッフに企画やデザインの何がいけないのかを聞かれても、「いや、ピンとこないんだ」と。いつもそればかり。本当は論理的に説明できればいいんですが、それができずにここまできました。ただ、言葉にできなかった分、スタッフが感覚で分かってきてくれたかもしれません。

永松:私はその反対で、言い過ぎてしまうんですよね。ただ、具体的に「ここが悪いと思うんだよね」と言っちゃうと、もうその方向にしかまとまらなくなる。確かに言った通りだけど、ピンとこないケースも多々あります。そう考えると、言葉にしないということは、逆にすごく大事なのかもしれませんね。

江部:個人的には、もう少し言葉で説明できればと思うんですけどね。修正指示の出し方を聞かれて、「俺も分からないよ」と答えてしまったり…。とにかく感覚的に決めてしまうので、スタッフには「自分は朝令暮改だし、面白いと思ったらすぐ気が移る。だから、それに一喜一憂しないでくれ」と言ったくらいです(笑)。

永松:おお、潔いですね。なかなかそういう勇気が持てないです。でも、先ほどおっしゃっていた「言葉にしない大切さ」を共有するからこそ、いろいろな人と広く深くイメージを共有することができるのかもしれませんね。これはもう、「編集力」の奥義といえるような気もします。言葉にしないからこそ、むしろ多くの人に伝えられることがある。おしゃべりな自分を反省したいとも思います…。
今日は本当にどうもありがとうございました。

 

<了>

 

プロフィール

  • 江部 拓弥
    株式会社プレジデント社 『dancyu』編集長

    プレジデント社入社後、雑誌『PRESIDENT』編集部などを経て、2012年から現職。
    同誌の特集がきっかけで日本酒ブームに火がつくなど、食のトレンドを発信し続けている。

  • Naga1 profile
    永松 繁隆
    株式会社電通 CDC 主任研究員

    1996年電通入社。8年間を関西支社、東京本社でコピーライターとして勤務。
    2004年からサッカー事業局(現スポーツ局)。日本サッカー界周辺の新規プロジェクトの立ちあげに数多く関わる。
    2011年からプラットフォーム・ビジネス局。2013年10月に「うまいもんプロデューサー」立ちあげ。高い志を抱く企業や個人の支援に意欲を燃やしている。
    本業はフットサルと自称。

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